九
その日、碧はいつもの大きなチョコレートパフェではなく、オムライスを注文した。
こじんまりとした皿に乗せられた卵と御飯を淡々と口に運んでいる。
「こんな事ってあるんだね〜偶然にも程があるよね」
神楽はなかなか口を開かない碧と僕らを気にもとめず、1人べらべら喋りだした。
「それにしても写真のJK碧ちゃん可愛すぎて、頑張って目に焼き付けたよ〜」
「…そろそろ黙れよ」
呆れたように隼人が返す。
それと同時に碧が食べ終わったようで、急に声を張りながら「ごちそうさまでした」と言い放った。
「お腹空きすぎて死ぬかと思いました〜
最初の手がかりを見つけられた喜びで飛び上がりたかったんですけどね。お昼ちゃんと食べておけばよかったです」
「え、お腹空いてて喋られなかったの?」
「え?はい、そうですけど」
さも当然のように返す碧に、僕らは一気に緊張の糸が解けた。
「碧さん、ショックで落ち込んでて話せないのかと」
「元気みたいでなによりだよ」
隼人と僕は復活した碧にそう言った。
「変な気使わせてしまったみたいでごめんなさい。ショックというか驚きはしましたけど、悲しいわけないじゃないですか。
やっと自分の叶えたいモノの道筋が見えてきたんですよ、もう叫びたくて仕方がないです。」
それはさすがにやめてくれ、と僕は静止する。
僕達の心配は杞憂に終わったようだ。
「明日にでも私が通っていた高校に話を聞いてきます。皆さん、ありがとうございます」
ぺこり、と頭を下げる碧の表情は柔らかい。
「僕らは何もしてないよ、君のバックで好きな事をやってるだけだから」
「いえいえ。本当に有難いですし嬉しいんです。
何より私が音楽を好きだったのが、凄く嬉しいです。
…あの病院で音楽を見つけた時、実は前の私に導かれてたんじゃないかって思って。
変な話ですけど、記憶を失ったくらいで私はまるっきり変わったりしてないんだって。
何でかって聞かれたら言葉にはできないんですけど、共通点を見つけると安心したような気持ちになるんです。
今日は良く眠れそうだな〜って。」
口早に話す碧は、Recollectionを結成した時のような喜ばしい表情で、僕はそれに癒されていた。
「でもやっぱり事故のきっかけとか、両親の事とか気になるよね〜」
突然確信めいたことを言う神楽に、また隼人がツッコミを入れる。
「バカ、少しは気遣えよ」
「ええ!?何の!?」
「大丈夫ですよ、もし両親が私を探す気がなかったとか、事故じゃなくて誰かに殺されかけた〜とかいうモノでも私は受け入れるつもりです」
「そんな映画とかドラマみたいな事ありますかね」
そんなミステリーみたいな…と思っていたら、隼人が同じことを口にしていた。
「あるかもしれないじゃないですか。そもそも記憶喪失っていう境遇自体が珍しいって聞きましたし」
「それは間違いないよ碧ちゃん」
間髪入れず神楽がフォローに回る。
全くこいつは…という視線を隼人から感じた。
その後4人で談笑しながらこれからの事を話し合っていた。
何はともあれ、まだまだ心配な事柄が多い。
何か大人が同行しなければならない事があったら僕らが着いて行く事。
悩み事、困った事があったらすぐに言う事。
__等を碧に約束させた。
数日後からまたライブに向けての練習が始まる。
今までとは違い、少し気合が入ったような、チームワークが出来たような気がした。
順調に行き過ぎている、とは思うものの。
このまま何事もなく過ぎて欲しい、と願っている自分がいた。
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