怪文書集

春菊 甘藍

問いと醜い願い

 この世には、私の目の前には、幸せになって欲しい人が多すぎる。

 私の手はちっぽけで、誰一人とて救えない。


 あまりにもその人達は苦しめられ、痛め付けられるものだから、

 叫ばずにはいられなかった。


 その人達が何をした? みんな必死に生きている。


 何故だ? 何故そうも簡単に人を傷つける?

 何故だ? 何故そうも残酷に人を貶める?

 

 何故だ? 何故だ? 人を思いやる心さえ忘れてしまったのか?


 こうも醜くなるのなら、私は人でいたくない。

 こうも愚かになるのなら、私は獣に戻りたい。


 感じる心があるからか? 

 ならば心など殺してしまえ。


 余計な事を考える脳があるからか?

 ならば頭蓋ごと壊してしまえ。


 見えすぎてしまう目があるからか?

 ならばその目を潰してしまえ。


 要らぬ事を言う口があるからか?

 ならばその舌切り落としてしまえ。


 聞こえすぎてしまう耳があるからか?

 ならば蝸牛に箸を突っ込みかき回してしまえ。


 過敏な皮膚があるからか?

 ならば皮を引き裂き剥いで捨ててしまえ。


 必要ならば、手足も折ろう。


 必要ならば、五臓六腑も差し出そう。


 必要ならば、この穢らわしい命だって差し出そう。


 だから。


 だから、どうか。


 私に大切な人達に幸福を。

 その身に抱えきれないほどの幸福を。


 どうか、貴方よ幸せに。

 

 言葉を喚くことでしか、私に出来る事は無い。

 故に言葉は尚軽く、人の心は動かせない。


 されどどうかと願い乞う。


 苦しむ人が報われることを。


 

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