第22話 下準備
僕はグレイブ王子を冒険者に登録させ、早速を依頼を受けようとしていた。ただその前に一つ確認したいことがあった。
「グレイブは戦闘は出来るの? 皇帝になるために育てられたんだよね。戦闘訓練は必要だったのかな……」
『勿論だ。皇帝は基本守られる側だが、あくまでも国一つを支配する王なのだから。前戦に駆り出なくてはならない時が来るだろう。王城で指を咥えて戦の勝敗を待つなどやってはならないことだ。そのために戦闘技術は多少は心得ている』
なら安心かな。えっと今グレイブはスチールランクだから、戦闘系の依頼が出来ないじゃないか!
「んーそうは言ったけど、グレイブはまだスチールだから最低ブロンズまで上げないと魔物討伐は受注出来ない。それ以外で何かやりたい依頼はあるかい?」
『なに、私はこれから帝国民の信頼を得る為に活動するんだ。どんな依頼でも快く引き受ければ、民達も心を開いてくれるはずだ』
じゃあ、これかな?
僕はグレイブのために一つの依頼を引き受けた。冒険者のルールとして低ランクが高ランクに付き添いレベル上げ所謂『寄生』することは許されているが、高ランクが低ランクの依頼を手伝うことは原則禁止とされている。
理由としてはギルドは信頼こそが命だから、手伝って貰わなきゃ依頼を達成出来ないなんて冒険者は求めていないんだってね。
ただし、手伝わなくても側から様子見は出来る。それと合わせて助言だけなら許されるらしい。
僕が選んだ依頼は……。
難易度F 荷物届け
帝国内の貨物運搬
『これはギルドの同タイプの依頼を一つに纏めた冒険者ギルド直々の依頼です。基本は肉体労働となりますが、沢山の依頼を一つにまとめたものですので、報酬はそれなりにあります。一つ一つの依頼内容は別にメモ書きがあるので場所を確認後、現地で話を聞いてください』
報酬:
・オロは現地の依頼者から受け取り
・全依頼達成で20万オロ
・全依頼達成で『Fランク信頼証』
「この辺りとか良いんじゃ無い? 複数の依頼を一気に引き受けられるらしいよ」
『おぉ、では最初の依頼はこれを受けよう』
僕はあくまでも助言役と言って受付に依頼書を渡して依頼を引き受けた。
高ランクが低ランクの手助けをするのはバレなければ良いと言う曖昧なルールだが、万が一バレるとランクの降格又は、冒険者資格の剥奪をされるという。かなり罰が重い。
尚更僕はやらないね。
──────────────────
して僕とグレイブは依頼内容の個別確認をしつつ、依頼者の場所へ向かった。一つ目は帝国に運び込まれた鉱石を武器屋へ運搬。
「あんたらが引受人かい。実は近くででかい鉱脈を見つけちまってね。一人じゃ骨が折れる量でさ。いやーありがてぇありがてぇ」
場所は武器屋前にて、鉱石が満杯に積まれた荷物馬車が、僕達を待っていた。これから武器屋へ鉱石を箱詰めにして運び入れるのが仕事のようだ。
「さ、箱詰めは俺がやるからあんたらはこの箱をどんどん武器屋のおっさんに渡してくれ」
馬車の人はせっせと馬車の中から鉱石を箱詰めしていくと箱を地面に擦らせて僕の方へ押し出していく。さて運ぼう。
グレイブは箱を持ち上げるが……。
『ぐっ! これはなかなか堪えるね』
とてつも無く重そうだ。本当にこれも手助け禁止なのだろうか?
全て運び終えるまで全部で二十箱だった。これだけでもうグレイブは息が上がっていた。
『はぁ……はぁ……! 大丈夫だ心配無い。これだけで息が上がっては民の信頼なんて得られない! 次はどこへ行くんだ?』
「お、おう。次はねぇ」
次の場所は同じく武器屋より、兵士が使う鎧や剣が雑多に詰められた箱運びだった。これには流石に武器屋のおっさんは荷車を貸して貰い、それでも重い荷車をグレイブは引き摺っていた。
僕は横へ様子を見たり応援する。
兵士の武器庫まで持っていけば、大体態度が悪い兵士も相変わらず態度は悪いが運ぶのを手伝ってくれた。
「はいはいご苦労さん。さっさと手を離せ! 俺らの装備が汚れるだろうが!」
『ふぅ〜。で、次は?』
「えーと次は……」
次の場所は兵士の場所と変わって荷物預かり所という個人の色々な荷物を一時的に保管しておける場所で、それを取りに来てくれという依頼だった。
自分で預けたんだから自分で取りに来いと文句を言いたくなるが、グレイブはそんなことも気にしないだろう。
『よいしょっと。軽い! これで体力が温存出来るぞ!』
そして各依頼人の場所まで届けて一つの仕事を完了する。
『次は?』
「次で最後だよ」
次で最後。その依頼とは貴族からの依頼で骨董品を所定の場所まで運ぶこととメモに書かれている。それと注意書きに割れものなので良く注意することとも書かれていた。
僕達は依頼人がいる貴族の屋敷に行けば、良く太った男が偉そうな態度で迎えてきた。
「やっと来たか。さ、早く運んでくれ。いいか? 荷物以外何も触るなよ? それとこれはとてもとーっても貴重な壺なんだ。傷を付けたり特に壊したら許さんからな」
「そんなに貴重な物なのに何故冒険者に依頼するんだい?」
「なんでも安く済んだらいいだろう。冒険者共に私の大切な壺が触られるのはとても遺憾だが、わざわざ金をかけたく無い。自分で言うのもなんだが、私はケチなんだよ」
「ふーん」
『分かったどの壺を運べば良いんだ?』
男は執拗に他の物には触るなと何度も注意しながら僕達を壺のある部屋に案内する。
たが、そこはとても大事な物が置いてあるとは到底思えない。空気中に埃が舞まくる物置き部屋だった。
「この壺だ。いいな。決して傷を付けるなよ」
グレイブが持ち上げようとする壺もまた傷を付ける以前にすでに所々ヒビが入っており、グレイブの手が触れれば埃が付着する程度の汚さ。本当に大切な壺なんだろうか?
「既にヒビ入ってるけど?」
「貴様らには理解できないのだろう。これもデザインなのだ」
なんか怪しい誤魔化しだなぁ……。
グレイブは男の言われるとおりに、細心の注意を払って慎重に壺を運び、男の指定する部屋に置いた。
『これで大丈夫か?』
「どれどれ……? なっ!? き、貴様らぁ……これはどう言うことだぁ! つ、壺にヒビが入っているじゃないか!」
元から入ってたよ! とツッコミたい所だったけど引っ込める。やっぱりだ。貴族ってこれだからイメージが悪いんだ。
「弁償だ! 弁償しろ!」
『え? いや、さっきこのヒビはデザインだって……』
「違う! それは違うヒビだ。これは新しいヒビじゃないか! 100万だ。100万払え!」
うっわ面倒くさっ。そう言われて見ればグレイブが運んでいた壺は古くも新しくも見分けの付かないほどにボロボロだった。最初から難癖を付けるのが目的だったんだ。
『ひ、100万なんて持ってない! それにこれは元からボロボロだったじゃないか!』
「うるさい! それ以上抵抗するなら兵士に突き出すぞ!」
んーどうしようか。男は何としても100万払わせるつもりで、払えなければ兵士に突き出すつもりだ。
それなら……。
「そぉい! あ、ごめんね。足が滑っちゃった」
僕は床に置かれた壺を蹴り飛ばし、一撃で木っ端微塵に粉砕する。そしてバラバラになった壺をわざわざ踏みつけながら謝る。
「ああああああ! 私の壺があああぁ! 今すぐ、今すぐに兵士に突き出してやる!!」
「それはこっちの台詞だ。分かりやす過ぎるんだよ君は。どうせ大事でもなんでもない物を受注者に運ばさせ、難癖を付けては多額の金を請求していたんだろう? んでこの帝国の兵士に報告したって君一人にわざわざ対応なんてしてくれない筈だ。
それと自分はケチとか言ってたけど、金持ってないだけだろう? 君の屋敷に飾ってある一見高級そうな物たち。絶対に触るなとか言っててさぁ、触っちゃいけない理由ってこういうことかな?」
僕は壊した壺とは別に飾ってある小さな壺を軽く叩けば、なんと簡単に壊れてしまった。僕は本当に軽く突く程度に触ったんだ。なのに、まるで破片を繋ぎ合わせただけかのように崩れてしまう。
こりゃ報告ものだね。
「くっそ、貴様らは貧乏過ぎるんだ。 騙されやすいのに金を持ってないとは、ふざけおって、まともに稼いだことが無いのに私は兵士に突き出されるというのかぁ!」
『はぁ、危ない危ない。私もハクくんの言葉が無ければ騙される所だった。なら、行こうか』
最後の依頼にして、僕は貴族企みを暴き、男を兵士に突き出した。流石は帝国兵。こう言うところでは役に立つ。
男が兵士に突き出されれば、兵士は男の頭部を蹴り飛ばし、倒れた所を足を掴んで地面を引きずって連れて行く。
「うわあああぁ! 離せ、離せええぇ!」
貴族の男の悲鳴は兵士が牢屋に連れて行き見えなくなってもまだ聴こえていた。
こうして僕とグレイブは全ての依頼を完了させ、冒険者ギルドへ帰った。
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