第2話

「本当に大丈夫なんでしょうか。でもお礼するって言ったのは私だし、いざとなったら……」


 階段を降りながら小声で呟くシルヴァ。いざとなったらの先が怖いな、こいつが言ってると洒落にならないし。


「お、着いたぜ。ここが入り口だ」


 そう言って俺はシルヴァの方に振り向きながら年季の入った扉を開けた。瞬間、けたたましい音が俺たちの耳に響いてくる。


「あ、あのこれって、まさか」


「そうそう、見ての通りゲームがたくさんある場所だな。あ、そもそもゲームって知ってるか?」


 動揺しているシルヴァをよそに俺は話し始める。


「聞いたことはありますけど、でも基本的には禁止されてるはずじゃ」


「そうだな、禁止されてる。だからここでのことはオフレコで頼むぜ?」


 政府側の幹部クラスにオフレコとか笑えてくるけどな。ここで即時通報とかされると一瞬で計画がご破産なんだけど、どうだ?


「あ、あのキョウヤさん申し訳ないんですけど実は私……」


「よし、俺も久しぶりのゲーセンだ!今日はとことん付き合ってもらうぞ?そうだ。そのまんまだと目立つからこれを着てくれ」


 即通報は免れたようなので強引にシルヴァの言葉を遮りながら、俺は先ほど用意したフード付きのローブを渡す。正体を知ってる奴がいないとも限らないし、そうじゃなくてもここに来る人間にしては身なりが良すぎる。


「えっ、あの、でも!というかさっきまでこんなもの持ってなかったですよね?一体どこから」


「まぁまぁ、細かいことは気にすんなって。それより早くゲームしに行こうぜ!」


「えええ、ちょっと話を聞いてください!」


 シルヴァの叫びをよそに、俺は彼女の腕を引いてゲーセンの中に連れて行く。


「まずは、いきなり対戦ゲーもなんだし協力系の奴にするか。おっさん三時間二人で頼むわ!」


「キョウヤか、ってお前あんまり人連れて来んなって言っただろ!大丈夫なんだろうな!」


「大丈夫、大丈夫信頼できる奴だぜ、じゃそういうことで!」


 全然大丈夫じゃないんだけど、すまんなおっさん。これ以上詰められても困るので早めに受付を通り抜ける。


「あっ、おい!ったくあいつは、いつもいつも……」

 文句を言うおっさんを背にどんどん中に入っていく。


「あの、大丈夫なんですか?怒っていらっしゃるようでしたけど」


「あぁ、おっさんはいつもあんな感じだから大丈夫大丈夫。それより最初はこれやろうぜ。スタンダードなFPSだけどやり方わかるか?」


「FPS、ですか?すみません、ちょっとわかりません」


「簡単に言えば、銃で敵を倒していく一人称視点のゲームだな。まあやってみるほうがわかりやすい、ほれ」


 そう言って俺はシルヴァに銃の形をしたコントローラーを渡す。


「あ、はい。っじゃなくてですね。あの私は」


「おいシルヴァ!もう始まった敵きてるぞ、倒せ倒せ!」


「ええっ!?ちょ、ちょっと!ああ怪物が目の前に!」


「引き金引けば弾が出るからな!っし、俺も倒していくか〜」


 ははは、大方自分が政府側の人間であることを言おうとしてるんだろうが、そうはいかないぜ。今日は俺のゲームにとことん付き合わせてお前をゲーマーにしてやろう。そう考えながら俺もゾンビを倒すべく、コントローラーを構えるのだった。


ーーーー

「シルヴァ、後ろ敵いるぞ!」


「わかりました!」


「ナイス!うまいうまい」


 さすが戦闘が強い人間は、勘も鋭いのか、初めてやるFPSでも冷静に敵を倒している。そして俺自身もだいぶ慣れていることもあってサクサク進み、あっという間にボス戦まで到達した。


「こいつを倒したら、クリアだ。準備はいいか?」


「いけます!」


「よし、行くぞ!」


 そう言って俺たちはラスボスの超巨大ゾンビに向かって行った


ーーーー


「いや〜、まさか第三形態まであるとはなぁ。俺もここまできたのは初めてだったから驚いた」


 俺たちの前にはGAMEOVERの文字が表示されていた。ラスボスの超巨大ゾンビはなんと第三形態まで変身を持っており、第二形態で既にボロボロだった俺たちは呆気なく敗れてしまったのだ。


「三回も変身するなんてずるくないですか!現実だったら一回倒されたら終わりですよ!」


「まぁまぁ、そもそも死体が元のゾンビだからな。死なないのもおかしくない」


 シルヴァもプレイしていくうちに熱が入ったのか非常に悔しそうだ。というか現実だと一回で終わるとかお前がいうとちょっと怖いぞ。


「それはそうですけど……」


「さ、次のゲームやりに行こうぜ!次は……音ゲーでもやるか」


「次はどんなゲームなんでしょう、楽しみ——じゃない!キョウヤさん私の話を」


「おーい、こっちだこっち置いてくぞ!」


「ああ、もう!」


 だいぶ毒されてるな。よし、このまま連れ回していけばゲーマーまっしぐらだ。そしてゆくゆくはゲームなしでは生きられないようにして、こちら側に……。ははは、オルディネ政府の最高戦力がゲーマーとか笑えてくるぜ。


 そんなことを考えながら、俺は途方に暮れるシルヴァを背に音ゲーがあるブースへ向かっていった。


ーーーー

音ゲーブース

「ああ、コンボがっ」


「惜しいな、あとちょっとでフルコンだった」


ーーーー


格ゲーブース

「ちょっ、初めてにしてはうますぎないか?俺もそこそこやってるんだけどな・・」


「ふふ、さぁもう逃げ場はありませんよ、観念してください!」


ーーーー

五時間後


「いや〜、楽しかったな。まさか2時間も延長しちまうなんて」


「あはは、つい熱中してしまいましたね」


 俺たちはあの後もゲームを変えながら、気づいたら延長も含めて五時間遊び尽くしてしまった。思ったより上手いからこっちも熱くなっちまったな。シルヴァの行方が怪しまれて追跡される可能性があるので、そこまで長居するつもりはなかったんだが。ま、いいか、楽しかったし。


「それにしても、ほんとにゲーム初めてか?うますぎて疑っちまうわ」


「いやいや、やったことあるわけないじゃないですか。だって私は——。ああああああ!」


 支払いを済ますために受付に向かってる途中急にシルヴァが叫んだ。流石に気づいたか。このまま誤魔化せるかなと思ってたんだが。さてどうやって切り抜けようか、まだ決定的なことは言わせたくないんだよな。


「なんだよ急に叫び出して、まだ遊び足りないのか?」


「違いますよ!忘れてました、私言わなきゃいけないことが」


 この調子なら、そうだな。よし、ゴリ押しで行くか。なんだかんだうまくいってるし。


「あー、皆まで言わなくていい。わかってるから」


「ええ!?わかってるんですか?それならなんで!」


「そんだけ、シルヴァと遊びたかったんだよ」


「えっ、そんな。でも……」


「だから任せろってここの支・払・い・は」


「へ?支払い?」


「あぁ、持ち合わせがないって話だろ?付き合わせたのは俺だし奢るさ」


「違います!!そうじゃなくて!」


「おっさーん、会計頼むわ〜」


 訂正しようとするシルヴァを放置し、俺は受付に向かう。


「おう、三時間に二時間延長で五時間分な。……おい、連れがなんか言ってるけどいいのか?」


「あぁ、ちょっと持ち合わせがないらしくてな。俺に奢られたくないって言ってるんだ」


「あぁ、お前さんに借りなんて作りたくないわな……。気の毒なこった」


「おいおい、客に対して酷え言い草だ。お、支払いは済んだな。じゃ、またくる時はよろしくなおっさん」


「まぁ、金払いはいいからな。嫌々歓迎しとく」


「ははは、おーいシルヴァもういくぞ〜」


 シルヴァを呼びながら俺は出口へと向かう。


「ちょっと、もう!話を聞いてくださいよーーー!」


ーーーー

ゲーセン前路地


「いやぁ、今日はこんなに長く付き合わせて悪かったな。」


「いえ、それは私も楽しかったので……」


「それならいいんだけど。あ、それよりさっきから言ってる話ってのは?」


「そうです!タイミングがなくて話せなかったんですけど私」


「あ、やべ」


「え?」


「俺この後用事あるんだった!すまんシルヴァ話は明日とかでもいいか?」


「ええ!?でも!」


「悪い、急ぎなんだ!ついでに今日付き合ってもらったお礼もしたいから、今日あった場所で明日も待ち合わせってことで、時間は今日と同じぐらいな!じゃ、もう行くわ!」


 そう言って俺はシルヴァに話す隙を与えず、小走りでその場を離れていった。


「あぁ……、いっちゃった」


 まさか、本当にゴリ押しで行けるとはな。とはいえ、何度もこのごまかしが通じるわけもない。今日のことで種は蒔いたが、まだ足りない。明日あ・れ・をして、それでやっとって感じか。


 なんとか明日までは身分を明かさせずにいきたいところだな。だが、今日接してみてわかったが、あいつはこちら側に引き込める、そして俺とあいつが組めば……。ははは、これはしばらく退屈せずにすみそうだ。さて、先のことは置いといて、まずは明日を乗り切る方法を考えないとな。そんなことを思いつつ俺は帰路につくのだった。

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