第6話 対面

 封印寺の夜。

 いよいよこの日はお見合いの日。お菊さんは緊張を和らげるために皿を数え始めた。

「九枚、十枚、十一枚……お岩さん! 大変! 何度数えても十枚以上あるの」

 お岩は大忙しでそれどころではない。


 そして、お見合いの時間がきた。ゾンビも元気になるような丑寅の刻。芝生の上に墓石を倒して机にしていた。墓石には銅鑼どら烏帽子えぼしと彫り込んであった。どこかの公家のものだろうか、銅鑼家は今どこへ行ったのだろうか。


 お岩は邪魔になった塔婆を納骨堂においてお供え物だけを銅鑼烏帽子の墓の上においた。


 銅鑼烏帽子の墓を挟んで、お菊さんと門将は向かい合った。お菊さんの隣には仲人のお岩さん、門将の隣には――偽平氏にせへいしの祖――たいらの盛貞もりさだが座った。


 お見合い開始。


 門将がまず口を開いた。

「ご趣味は?」

 定番の質問をする悪霊。お菊は恥ずかしそうに答える。

「お皿を少々……」


 しかし、恥じらう乙女は長くは続かなかった。銅鑼烏帽子の墓を殴りつけ、怒りを露わにした。

「あのクソ野郎! 皿を一枚割ったくらいであたしんことを!」

 お菊さんの周りには怒りに燃える赤い火の玉が出てきた。


 門将も自分を討ち取った怨みを吐いた。

「私も自分を討ち取った従兄弟の盛貞の事を思い出すと腸が煮えくり返るわ。今は隣におるがの」


 隣に控えていた盛貞は、はにかみモジモジしながら言った。

「あの、もし生まれ変わっても、また門将と従兄弟同士で生まれてきて、また首を打ち取りたいです」

 爆弾発言をした盛貞は照れて顔を真っ赤にした。場の空気が混沌としてきて、火の玉が出てきて紫色に輝く。


 気を取り直してお菊さんは門将に話しかける。二人が笑うたびに盛貞がはにかんで話に入ってくるので、お岩は盛貞に注意をする。

「盛貞さん、少し静かにしてくれませんか?」

 盛貞はより一層はにかんだ。

「門将をまた打ち取りたいから」

 本当にいらないことを言うやつだ。


 日本は空気を読むことを気にし過ぎであるが、盛貞はもっと空気を読むべきだ。場の空気が淀んで、怨念の紫の霧がかかっているのに全く気付かない。盛貞はそういう奴だ。


 お岩さんは気を利かせ「さて、後は若いお二人に……」と二人を庭(納骨堂周辺)で散歩させた。


 お菊さんと門将は二人で柳の木の下を歩き始めた。お菊さんは柳の木を指差して「門将様、幽霊が出そうですわね」とささやく。門将は「悪霊もこういうの好きじゃからのう、ついつい柳の木に群がるのじゃ」と言っているが、お前達は違うのか?


「やっぱり、柳の木は良いもんですね」

 盛貞がさも当然と話に入ってきた。


 二人が睨む。盛貞は、はにかむ。お岩さんは盛貞を連れ戻した。


『次回「納骨堂」』

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