第20話
師匠との帰り道。学校から駅までの道のり。
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普段、会話をしながら駅までの道のりを歩く僕たちだが、ずっと会話を続けているというわけではない。今のように、会話が途切れ、無言でただ歩き続ける時もある。
師匠と一緒の高校に入学し、一緒に帰るようになった最初の頃などは、何か会話をしなければと躍起になることが多かった。だが、今ではそうならなくなった。なぜなら、以前、無理に会話を続けようとして、師匠に咎められたことがあったからだ。「無理しちゃだめだよ」と。
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無言で歩き続ける僕たち。僕たちの横を、数台の自転車が走り抜けていく。自転車に乗っているのは、いずれも学生。おそらく、部活帰りだろう。大きな荷物が、自転車の前かごに入れられている。話しながら帰る彼らの声は、周囲に大きく響き渡っていた。
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チラリと師匠の方を見る。すると、師匠もこちらを見ていることに気が付いた。師匠の綺麗な顔が、夕日に照らされてキラキラと光っている。
「えっと……どうかしましたか?」
「…………」
「……師匠?」
「……今、君は、何を思ってるのかな」
いつものような穏やかな表情を浮かべる師匠。その声は、どこか楽しげだった。
「今……ですか?」
「うん」
「えっと……特に、何も……」
「そっか」
そう言って、師匠は特に何をするでもなく歩き続ける。再び、僕らの間に無言の空間が広がる。
…………
…………
「……師匠は」
「ん?」
「師匠は、今、何を思ってるんですか?」
「私?」
「はい」
先ほど師匠がした質問と同じ質問をする僕。そういえば、こういった質問をするのは初めてだ。師匠がどんな答えを返すのか、ワクワクしている自分がいた。
「そうだね……」
師匠は、顎に手を当ててじっと何かを考えこんでいた。師匠の歩く速度が、先ほどよりも少々落ちる。それに合わせるように、僕も歩く速度を落とす。
師匠が言葉を発したのは、それからしばらく後のことだった。
「楽しいなって、思ってるよ」
「楽しい……」
「うん」
師匠は、『何が』とは言わなかった。だが、何となく、師匠が何を言おうとしているのか分かる気がした。
「あの……やっぱり、さっきの、訂正してもいいですか?」
「……さっきの?」
「はい。『特に、何も』って言ったやつです」
「……どう、訂正するのかな?」
そう尋ねる師匠の表情は、期待に満ち満ちている。
そんな師匠の様子に少しだけ躊躇いながら、僕は、心の奥底にあった思いを、ゆっくりと言葉にする。
「僕も……楽しいなって、思ってます」
「……そっか」
僕の言葉に、師匠は、ニコリと微笑んだ。
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