第三十五話 おじいちゃんとおばあちゃんと僕達

「かあたん、ごはんいっぱーい」

「そうよ、いっぱーいよ。おじいさまとおばあさまが来るからね」

「じいじ! ばあば!」


 父さんが、トシュテンさんのところに行っている間に、母さんは食事を作っていたのだけど、その量がすごい。


 いつもは大体シチューとサラダとパンで済ませている食事が──住んでいる場所を考えると結構贅沢だけど──、今日はそれに加えミートパイや鶏大の鳥の丸焼きなども準備されている。


「母さん、このお肉どうしたの?」

「おじいさまが持ってきてくださったのよ」


 そっかおじいちゃんが持ってきたのか。 

 テーブルに並んでいるごちそうを見ているとお腹が鳴った。なんか初めてご飯が待ち遠しくなったな。


「にいたん、おなかなったー」

「うん、鳴っちゃった。おいしそうだね、アリーチェ」

「あい! かあたんすごいの!」

「すごいね」

「──お腹すいたのね、ルカ。少し食べる?」

「まだいいよ。みんなで食べたい」


 僕の返事に母さんは、僕を抱きしめて「少しくらいならいいのよ?」と言ってくれたけれど、食べ始めるのはやっぱりみんな一緒がいいともう一度言うと、「分かったわ」とだけ言って、僕とアリーチェの頭をなでてから、食事の準備に戻っていった。


 それから、父さんたちが帰ってくるまで暇なので、並んで座ってからアリーチェに掌を上に向けさせて、アクションゲームのジャンプステージように、僕とアリーチェの掌を棒人間に効果音を付けて飛び移らせ遊んで過ごす。


 棒人間のジャンプをわざと届かせないで、落ちるギリギリで腕を引っ掛けて、登らせたりすると、アリーチェが驚いた声を上げるので、ちょうど準備が終わった母さんが様子を見に来て、そのまま隣りに座って母さんも掌を出してきたので、三人で一緒に遊んで父さんの帰りを待った。



「今帰ったぞ―、親父とカロいてぇ、──お、お袋も一緒だぞ。迎えはそこでいいから待っていてくれ」


 玄関から父さんの帰ってきた声がしたけど、途中で父さんに何かあったのか痛がっていた。

 平気そうだからドア枠に小指でも軽くぶつけたかな?


 「わかったわ」と母さんが、返事をして椅子から立ち上がった。

 そして、僕にも立つように促して、アリーチェを抱っこして迎え入れる準備をした。


「お邪魔するぞ、ソニアちゃん。ルカもアリーチェもひさしぶりだな、おじいちゃんだぞ。覚えているか?」


 そういいながら、少し腰が曲がった父さんの髪色と同じで、父さんが歳を取るとこうなるのかな?って顔をしたおじいちゃんがはいってきた。

 こんな顔だったかな? 顔まではあんまり覚えてないや。

 

「お久しぶりですね。エドワード、ソニアさん」


 そして、その後ろから母さんの姉と言っていいくらいの見た目の、妙齢の女性がはいってくる。うん、確かにこの人がおばあちゃんのはずだ。

 見た目からはとてもじゃないけどおばあちゃんには見えない。

 って、あれ? よく見るとおばあちゃん、髪の色は銀髪だけど、顔はシスターに似てるな。


「いらっしゃいませ、お父様、お母様」


 少しおばあちゃんの顔を見ていたけど、母さんの挨拶にハッとして僕も続けた。


「いらっしゃい、おじいちゃん、おばあちゃん」

「いらっしゃいなの、じいじ、ばあば」


 挨拶の後、僕は「覚えてるよ」と話し、アリーチェも「あーちぇも!」と母さんに抱かれたまま元気よく腕を上げていた。

  二人のことを僕が覚えているのはおかしくはないけど、まだ幼いアリーチェがちゃんと覚えているなんて、すごいよね。

 前に会ったときは確か、アリーチェがなんとか単語で話すくらいの時だったのに。


「ほう! アリーチェはすごいな、まだこーんなに小さい頃だったのにな」


 と、指で小ささを合わして、アリーチェに笑いかけていた。

 アリーチェは「そんなにちいさくないの!」と、ほっぺたを膨らませていた。

 いつものようにほっぺを指でつついて、ぷすーとしようとしたら、母さんに先を取られてぷすーを奪われた。ざんねん。


「──ルカも、よく覚えてくれたな。おじいちゃんは嬉しいぞ」


 なんか見た目と話し方に違和感を感じるな、少し腰が曲がったおじいちゃんなのに、父さんと同じような喋り方だ。

 おじいちゃんが、僕の脇を抱えて持ち上げた。


 僕を持ち上げるおじいちゃんは腰が曲がってるとは思えないくらい、軽々と僕を持ち上げている。その腕も服に隠れているけれど鍛え抜かれているみたいだ。

 お昼くらいに父さんがおじいちゃんは強いって言ってけど、何となく分かるな。

 魔力をわざと乱してるのは制御の練習か、なにかかかな?


「エドワードもソニアちゃんもよく頑張ったな」

「何いってんだよ、親父。俺もソニアも普通にやってきただけだぜ」

「そうか……そうだな」


 僕を抱っこしたままおじいちゃんと、父さんが話をしていると、おばあちゃんが私も抱っこしたいですと言うと、そのまま僕をおばあちゃんに渡して、おじいちゃんは変わりにアリーチェを抱っこし始めた。

 

 僕とアリーチェが代わる代わるおじいちゃんとおばあちゃんに抱っこされた後、満足した二人と僕たちで、母さんの食事をみんなで摂った。おじいちゃんもおばあちゃんも母さんの食事にはべた褒めだったな。

 

 食事が終わり、父さんが魔力草のお酒を持ち出してきた。


「親父でもこいつは好きには飲めないだろ?」

「そうだな、魔力草の酒は生産地で飲まないと本当の旨さは出ないからな」

「だろ? まあ一杯やってくれよ。おっと、ルカ、おじいちゃんにあれを使わせてもいいよな?」

「僕はもちろんいいよ。それは母さんのだし、母さんはいいの?」

「母さんもいいのよ」


 父さんはガラスの徳利とお猪口を取り出して、徳利にお酒を移してからおじいちゃんの前に置いたお猪口に注いだ。

 その様子をおじいちゃんは真剣な顔と眼で見ていた。 


「うまい……だが、エドワード、こいつはどうした? こんな物この村で手に入るようなもんじゃねぇぞ」

「なんだよ親父、こわい顔してよ。こいつはルカが創ってくれたんだよ。魔術なら簡単にできるもんだろ?」

「──出来るわけ無いだろう。ガラスで出来ているこいつは、魔術で出来ないのは当たり前だが、職人でも、これだけの造形の物作るのにどれだけの腕がいると思っている」


『当たり前だろ、誕生日プレゼントにそいつを手に入れるのにどれだけ苦労したことか』 

 あ、あれ? また何か聞こえたような? すこし周りを見てみたけど隣りに座っているアリーチェが僕を見ていただけだった。


「ルカ? どうやってこれを創った? しかもこいつには魔力は感じないから魔術では確実にないぞ」


 おじいちゃんが、僕に聞いてくるけどそれは僕が一番知りたい。

 多分創造魔法か何かだとは思うけど。


「実はよく分からなくて、なんか父さんがジョッキで飲みづらそうだな―と思ったらポロリと出てきた?」


 そうとしか僕にはわからない。


「そんな適当なことで、こいつを創り上げたのか……」

「僕にも分からないんだけどね」


 それを言ったら、おじいちゃんは真剣な顔をして考え込んだ。そして顔を上げて、僕に掌をこちらに向けた。


「ルカ、これは出来るか?」

「親父、一体何なんだ?」

「ちょっと試すだけだ、少しだけだから黙ってろ」


 父さんが止めようとするけど、そう言っておじいちゃんは人差し指の先に二cmくらいの綺麗な玉のを水の生活魔法で創った。


「これでいい?」


 その真剣な表情に気圧されながらも、おじいちゃんと同じように掌を出して、人差し指の先に水の玉を生活魔法で創る。


「歪みすらなく創り上げるとはな、どのくらい維持できる?」

「どのくらいって魔力を通してればいつまでも出来るけど?」

「……そうか、じゃあこれはどうだ?」


 そう言って一度、水をジョッキに落とした後、水魔法と土魔法を指の先に交互に創り出したので、僕も水を消した後、同じように創り出した。


「……なんだと」


 僕がすぐに同じことをやったのを驚いたと思ったらそうじゃなかった。


「生活魔法で創ったものを、魔力に戻しただと? こいつはとんでもねーな」


 ええ? 普通にできないの? そういや、神父様も水を創ったときは、瓶か何かに落としたような。

 おじいちゃんが真剣な顔をした後、父さんの背中を叩いてお前の息子は大したもんだと大笑いし始めた。


「いいぞルカ、お前には才能があるみたいだな」


 笑いながらそういった後はもう僕の魔法のことには触れずに、父さんとおじいちゃんはお酒を飲みながら、明日からのことを話し始めたので、僕たちはおばあちゃんとお話をしながら夜は更けていった。

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