第18話 対話は大事です
まさかの新人類との遭遇は、混乱を極めた。隕石が衝突した際、人類は一度、滅んだ。そう思っていたのに、見た目は全然違うけれど、人類らしき人達が誕生していたのだ。
「おい。そいつらに危険はないのか?」
後ろを振り返って見れば、いつの間にか、武器を片手に、ウィルが背後から守ってくれていたようだ。
「えーと。無害かどうかはまだ分からないかけど、敵対する気はないみたい。
天辺杉への攻撃を止めてほしいって言ってるだけだから」
「言ってる?お前、あいつらが何を言ってるのか分かるのか?俺にはキーキーとしか聞こえないが」
「うーん。聞こえると言うより、シンパシィを受けとったって感じかな?私も彼らの言語を理解している訳じゃないから」
「訳が分からん。テレパシーみたいなもんか?」
「あー。そういう感じかな?」
ウィルは首を捻りながら、ひとまずは納得してくれたようだ。
私が、彼らの主張を伝えると、皆は、一様に驚いていた。
自分達以外の、人類と言ってもいい種族がいたこともそうだが、彼らの住処が補食する大樹・天辺杉であることにもだ。
「天辺杉を切るなって?あの木が住処だから?そもそも、何であいつらは無事なんだ?近寄る者全てを補食するんじゃないのか?」
もっともな疑問だ。私は、ウィルの口にした疑問を率直に彼らにぶつけてみた。
『マザーは、我々のような、意志の通じる相手がいたことが嬉しかったみたいです』
聞けば、気が遠くなるような時間、いや歳月を天辺杉はたった一人で、いや、一人と言っていいものか、過ごしてきたらしい。
「天辺杉…。ええと、あなた達のマザーのような存在は他にはいないの?」
緑色の人達の代表である彼は、ふるふると首を振った。
『いません。僕らは、ここからずっと遠い場所からやって来たけれど、マザーと同じか、それぐらいに大きな樹をみたことはありません』
意思ある大樹は、天辺杉一本であるらしい。少なくとも、この辺りに限って言えば。地球は広い。もしかしたら、もっとずっと遠い場所に行けば、同じ存在を発見出来るかもしれない。ただ、辿り着けるだけの準備や技術が、今の私達にはない。
飛行機で世界を飛び回ることも、自動車や鉄道で陸地を自由に駆け回ることも、大海原を大型の船で巡ることも出来ない。
かつて、そうした技術はあった。しかし、それを復活させるまでには、まだかなりの時間を要するだろう。
「私には理解できないけれど、あなた達からマザーに、近付く者を補食することを止めるように言ってもらえないかな?
私達は、私達の精神に干渉する存在が正直、恐ろしいの。あなた達にとっては、大切なマザーなんでしょうけど、私達にとっては驚異よ。放置することは出来ないって言うのが、上の判断よ。
私は、ちょっと乱暴過ぎると思うんだけど、防ぎようのないことなら、最もだとも思うのよ」
今の時点では、マザーの攻撃範囲がどのくらいなのか分からない。もちろん、調査をすればある程度のことは分かるだろうが、それが今後、広がらないと言う保証もない。となれば、私達の行動は大きく制限されるだろう。
この先、人口が増えれば、住む場所も行動範囲も広がるだろう。
それにはマザーの存在は驚異でしかない。
『マザーも生きているのです。食べなければ、死んでしまいます。あなた方はマザーに飢えろと言うのですか?』
「そうは言っていないわ。ただ、補食のやり方がまずいって言っているの」
『補食?マザーの餌の捕らえ方のどこがいけないのですか?』
コテリと首を傾げた。
あ、これは本当に分かっていないんだと、私は思った。
『あのね。誰だって、自分の意思に関係なく、意識を奪われるのは恐いの。それは理解出来る?」
『はい。私だって、そんなのは嫌です』
「そう。あなた達はマザーと意思疏通が出来たから、意識を奪われたりしなかったけれど、もし、出来なかったら、こうして皆が無事でいられたと思う?
もしかしたら、あなた達がここに逃げてきた時点で全滅していたかも知れないのよ?」
『…それは、考えてもみませんでした。我々は、元々は植物から誕生した種ですから、同じ植物を敵と見なしていませんでしたから』
聞けば、食肉植物の前であっても彼らは素通り出来るそうだ。同じ植物として認識されているかららしい。
「私達は人間と言う種なの。植物が起源だと言う、あなた達とは、少しばかり違うけれど、同じように意思疏通が出来るし、感情もある。
それなのに意識を奪われて、覚めない眠りにつかされて、肥料にされるのよ?
冗談じゃないって思うのは、当然じゃない?」
『それは…理解出来ます。我々も補食される側ですから』
「だからね、譲歩をしてほしいの。私達は、あなた達のようにマザーと直接会話が出来ない。代わりにあなた達が橋渡しをしてちょうだい。私だって、こんなに立派な杉の大木を切り倒したいとは思わない。
マザーは、まさに新しい地球の生き証人みたいなものだと思うから」
私はそう言って、彼らの背後にそそりたつ大樹を見上げた。
『新しい地球…。それは、この大地のことを指しているのですか?』
「ええ、そう。ここは地球。かつて、私達と同じ人類が大勢暮らしていた場所なの」
『…地球』
地球と言うフレーズは、何かしら、彼らの心の琴線に触れたようだ。
「縁あって、意思を通い会わせることが出来る存在に出会ったのだから、それを大切にしないとね」
『私も、マザーと仲間以外に会話が出来たのは初めてです。
驚いたけれど、嬉しく思っています。出来るならば、仲良くしたい』
こうして私達の利害は一致した。彼、名前を教えてくれたのだけれど、私には理解出来なかったので似たような音の響きで名前を付けてあげた。
「キーン、と言うのはどうかな?」
彼の発した名前は、ジェット機の発進音に近かったので。安易だが。
『…キーン。何だか格好いいですね』
何故だか、テレテレと照れられた。
「あ、うん。気に入ってくれたなら、良かった。私は早希って言うの。よろしくね」
『サキ、ですか?不思議な響きです。花のような名前ですね』
「ええと、そうなの?」
『はい』
えー、照れるなあ。花って、そんな…。
私達は、二人揃って、テレテレした。
そんな私達を近くで見守っていたウィルが、
「気色悪っ!」
と、言っていたのは幸いにも?、私の耳には届かなかった。
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