第52話! 黒木礼薙、参戦!?

「おいっ! アンタ、アタイをからかっているのか!」


「えっ? 別にからかってなんかいないよ?」


「だって、アタシ的には、団体戦のメンバー集めているんだから、入ってくれるなんてタワシの舟だもん」


「タワシ? え? なんだって?」


「あっ、わかっちゃった私……渡りに舟って言いたいんだ……」


「それっ! それだよレンちゃん!」


「後輩に間違いを指摘されて喜んでるんじゃないわよっ!」


 レンの訂正にぱんっと手を叩くハガネにクスミが突っ込んだ。


「いやあ、レンちゃんもすっかりアタシのことわかってきたなぁ、って思うとなんだかうれしくってねえ」


「いや、私も別段わかりたくはないんですけどぉ~」


「それで? アタイを仲間に入れるのか入れねえのか? どちらにしてもきちんとした理由を聞かせてもらえねえか?」


「うん。もちろん、入れてあげるよ。でも大将を任せるからにはそれ相応の力量を示さないと無理でしょ?」


「まあ、そりゃあそうだが……」


「いきなりメンバーに入れてください、大将にしてください、しかもその理由がただの私怨……これで納得しますは筋が通らないよ」


「むう……言われてみれば、アタイが軽率だったな……すまん」


「はい。というわけで、今日から新しいお友だちが増えましたー! パチパチパチパチぃ~♪」


「うっわ……軽っ……」


 すっかりハガネの突っ込み役が板についてきたレンだった。


「でも、いいのでありますですか? ハガネ先輩が大将でなくって?」


「アタシは別にいいよぉ。だいたいその、なんとかって人? え~っと……なんだっけ? モミアゲ?」


「最上澄叡だ!」


「アタシ、そんな人知らないし。全然大将くらい譲るよ」


「ありがとう! それじゃあ、よろしく頼むよ!」


「ただし、勝ってもらうけどね」


「もちろんだ! その為にアタイは厳しい特訓をしてきたんだから!」


「どんな特訓をしてきたのか知らないけど、それは関係ないよ。ここではアタシの言う通りにしてもらうから」


「大将にまで据えてもらえるんだ。文句はないよ」


「それじゃあ決まりだね! みんなもそれでいい?」


 クスミは元よりメンバーのことはハガネに任せているし、ジュリの実力は本物だと理解しているから異議はない。

 レンもいきなり大将にしてくれという物言いに腹を立てただけで、ハガネが了承するのなら、なにも言うことはない。

 問題はハガネが大将として出ることを前提にして心酔しているマイだったが、先程手合わせをして、その実力は推し量れていた。

 なによりも、ハガネの戦法があって初めて得られた勝利なのだ。

 自分一人では年上で経験豊富なジュリといい勝負になったかどうかすらわからない。


「アタシも……ジュリ先輩なら、戦力になると……思いますです」


「さあっ! というわけであと2人だ!」


「ん? 小豆あずきの姿が見えないようだが? あいつはまだメンバーに入ってないのか?」


「あずき……?」


「って、誰?」


「小豆だよ! 小豆永遠あずきとわ! 総合武術会、女子の部では常連だったはずだ。確かこの志命堂学院の生徒だったはずだけど?」


「小豆永遠……って……えっ? でも……その人って……」


「なに? 知っているのチヨちゃん?」


「名前だけはね。珍しいから覚えていたけど。でも、その人……確か茶道部だったはず……」


「茶道部の人が格闘をやっていますですか!?」


「なによそれぇ……戦いながらお茶でもするの?」


 マイとレンが並んで驚きを口にする。


「茶道が隆盛になったのは戦国時代だ。その茶の席で命を狙われても対応できるように編み出されたのが彼女の茶武道だって聞いたことがある」


「つまり……古武術の流れを汲むってことだね」


「よぉし! じゃあその小豆ちゃんに当たってみることにしよう!」


「ちなみにその人、ボクたちの先輩だけどね」


「あっ、それよりもさ、チヨちゃんさっき、なにか大変だとか言ってなかった?」


「あっ! そうだった! 穂高さんが乱入したことですっかり忘れちゃってたよ!」


「そりゃあ悪かったなぁ……」


「あ、いいんだよ。それに穂高さんにも無関係なことじゃなかったしね……」


「えっ? アタイと……ってことは……」


「そう。あなたの宿敵、最上澄叡さんも関連している」


「チヨさん? それで? 一体なにがあったの?」


「うん。今度の団体戦の申し込みの手続きを進めていたんだけど、ある参加チームにこの名前を見つけたんだ」


 チヨはスマホを取り出して、画面を見せた。


「誰だれぇ?」


 と無邪気に覗き込んだハガネの眉尻が少し跳ねた。


「えっ……これって……」


 そこには最上澄叡が申し込んだ団体戦のメンバーが記載されていた。


 最上澄叡

 紅絹安菜

 青蓮院沙那子

 浅黄奈玖流

 桃瀬真南

 美登里七香


 そして……最後にはハガネたちのよく知る名前があった。


 黒木礼薙


「えっ……なんで……」


 驚愕するハガネ。その態度にクスミもそのメンバーのリストを確認する。


「礼薙さん!? そんな……同姓同名……なんてことはないわよね?」


「でも礼薙ちゃんは、その日は家の大事な用事があるって……そう言ってたよ?」


「その用事ってのが……まさか……」


「ふんっ。なんだかよくはわからないけど、アンタたちの身内が引き抜かれたってことかい?」


「いや……引き抜きとかじゃないわ……だって、この団体戦を教えてくれたのって、礼薙さんだもの……」


 クスミは記憶を辿るようにこう言った。


「じゃあ……黒木さんがハガネちゃんに大会に出るように薦めたってこと?」


「えっ……つまりそれって……」


「あっ……罠ではありませんですか? その可能性がありますです!」


「そういえば、最上のやつ、最近古流の武術家ばかりに声を掛けまくっているって話を聞いたな」


「つまりハガネちゃんの対策を練っているってことだよね、それって?」


 ジュリの言葉に無関心なハガネに対して、チヨがそう結論づけた。


「ああ。しかも最近、ある武術家をコーチに招き入れたって話だ」


「古流のコーチ……ふぅん……」


「どうかしたの、ハガネ?」


「その人……例の黒のなんとかと関係あるのかな?」


「黒の? なんの話だ?」


「んんーーーーーーーーっ! そんなことはどおでもいいやっ!」


 と鬱屈とした気分を振り払うようにハガネは両手を振り上げると共に声をあげた。


「とにかく、その小豆ちゃん? その人に会いに行こう! メンバーも集まらないと、そもそも大会にも出場出来ないんだし!」


「そりゃあそうだ。アタイも着いていくぜ。小豆にも改めて会いたいしな!」


 そう言ってハガネとチヨ、そしてジュリの三人で茶道部へと向かうことなった。


 クスミは相変わらず空手部の道場の片隅で平均台に乗り、マイとレンはチア部へと戻らされたのだった。

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