Guild

餅月 白

黒い兎、蛇と出会う

第1話 黒い兎は追われる身

「クソッタレが。」

どうしてこんなことになった?

後ろから聞こえてくる複数の足音から逃げるように路地裏を走りまわる。

否、逃げている。

ついさっき迄は確かに同じ組織にいて仕事仲間の筈だった彼らは俺に明確な殺意を持っている。


そう、ついさっき迄は仲間だった筈なのだ。

首領ボスから言い渡された任務をこなしていただけ。

標的ターゲットを殺して、あとの死体の処理もして、帰ろうとしたときだ。

息が詰まるような感覚がした。

まるで、殺意を向けられているかのような。

その場から飛び退いたと同時に


金属製のバッドが大きな音を立ててコンクリートにぶつかる。


まずい!

そう感じて瞬時に後ろを振り返れば、仕事仲間だった彼奴等は皆俺に向かって、それぞれの得物を振り下ろしていた。

咄嗟に飛び退くも、このままじゃ防戦一方だ。

次々に、迫ってくる得物を避けるが、体を貫かれるのも時間の問題だろう。

ならば____!

トランクから、透明な液体が入ったフラスコを取り出すとそれを投げつける。

「…危ないな。」

フラスコを彼女___コードネーム、プリュネは落ち着いて避けるが、本命はこっちじゃない。

「ハッ!騙されたな!プリュネ。」

笑いながらそう言って、フラスコを避ける際に生じた隙に乗じて距離を詰めると、プリュネの腹に蹴りをいれる。

「がッッ!!?」

蹴りがはいったプリュネは壁に思いっきりぶち当たった。

「お姉様!」

「姉貴!」

あとの二人が悲鳴を上げる。

確か、弓矢と薙刀を使う少女がイオン、金属のバッドと投げナイフを使う少女はリラと言うコードネームだった筈だ。

二人共、プリュネを慕っているらしい。プリュネに駆け寄る二人を横目に背を向けて走り出す。


何故、殺しに来ているのか?なんて分かる訳もない。

唯分かるのは、プリュネ達は恐らく首領ボスの命令で俺を殺しに来ている。

裏切ったとか、そういうことをした身に覚えはない。

つまりは、俺が突然、首領ボスに裏切られたということ。

こんなことを考えているときでも走る速度は下げない。

いつの間にか復帰をしたのか、さっきから走っている最中、後ろから矢やら投げナイフやらが飛んできているのだ。物騒なことこの上ない。当たったらと思うとヒヤリと背中が冷えるが、生憎後ろを振り返る程の余裕はない。

持っているトランクから煙玉を出すとそれを躊躇なく背後に投げる。

その後すぐに後ろからしてやられた!奴はどこだ!なんて声が聞こえてくる。

煙玉はやっぱり便利だな、今度また買い足しておくか……。

プリュネ達の視界が煙で使い物にならなくなっている間に、さっさとここから離れよう。



路地裏を抜ければ人通りの少ない通りに出る。

道が分かれている、どちらに進もうかと考えていた時、左側の道から足音が聞こえた気がした。

……気の所為か?

そう思って、一歩踏み出した時





___すぐ真横に兎のガスマスクを付けた”なにか”かが立っていた。



ヒュッと息が詰まる。

いつからいた?全くもって気配を感じなかった、このままじゃ殺される、今からでも退けるか?

一瞬で様々なことを考える。

その間に、ガスマスクを付けたそれは、自身の影(?)と思われるところから、大鎌を取り出すと、それを当然のように俺に向かって振り下ろす。

__殺される。

「ぐッッ!!」

何も考えていなかった。殆ど条件反射でその大鎌の一振りを間一髪、隠し持っていたナイフで受け止める。

受け止めた、それまでは良い。だが、目の前のなにかの力は異常な程に強かった。力の差が大きすぎる。

このままでは、力押しでそのまま体を真っ二つにされてしまう。

「縺雁燕縺ッ縺薙%縺ァ谿コ縺輔?縺ー縺ェ繧峨↑縺」

どうやって距離を取ろうと考えようとしたとき、なにかは喋った。

それは言語とは呼べない、言葉だったものが無理矢理音に変えられたような、そんな感じだった。

何を言っているのか、分かる訳もない。

ただ、なにかの力はさらに込められる。

「谿コ縺励※縲∫ァ√?雋ャ莉サ繧呈棡縺溘☆」

語りかけるような音は、まるで俺を責め立てるようだった。訳が分からない。

巫山戯るな、と思う。

今迄に出会ったことすらない奴に訳も分からずに責められなくちゃいけないのか。

こんな見ず知らずの不気味な奴に殺されてたまるか。

ますます強くなるなにかの力に、受け止めたナイフごと少しずつ押されてしまう。

"アレ"はあんまり使いたくなかったんだがな、仕方がない。

自身の能力を、使う。


この世界では、自身の持つ"罪"は異能力へと変わる。

それは十人十色だ。人によって持つ能力は変わるのだから。

その中でも俺は、その"罪"自体を自身の力に変えることができるのだ。怪我の治療やら筋力増強やら透視やらなんでも出来る。一部の効果は一時的なものもあるが、この能力自体は相当強力なものだ。

俺の能力も昔は違うもので、最近になって何故かこんな能力に変化していた。理由は分からない。なんとも不気味なものだ。

まあ不気味だからといって、俺がこの能力を使いたくない理由はまた別だが。


鎌を受け止めていた腕に力が籠もる。

「……!」

大鎌を受け止めている腕の力を強くするように能力を使った___一時的な怪力だ。

なにかが力で押される。

能力を使ったことですぐに形成は逆転する。

ガスマスクでなにかの表情は見えないが、顔を歪めた様な気がした。

このまま、押し切れる。

そう思った瞬間、真っ黒い刃が目の前を掠る。

ギリギリ当たりはしなかったが、それで力が緩んでしまったのだろう、なにかは素早く後ろへと後退してしまう。

「お前、何者だ?」

あの黒い刃、掠っただけだったが奇妙な悪寒がした。触れた部分から広がるようにどんどん体が冷える感覚。

まるで深淵を覗き込んだような、そんな感覚。

「縺ゅ?蟄舌?縺ゥ縺薙↓陦後▲縺滂シ」

なにかはふと何かに気付いたのか周りを見渡す。

まるで、誰かを探しているかのように。 

「殺し合いの最中だってのに考え事か、舐めやがってよ!」

余程死にたいらしい。

そこまで舐められていたとは思わず、舌打ちをして動かないなにかとの距離を縮める。

そのままナイフをなにかに向かって振り下ろすが、なにかはすぐにそれを大鎌であっさりと弾く。

「縺雁燕繧呈ョコ縺吶%縺ィ繧医j繧ゅ?√≠縺ョ蟄舌?譁ケ縺悟━蜈医□縲よャ。縺ッ蠢?★谿コ縺」

大鎌で弾いたあと、また言葉にならない音で話すとなにかは、近くの路地裏まで下がる。

逃げるつもりか?

「待ちやがれ!」

咄嗟に追いかけるが、なにかは路地裏の暗闇に紛れるようにそのまま姿を消してしまう。

辺りを見回してみても、誰もいない。

最初から誰もいなかったと思えるくらいに静かだ。

「…チッ」

舌打ちをして、仕方なくさっきの分かれ道へと戻る。

左側の道へは、さっきのガスマスクのなにかのこともあって、行く気になれなかったから反対の道へと足を運んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る