第30話 新しい馬車

 「二人は今日からシルバーランクに昇格です! 高難易度の依頼をより高い評価で達成されていた為、ハクさん達の周りの評価もあって、シルバーランクへの昇格を認めました」


 僕はガレオン魔導都市魔物研究所から多額の報酬を受け取り、これからそれを使おうとした時に、冒険者ギルドの受付さんに呼び止められ、まさかのシルバーランクに昇格する報せを受けた。

 これで漸くグレイ達に追い付いた。まだあの三人はシルバーのままでいてくれているかなぁ?


「グレイブ、やったね。シルバーでは僕の知り合いがあるんだ。これから更に名声を得やすくなれると思うよ」


『ほう。知り合い?』


「うん。僕が冒険者になり始めた頃に手伝ってくれた人達がいてね。三人共仲良しでさ、全然悪い気はしないんだ。……ってあれ? グレイブちょっと影濃くなった?」


『え?』


 グレイブの霊体。最近は周囲の人達がグレイブを自然と視認していたことに何ら気にすることは無かったが、前回まではそこに人がいると意識すれば見える程で何かと透けて見えていた。

 けど今は特に意識せずとも見え、透けていることもないが、やっぱり霊体のせいか若干体が浮いていた。


「自然で気付かなかったけど、良く見てみれば変わってるね。でもなんの変化なんだろう?」


『んーこれは憶測だけど、幽霊って本来は見えないからこそ視認されることが存在意義になって周囲の認知度が身体を変化させるんじゃないか? このままいけば幽霊としてではなく本当に現界できるようになるんじゃないかな?』


「ふーん。それならいいね。グレイブはこれから皇帝になる人間だ。流石に幽霊のままじゃいられないよね」


『あぁ、そうだな。幽霊が王という国なんて聞いた事が無い』


 さて、そろそろ冒険者ギルドを出発しようかと思うと、受付さんがもう一つと言って僕を呼び止める。


「シルバーランクになると冒険者として新しい権限が与えられます。それは、伝書鳩です!基本は迅速に遠くの人間に伝言を伝えることが出来るのが目的ですが、今回のガレオンからの報酬のように連絡が一週間以上かかっては埒が明かないでしょう。

 そこでこの伝書鳩。一回1,000オロを必要とするのですが、どうしても速く行動や結果を出したい時に伝書鳩で相手に伝言を伝えれば、相手側も出来る限り速い方法を選ぶでしょう」


 なるほどね。荷物運びまでは出来ないけど、相手に急いで欲しいとかを伝えるときに使えるのか。あぁ、この伝書鳩がブロンズの時点であったらガレオンにもすぐに伝言を伝えられただろうに。

 今回の依頼者の人柄なら一日も早く行動を起こしただろうからね。


「そりゃ役に立ちそうだ。まぁ、今は必要無いから良いよ」


「あぁ、いいえ。こちらの首掛け笛を使えば、近くを飛んでいる伝書鳩が飛んでくるので使って下さい。その際の使用料は手紙と一緒に小包で持たせれば良いので。

 伝書鳩はみんな頭が良いんですよ。お金を持たせて上げないと飛んで行ってくれませんし、届け先不明でも曖昧な地形と人の特徴を教えれば高確率で届けてくれるんです!」


「ふーん。それはすごいね。下手に悪用されることも少なそうだ」


銀色のチェーンに金の小さな笛がついた首掛け笛を渡された。首に掛ければ少し重みがあり、多少激しい動きをしてもそう簡単に弾け飛んだり、首から離れることはなさそうだ。

 試しに僕は建物内で笛を吹いてみれば、高くも綺麗な音が屋内に響き渡る。

 するとパタパタと鳥の羽音が聞こえ、真っ白な鳩が、窓の外側の枠で待機していた。


「建物内でも窓があれば使えるのか! 良いねぇ。ありがとう。それじゃあ僕はそろそろ行くよ」


「はい。いってらっしゃい」


 冒険者ギルドを出発する。まず最初にやることは個人用馬車の購入だ。馬車の送迎には最低でも2万5,000オロ掛かってしまう。さらにその料金は距離が長ければ長い程高い。

 今回のガレオンへ連絡させに行かせた馬車にしても手数料で50万も取られてしまった。だから僕はお金を貯めていつかは個人用の馬車を買いたいと思っていた。


 300万有れば十分だろう。僕はすぐに帝国の馬車組合へ向かった。


『個人用の馬車を買うのか。どこか行きたい場所でもあるのか?』


「いいや。ただ毎度の馬車代を浮かせたいだけだよ。まぁ、どこかに行きたいというのも間違いじゃ無いね。事前にルートが決められた馬車よりも個人用の馬車の方が行動範囲が大きく広がるだろうし」


『分かった。じゃあ私は外で待ってるよ』


「うん」


 馬車組合の建物に入れば、建物の裏には広めの厩舎きゅうしゃが置かれ、多くの馬が世話をされている。そして建物の奥には多種多様の馬車が置かれ商品として売られていた。

 大人数を運ぶ用の大型馬車。貴族にお似合いな豪華な装飾がされた煌びやかな馬車。汎用性に長けそうな小型でなんら変哲もない馬車。多くが並んでいた。


 僕の手持ちは378万だが、当然馬車の代金だけでそれを余裕に超える物もあった。特に性能を重視した馬車は、繋げられるのが力と技のある馬に限られ、コストがどうしても下げられない馬車もあった。


 僕は早速馬車を選ぶ。僕が考える馬車は十分な荷物が運べて、搭乗可能人数は四〜五人。速さは出来れば送迎馬車の標準より高めが良い。なにせ別に馬車でのんびりドライブするつもりも無いからね。目的地には出来る限り早く着きたい。


 そう考えていると、馬車組合の案内人だろうか。人相の良いにんまり笑顔のおじさんが僕に近づいて来た。


「お客様、馬車の購入は初めてですかな? ならどのような馬車をご所望ですか?」


「え? あぁ、ええとね」


 僕は今の予算と理想の馬車の特徴を伝える。そうすると案内人はふむふむと頷けば、僕をすぐに一つの馬車の元へ案内してくれた。

 その馬車の条件は、搭乗可能人数は五人、最大積載量は650kg、最大速度は60km/h(積載量によって減速)だった。

 これで値段は80万オロ。さらにより良い馬を繋げれば積載量による最大速度の減少は抑えられるらしい。


「理想にぴったりだしこれにするよ」


「ありがとうございます。では次は馬ですね。実は馬には二種類、運送馬と戦闘馬がおりまして、戦闘馬は元から非常に力が強く小さい魔物なら無視してそのまま蹴り飛ばしてくれる性質があります。

 運送中に魔物の襲撃で度々止められてしまうのが嫌な方にお勧めですね。こちらでしっかり躾もしてあるので、途中で暴れる事もありません。どちらに致しましょうか?」


 多分戦闘馬の方が高いんだろう。でも力の強い運送馬を選ぶより、元から力の強い馬である戦闘馬の方がコストは若干抑えられるかもしれない。

 それと雑魚ならそのまま蹴り飛ばしてくれるのは魅力的だ。別に戦うことが好きじゃない僕にとっては好都合。多少高くても払う価値はある。


「じゃあ戦闘馬でお願いします」


「かしこまりました。では現在のお客様の予算からすると、こちらの戦闘馬がお勧めですな。お値段は200万オロ。アルヴィズという馬でございます。

 速さと力を追求した馬としての能力を重視した馬でして、先程購入して頂いた60の速さを持つ馬車をより速くさせることが出来るでしょう。如何ですかな?」


 馬車は80万、この戦闘馬は200万。これを買うと僕の所持金は98万まで減る。それでも十分な所持金だろうか。

 このアルヴィズという馬は力と速さがこの馬車組合の中でダントツらしい。それなら迷うことはないかな。買おう。


「良いね。じゃあこれでお願いするよ」


「ありがとうございます! では合計で280万オロいただきます」


「はいこれね」


「ほっほっほーそれではご自分の馬車でのんびり旅をお楽しみください」


「うんありがとう。じゃあね」


 そうして僕は個人用の馬車を手に入れ、外で待つグレイブと合流すると、とりあえず自分の家へ馬車で帰った。

 馬車の操縦はマニュアル本を渡され、最初はぎこちなかったが、家に着く頃には慣れ、速い馬のおかげか、かなり爽快な走りを堪能出来た。

 これにより次はもっと遠い地に行ってグレイブの名声を稼ぐことが出来るだろう。

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