第32話 終結

 「憎い、その暖かさが憎い~~~~っ!」

 クィーン・フロストンの猛攻を盾と刀で打ち払うフリーデンモルゲン。

 北風と太陽の童話があるがどんなに北風が荒れ狂おうとも、フリーデンモルゲンは動かず熱を出し続ける太陽となっていた。

 「貴様がどんなにこの光の暖かさを憎もうとも、北国の白夜の如く消える事はない!」

 ジークリンデ、黒月、英霊、仲間、竜也が出会い紡いできた絆を辿って辿り着いた竜騎士王と言う場所。

 フリーデンモルゲンとなった竜也には、クィーン・フロストンが荒れ狂う巨大な駄々っ子のように感じられた。

 「悪いが止めさせてもらう、話があるならそれからだ!」

 「だ~~~~ま~~~~れ~~~~っ!」

 世界ごと凍り付かせようと全身から冷気を放出するクィーン・フロストン。

 だが、フリーデンモルゲンとジークリンデから放たれている光がその冷気を蒸発させて無効化する。

 「終わりにしよう、ゾンネ・エクスプロジオン」

 フリーデンモルゲンとジークリンデが全身から光を放ち、太陽の如く巨大な黄金の光の球となり突進しクィーン・フロストンを包み込んだ。


 光が消えると、雪原だった戦場は草木が満ちる緑豊かな草原へと様変わりしていた。

 銀髪に白いドレスを纏った美少女、プリンセス・フロストンが草原の上で泣き崩れていた。

 「嘘! 私が負けたの? そんな馬鹿な! 私、また一人になっちゃったの?」

 倒れ込み大地を叩き泣きわめくプリンセス・フロストン、本来持っていた氷結能力もいつの間にかなくなっていた。

 「さて、どうするべきか?」

 「そうだね、どうしようか?」

 「何と言うか、手を降す気にはなれんぞ?」

 こちらも力を使い切り、元に戻った竜也とジークリンデと黒月。

 

 自分達の前で泣きじゃくる、只の少女となったプリンセス・フロストンの処遇をどうすれば良いのか悩んでいた。

 気が付くと、プリンセスの周りに、随分と可愛くデフォルメされ白い肌の小人となったアイスオーガやフロストジャイアントなど彼女の手下達がプリンセスを守らんと取り囲む。

 「その者達の処遇は、お任せいただけないでしょうか?」

 いつの間にか竜也達の傍に来ていた妖精女王のタニアが声をかける。

 「ああ、依頼人がそう言うなら任せるよ」

 「私も、もう面倒臭いし」

 「うむ、我らは雇われ者の身故に」

 竜也達はタニアに任せる事にして、一旦下がった。


 タニアが竜也達に一礼すると、プリンセスの傍へ向かい掌から光の玉を出す。

 「この者に母を返しましょう」

 その玉は、プリンセスと同じドレスを着た美しい女性の姿に変わりプリンセスを抱きしめた。

 「もう良いのです、我が娘よ」

 女性は先代のクィーン・フロストンであった。

 「お、お母様! どうして?」

 プリンセスも配下の冬の妖精達も驚く。

 「私は、一騎討ちに敗れ自分の意思で捕虜となっていたのです」

 「そんな! どうして?」

 プリンセスが養母であるクィーンに抱き付き泣きながら尋ねる。

 「ごめんなさい、私は自分の力と欲望を制御できませんでしたどんなに春や暖かさを求めても手に入らない私に妖精女王は新たな性質を得られるように常春の地に留めていてくれたのです」

 クィーンも泣きながらプリンセスを抱きしめる、その涙は温かかった。

 「お母様! お母様っ!」

 プリンセスは泣きながら、ただ養母の暖かさを受け入れていた。

 「私の願いであなたを歪めてしまい御免なさい、私の愛しい娘」

 「うえ~~~~~ん!」

 抱き合い泣き合う母と娘、それを見つめる妖精女王と竜也達。

 

 「何か、もう戦うとかじゃないよね」

 「ああ、これはもうヒーローの出番は終わりだよ」

 「我らも城に戻らせてもらおうぞ、継承者よ」

 「竜騎士様、ありがとうございましたまずは城に戻りお休み下さいませ」

 竜也達の言葉にタニアが微笑み彼らを城へと戻す。


 「おう、お疲れさん♪」

 「二人共、すまなかったな」

 「お帰り~♪」

 「やったな、お前ら♪」

 「お三方、ご活躍何よりですわね♪」

 城へと戻った竜也達を先に戻った仲間達が出迎えた。

 「あ~、何か皆先にのんびりしててするいよ~!」

 「まあまあリンちゃん、俺達ものんびりしよう」

 「そうである、もはや仕事は終わりである」

 竜也達は仲間と合流し一休みする事にした。


 フロストン王国との戦いは竜也達の勝利で終わったのだ。

 その祝勝会が城の中の食堂で行われた。

 「皆様、此度の戦いは誠にありがとうございました♪」

 タニアが竜也達に礼を言う。

 「皆ありがとう、これでこの世界も平和になるよ♪」

 ベロンも礼を言う。

 「で、あいつら結局どうなったの?」

 ジークリンデがフロストン王国の事について尋ねる。

 「あれからクィーンと対話を行い、フロストン王国は我が属国となりました」

 タニアが語る。

 「うん、そこの竜騎士達のおかげであそこら辺一帯が地域レベルで邪悪な成分が浄化されちゃったし性質も変わっちゃったしね♪」

 ベロンが続けて言うには彼らはもはや邪悪な妖精ではなくなったし、討伐などをする必要はない。

 「これからは春と冬の妖精の国として共に生きてゆこうと思います、地球への

贖罪は宗主国である我々が行っていきますので彼の者達にご容赦を」

 タニアが頭を下げた。

 

 「ま、依頼人がケツ持つってんなら飲み込むぜ」

 飛車が納得する。

 「先輩、お下品だよ?」

 希がツッコむ。

 「椿原の品位を下げんなよ先輩」

 烈太も呆れる。

 「後で委員長に言っておかないと」

 ジークリンデが笑う。

 「待て、お前ら先輩を売るな!」

 飛車が慌てると皆が笑う。


 「まあ、高速君が言うようにその辺りはお任せします」

 牛田が笑顔で言う。

 「こちらとしても、女王陛下の決定に従いますわ♪」 

 エリザベスも微笑む。

 「おい、サリ女と王道館の方がずりーぞ!」

 飛車が叫ぶが周りからは人徳の差と言われてしまった。


 「何せよ、クリスマスまでに戦争が終わったな♪」

 「そうだね、戻ったら期末試験だけどね」

 竜也とジークリンデが語り出して椿原の一同がハッとなる。

 「そ、そうだよ期末だよ!」

 「ああ、テストがまだあったか!」

 「ヤベえ、授業出れてねえから範囲がわかんねえ!」

 「たっちゃん、私達の次の敵はテストだよ!」

 「フロストン王国よりも手強いな」

 慌てふためく椿原チーム。


 「この牛田、試験勉強にも抜かりなしだ♪」

 他校生の牛田は余裕だった。

 「私も、これでも文武両道なので問題なしですわ♪」

 エリザベスも余裕の笑みを見せる。


 「ねえタニア、プチは何処の学校に留学させようか?」

 「そうですねえ、どの学校も面白そうですし迷いますわね♪」

 妖精女王の夫婦は、自国を救った学生のヒーロー達を見て笑う。


 竜也とジークリンデは、戦勝気分も吹き飛んだ状態になった。

 翌日、竜也達は式典などを辞退して大慌てで地球へと帰還した。


 「たっちゃ~ん、この公式わかる~?」

 「リンちゃんはこの時代の出来事はわかる?」

 地球のファフナー邸に戻ってから、竜也達は戦いの事など忘れて試験勉強に取り組んでいた。

 「この時代は、恐怖の大王軍との戦争で~?」

 「この問題はこの公式で計算すれば解けるはずだよ?」

 リビングには教科書が束と積まれ、全教科の予想範囲を勉強し合う二人。

 「我は鎧の身なれど、二人が勉学に励めるように支えるのである」

 黒月は鎧なのにエプロンをして、竜也達の為に家事に励んでいた。

 二人は学生らしく、試験前日まで学校と家で勉強に取り組んだ。


 そして、期末試験が無事に終わた教室。

 「皆さん、期末試験お疲れ様でした♪」

 担任のピンキー先生が試験期間の終了を告げる。

 生徒達全員が机の上にうなだれた。

 「……お、終わったぜ」

 「ああ、後は結果を待つだけだ」

 何故彼らが此処まで疲弊しているのか?

 椿原の試験は、ペーパーだけではなかったからだ。

 「ペーパーテストの後に実技で、次はまたペーパーの繰り返しって」

 竜也がぼやく、一般科目のペーパーテストが終われば専門の授業の実技試験

で教室移動を行ってはまたペーパーテストを受ける為に移動する。

 「まったく、トイレに行く時間も取れなかったしな」

 烈太が恨めしそうにぼやく。

 そんなハードな三日間を乗り切った生徒達は疲れていた。

 彼らの希望は、テストが終われば補習がなければ冬休みが待っていると言う事だった。

 「俺、冬休みは楽しく過ごすんだ」

 クラスの誰かがそんな事を言えば

 「止めろ、それは死亡フラグだ! 補習したいのか!」

 別の誰かがツッコむ。

 そんな試験開けであった。


 「ジークリンデちゃんは、お休みはどうするの?」

 花がジークリンデに聞いて来た。

 「オフ、完全にオフだよ~! もう、今年は仕事しないから!」

 ジークリンデが叫ぶ。

 「私もそうしたいな、事件が起こらなければ」

 花も同意しつつ目のトーンが消える。

 「そ~だよね~? 悪い奴らは盆暮れ正月関係ないからね~」

 ジークリンデも目のトーンが消える。

 椿原の生徒達は、学生でもあるがヒーロー。

 ヒーローたる者、休みであっても事件が起こればそうはいかないのであった。


 その日は皆、亡者のようにくたびれ切って下校した。

 そして、結果発表日。

 「やった~~~♪ どれも平均点越えてるよ~~♪」

 「ああ、やったぜリンちゃん♪ 俺も同じだ♪」

 竜也とジークリンデは自分達の試験結果が良好であった事に喜んだ。

 クラスの皆も、赤点を回避できたなどと喜びあっている。

 だが、そんな中ピンキー先生は笑顔でこう言った。

 「岸野君と、ファフナーさんは出席日数の都合で補習授業を受けましょうね♪」

 何と言う残酷な言葉であろうか、竜也とジークリンデは補習を言い渡されてしまった。

 「お、おおう! そういうオチがあるとは思わなかったぜ」

 「そんな~! 私達戦いも勉強も頑張ったのに~!」

 うなだれる竜也とジークリンデ。

 「うんうん、気持ちはわかるけどシステムには逆らえないよ」

 先生も目のトーンが消える。

 クラスの仲間達が竜也達に憐みの視線を向けた。

 「まあ、クリスマスイブとクリスマスは土日でお休みだしお正月からはお休みだから頑張りましょうね二人共♪」

 ピンキー先生がフォローになっていないフォローを入れる。

 こうして、竜也達の高校一年の冬休みに補習を迎える事となった。

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