第4話
「よし、出来上がったな。おーい、シルヴァ料理できたんだが思ったより作りすぎちまった!運ぶの手伝ってくれないか?」
料理自体は問題なくできたものの、久しぶりに人にご馳走するということで、つい張り切って作りすぎてしまった。俺だけで運ぶのは少し大変そうなのでシルヴァに手伝ってもらうことにした。
「わかりました。今行きます」
そう言ってシルヴァがこちらに向かってくる。そしてキッチンに着いたところで目を見開いた。
「えぇ!?」
「ん?どうした?」
「いや、作りすぎてしまったとは言ってましたが、いくらなんでも豪華すぎませんか!?」
「ははは、確かに少し張り切りすぎたかもな、でも美味そうだろ?」
「それは、そうですけど……」
「まぁまぁ、冷めてもよくないし、さっさと運んじまおう」
そう言って俺は驚くシルヴァを背に料理を運び始めた。
ーーーー
「じゃ、どうぞ召し上がってくれ。つってもこの量だし俺も一緒に食うけど」
「あはは、とても私一人では食べれそうにありませんし。では、いただきます。……わぁ!すごく美味しいです!」
「だろ?料理には結構自信があるんだ」
よしよし、つかみは上々だな。この調子で胃袋を掴んでいこう。
「それにしても、この料理はなんというのでしょう?トマトが使われているのはわかるのですが」
「あぁ、これはラザニアつって昔ヨーロッパでよく食べられていたトマト料理だな」
「なるほど、ということは元々この地域で食べられていたということですか」
「そういうことだな。ま、今じゃ食べる機会なんてほとんどないし、忘れられちまってるがな。今頃作ったやつはお空の上で泣いてるかもな」
「あはは、そうですね……。こんなに美味しい料理が食べられていないというのは残念ですね」
「ま、俺は食べられてるからいいんだけどよ。世間の皆様は御愁傷様ということで」
「もう、そういう言い方は良くないですよ!」
「ははは、悪い悪い。他にもたくさんあるから話はここら辺にして、食おうぜ」
「全く、でもそうですね。せっかく美味しそうなのに冷めてしまっては勿体無いですし」
ーーーー
その後、作りすぎたとはいえ、二人で食べればそこまで多くはなく、無事完食することができた。
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
「お粗末様でした、と。そう言ってくれてなによりだ。料理には多少自信があったからな、これで不味かったと言われたら面目が立たねえ」
「いえ、本当に絶品でした。それこそ特権階級用のレストランでも通じるのではないでしょうか。……ちなみに、いったいどこでこれほどの料理を学んだのですか?現物の食材が手に入りにくい今、調理経験というのは中々得難いものだと思うのですが」
流石に怪しまれるか。ま、昨日からわざと怪しい素振りを見せているところもある。シルヴァがどれくらい寛容なのか探ってみたかったからな。この感じならこちらが話そうとしないことにはわざわざ踏み込んではこないだろう。
「まぁ、こっちも例のつてだな。食材入手の機会に一緒に料理のことについても聞くことがあってな」
「そうですか……。まぁ詳しくは聞きません。濁すということは話したくないということでしょうし」
「ははは、そうしてくれると助かる」
「笑い事ではありません!食事も終わって落ち着いてきたので少し真面目な話をしますけど、昨日みたいにはいきませんからね。きちんと話を聞いてもらいます」
「おいおい、そう怒らないでくれ、今日はちゃんと聞くから」
「では言わせてもらいますけどね、まず貴方は不用心すぎます!昨日私を連れて行ったところはどうみても違法な娯楽施設です。オフレコで頼むだのなんだと言っていましたが、普通の人なら通報されて店主の方もろとも逮捕です。そういうことはわかっているんですか!?」
「でもシルヴァは通報してないし大丈夫だったろ?俺人を見る目には自信があるんだ」
なんて、シルヴァが政府側の人間なのに何を言っているんだという感じだが。ただ人柄で言えば実際俺は通報されていないわけだし、間違ってはいない。
「はぁ!?人を見る目には自信がある?あのですね私は……」
「私は?」
案の定、シルヴァはすごい剣幕で否定しようとするが、正体を明かすのはまだ迷っているのか言葉に詰まっている。
「いえ、なんでもありません。それより貴方一人ならいいですけど店主さんにも迷惑がかかる可能性があったんですよ。捕まったら厳しい罰が待ってるんです。他人を巻きこむ可能性がある以上慎重に行動してください!」
「わかった、わかった、次からは気をつけるよ」
「全くもう!」
「でも一つだけ言わせてもらってもいいか?」
「なんですか?」
「さっき俺の目がどうこう言ってたが、お前が通報しなかったのは事実だ。つまり俺の人を見る目が正しいってのは事実、そうだろう?」
「それは、確かにそうですけど。でも……」
「だろう?それとも他に何かあるのか?」
「うぅ、でも……。そうやって屁理屈ばっかり!」
「屁理屈じゃないさ。けど、悪かった、捕まる可能性があるのも事実だし、忠告してくれてるんだよな、次から気をつける」
「分かってくれればいいんです。私も少し取り乱しました」
「あ、そういえば」
「はい?どうかしました?」
「いやせっかく、家に招待したことだしゲームでもやろうと思ってな。昨日楽しそうだったし」
「ぜひ!——じゃありません!さっき注意したばかりなのに!!!」
「じゃあ、やめるか?」
「……やります」
「よーし、決まりだ!新作をいくつか手に入れているんだ時間が許す限りやり込もう」
「うぅ、誘惑に勝てませんでした……。でも私以外の人には見せちゃダメですよ!!!」
「了解。じゃ、取ってくるわ〜」
ーーーー
その後俺たちは2時間ほどゲームに興じ、今はシルヴァを町の中心部まで送るところだ。
「わざわざ送ってもらって、すみません」
「いや、俺の家はわかりにくい場所にあるからな。こっちから招待したわけだし当たり前のことだ」
「そう言ってもらえると助かります。あ、この辺りで大丈夫です」
「そうか、まだ明るいけど気をつけろよ。まぁシルヴァ強そうだし大丈夫かもしれなが」
「いえ。それより、あの、キョウヤさん」
そろそろ別れるというところで、シルヴァが躊躇いながらも何かを言おうとしている。
「ん?どうした?」
「私ですね、実は」
「おっと、その先を聞くにはまだ早いな。大事なことなんだろ?」
「えっ、でも」
「俺の方も明日大事な話をしようと思ってたところなんだ。遮らないと言っておいて申し訳ないんだが、その話を聞くのは明日でもいいか?」
「そう……ですね。明日にしますか。それにしても大事な話とは?」
「それは明日のお楽しみだな。待ち合わせはいまさら変えるのもなんだし、昨日今日と同じでいいか?」
「そうですね。では明日も同じところと時間で」
「おう、じゃあ。さっきも言ったが気をつけてな」
「はい」
シルヴァがそう言って帰っていくのをみて俺も踵を返す。
まさか彼方から正体を明かそうとしてくるとはな。それだけ信用を得れたということなら僥倖か。しかしあれだけ言いにくそうなところを見ると俺がただ娯楽を違法に享受している子悪党じゃないということにも薄々気づいているらしい。その上でなお見逃しているとは、やはり思った通りのお人好しだな。
さて、明日が正念場だ。昨日今日と色々な作戦を立てたが、一筋縄でこちらに引き込めるということはないだろう。最悪、戦闘になることも考えておかなきゃな。考えることが多すぎて今日は眠れなそうだ。
そうして、俺は明日の準備のためにも足早に帰路に着くのだった。
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