第4話 仲間

 僕は別の国を目指す為に方へ向かっていたが、確かな道も分からない、食料もないという理由で倒れそうになった。

 そこで丁度焚き火で休んでいる三人の男女を見つけた。

 

 三人の名は剣士がグレイ。青の短髪で背中に等身大の剣を背負い、見たところは誰に対しても気さくでとても優しい。冒険者を生業としているという話だが、どうやらその冒険者にはランクがあり受けられる依頼がランク別で分かれているようだ。

 勿論ランクが高ければ依頼難易度も上がり、報酬も高くなっていくが、当のグレイは人助けになるならランクに関わらず低い報酬でもしっかり依頼を熟すようだ。

 そんな優しい性格も確かに良いのだが、そのせいで冒険者になりたての人間がやる仕事が無くなるという迷惑も起こした事があると言う。


 評判が良過ぎても良い事ばかりという訳では無いんだね。ただ本人は悪意なく善意だからねぇ止める事も出来ないのだろう。それも冒険者なりたてだと信頼も低い。仕事は仕事でも雑にやられちゃあ困るからねぇ。難しい所だ。


 次に大盾の名はバル。スキンヘッドで黒肌。がっしりとした体格に強面だけど盾役に相応しい程に守る事に徹するようで、全身全霊で前戦に乗り出す為、盾役として良く他の冒険者からも人員不足に呼ばれる事が多いと言う。

 盾役は味方の攻撃を支援する役割もあるからねぇ。前に立ってくれる安心感は見なくてもよく分かる。

 実を言えば今いるパーティも本当は依頼されたからだとか。運良く仲良くなって長く続けているらしい。


 そして短剣の名はレイカ。金色の腰まで伸びた長髪でスラリとした体型に顔も整っており冒険者の中では群を抜く程にモテるらしい。さらに役職は盗賊という名目だが、本人は盗みが逆に大の嫌いなのようだ。

 その短剣を用いた身のこなしはアタッカーとしても十分なようで、手数で相手を押し切る戦闘術が非力で弱い盗賊職の常識を冒険者の界隈で覆したという話があった。


 んー濃いようで濃いとも言えない絶妙なメンバーだね。僕はこれから少しの間この人達と過ごす訳か。


 焚き火を僕を含めて四人で囲って、焚き火で何かの肉を焼く。焼き上がるまで色々と話し合う。


「所でハクさんはどこの国から来たんですか?」


「あー僕はシュトラール王国って国だ。来てすぐに追放されたからねえ。酷い話だよ」


 シュトラール王国と聞いてバルが何かを思い出した様に答える。


「シュトラール王国って確か……つい最近勇者が召喚されたって聞いたぞ? それも今回は四十人近くだったかな」


「よ、四十人!? それ多過ぎないか? まぁ、多いに過ぎたことも無いっちゃないけど」


 その話にレイカも反応する。


「あ、なんか聞いたことある! 確か一人だけ無能で国外追放されたとか。噂だけど無能ってだけで国外追放はやり過ぎよねぇ。……ってあれ?」


 レイカ、グレイ、バルは一斉に僕に視線を移した。まさか、もうここまで話が広まっているとは予想外だ。はぁ、僕はまた無能として追い出されるのだろうか。


「確かその話って三日前ですよね。国外追放されて今、食料もなくこんな場所を彷徨って、俺達の前に国外追放されたという過去を持つ青年が一人。ハクさんのこと……な訳無いですよね! ハハハ! 失礼しました」


「いや、別に隠すつもりは無いよ。その勇者から追放されたのが僕だ。固有能力【回避】しか持っていない無能としてね」


 そう話せば三人は固まってしまった。だが、次に返ってきた言葉は僕の予想したものでは無かった。むしろびっくりされたね。


「あー無能だって事は別に良いんだけど……此処はシュトラール王国より大分離れた場所だ。道中危険も何度もあっただろう。良く生きてこれたね? 本当にハクさん無能?」


「ふふ、僕は無能では無いと自分では思う。これは自分の能力を否定しているのではなく自信があるからだ。僕もどうして固有能力【回避】が無能呼ばわりされているのか謎なんだ。

 現に僕は道中で何匹も狼を"素手"で撃退しているからね」


 そこにレイカが身を乗り出してくる。


「す、素手で!? いやいや、確かにこの辺り狼の魔物が多いけど、狼一匹でも私でさえ簡単じゃあ無いんだから。そりゃあ、グレイくらいの剣の遣り手なら一撃で一刀両断も出来ない訳でも無いけど……それでも群れ相手とかになったら一人じゃキツイよ?」


「そうなのかい? でも僕はこの回避能力で結構余裕だったけどね」


 バルが僕に質問をする。


「てめぇの回避能力、本当にただの回避能力か? 元勇者の特権とかなにかありそうだなオイ。確かに回避能力だけじゃあ無能呼ばわりされんのは仕方がねぇな。でもよ、お前の回避能力はどうやら俺らの知る回避能力とは少し違えようだ。

 普通の回避能力はな、"敵の攻撃に対して一瞬だけ避ける猶予を与えてくれる"んだ。

 あー大体一秒くらいか? 敵の攻撃が一瞬だけ遅く感じるんだよ。と言っても反射神経に依存するから弓矢とかの攻撃は避けようにもガチでそれくらい技能持ってねぇと無理ってこったぁ」


 なるほどね。どうやらこれはバル君の言う通りの様だ。勇者の特権ねぇ。転移の恩恵って一体どういう原理なんだろう。だって話によれば人間の体に魔力まで与えてしまうんだから。それも召喚した張本人達はそれを一切予想していない。

 完全に異物の恩恵だよねぇ。


「一秒……。それはそれは。僕は一秒どころか一分も余裕なんだけど」


 この答えにまた三人は固まってしまう。言い過ぎただろうか? あの時間が遅くなる感覚はいつまで続くのは未検証だなぁ。


 そんな話をしている間にどうやら焚き火の肉が焼けた様だ。

 とても香ばしい匂いが鼻をすり抜ける。

 それをレイカが自前の短剣で切り裂き、全員に分けて行く。


「そろそろ肉が焼けたな。はいこれハクさんの分ね。それじゃあ、いただきまーす!」


 僕は空かした腹をそれで埋めるべく勢い良く齧り付く。が、僕の予想した味と食感と真反対の感覚が舌と歯に襲いかかる。

 ぶにぶにと変な弾力がありなかなか噛みちぎれず、ゴムのような味で一瞬吐きそうになる。


「ゔっ……!? んぐぐぐ……」


 バルがその反応に大笑いする。


「ハッハッハ! この肉食ったのは初めてか! これはあの狼の魔物の肉だ! 別に食えねえ訳では無いんだぜ。焼けば保存食として重宝されるくらいだからな。味は保証しねぇがな!」


「あぁ、味も食感も喉通りも最悪だ。でも、腹を満たすには我慢しないとやっていけないってことだよねっ。あむあむ……」


 僕はなんとか噛みちぎり、ごくりと飲み込めば腐った肉の匂いが鼻を曲げながら腹の中へ肉が落ちて行くのがはっきり分かった。

 他の三人も見れば険しい表情をしながらも慣れた手つきで齧り付いている。


 あぁ、これはなかなか苦労しそうだな。携帯食料は必須だ。

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