第1話 転移者

 さて、僕が牢屋にぶち込まれる前の話をもう少し掘り下げてみよう。

 クラス転移なんだから当然、僕以外にも転移者はいるんだ。うーん。誰から話そうか。


◆◇◆◇◆


 まず僕が異世界転移してもっとも気になった人物は1クラス40名の内5人だったかな。先ず一人目。


 ステータスと唱えた時、唯一一人の勇者だと認められた男。一条いちじょう 光輝こうき

 兎に角イケメンで生粋の優しさと爽やかさを周囲の男女に構わず振り撒き、誰の目からも憧れの存在になっている男だ。何故彼が勇者として選ばれたのか。それはステータスだ。

 ステータスと唱えた時に表示される物は、自分の名前、職業、レベル、能力の数値。そう、この『職業』だ。普通なら此処には僕達は学生と表記される筈だけど、此処異世界では違うようだ。完全に生まれ持った才能らしい。光輝君が勇者に相応しいとかじゃなくて、たまたま光輝君が勇者だったんだ。

 まぁ、相応しいと言えば本当にそう思うけどね。

 光輝君は選ばれても尚、その姿勢は崩さず、爽やかな笑顔を振りまいていたね。


『勇者としての努め、我が身をもって全力で果たさせていただきます。必ずや魔王を討ち、世界を救って見せましょう』


 異世界転移したことに一切混乱する事無く、王様の頼み事を誠心誠意で受けていた。これは感心するべきなのだろうか。流石だよホントに。


 さて、二人目と行こうか。次は一条光輝の彼女でもある存在。伊吹いぶき あかねだ。一言で言えばどこか抜けていてほんわかとした雰囲気を放つ彼女だ。顔も整っておりスタイルも抜群で、それはそれはクラスの人気者だ。ただ性格が天然な故、今回の転移に関しても混乱する所か何かのイベントだと決めつけ思いっきり楽しもうとポジティブ発言までしていた。

 まぁそのおかげでクラス全員の混乱を一気に治めた訳だが……。


『わぁ〜楽しそうだねぇー。先生達もすごいねぇー、兎に角イベントを楽しもうー!』


 ふむ。これが本当の死のゲームだと知ることは恐らくいつまでも無いだろう。絶望を知らないことはいいことかもしれないが……。


 さぁ三人目だ。次は一条光輝の親友でもありながら性格が荒っぽく、根は優しい鬼堂きとう 正晴まさはる。一条光輝より真っ先に異世界転移に混乱を示し、暴れまわった男だ。現地の人間がいくら説得しても納得しないこう言う系統の人間は僕の知る小説では見世物のようにあっけなく殺されるのがオチだ。

 しかし、鬼童はそんなお決まりのシーンぶち壊すほどに強かった。能力が高かったという以前に、元から喧嘩が強いという特性が異世界でも活かされ、王様を守るように立っていた兵士の取り押さえを難なく破り、魔法を撃とうとしていた魔導士なる兵士も真っ先に投げ飛ばし、その圧倒的な強さを前に王国側はなすすべがなく大惨事となっていた。


『オラァッ!! 何抜かしたこと言ってんだ! さっさと元の世界に返しやがれ! てめぇらぶっ殺されてぇのかあぁ!?』


 はぁ、結果死者は出なかったものの、数えきれない多くの負傷者を出してしまった。僕が言う四人目の人間が現れるまで。


 さぁその四人目と行こうか。名前は如月きさらぎ 玲香れいか。伊吹と同じくスタイルは良く顔も整っているが、伊吹は可愛いと比べて玲香は綺麗と言ったところか。金持ちの親から生まれたお嬢様育ちで、世間知らずも良いところと言える程度だ。

 ただその分外国の貴族という物に憧れを持っていたのかは知らないが、異世界転移自体に最初は困惑していたものの、自分が勇者だと崇められる所は満更でも無い態度だったね。まるで自分は常に上に立つべき存在だと分かってるかのような表情をしていた。

 さて、そんな玲香がどうやって鬼堂を止めたのかと言えば至極単純。どれだけ肝が据わっているのか、それとも鬼堂という存在の態度がただ気に入らないだけなのか。玲香は一度暴れ回る鬼堂に威圧をかけられるが、平然とした表情で。


『それ以上近づくな屑。貴方は勇者様では無くて? これだけの挑発に乗って暴れる方だったんですね。とてもつまらないお方ですわ』


 それを聞いた鬼堂はどうやら相手を恐怖させる事が趣味だったようで、恐怖することもなく逆に「つまらない」と言われたのがかなり効いたのか。一気に意気消沈してしまった。

 つまり鬼堂はその程度の男って訳さ。僕も覚えておこうと思ったね。


 さぁ最後の五人目だ。彼に関しては他の四人とは無関係だ。むしろ関わることも無いだろう。その名は岩井いわい 康太郎こうたろう。一言で言えばオタクだ。異世界転移に憧れ終始ウキウキしていたね。強いて言えば最も混乱することなく『慣れていた』と言えよう。何故慣れているのかは僕には到底理解できない分野だろう。


 ふう、僕の気になった人物紹介は全て終えた。僕は……一体誰に向かって紹介していたんだ?

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