第20話 心の師

 「よっし♪ 取れたぜ赤熱せきねつのライブチケット♪」

 三校戦が終わり夏休み終盤、竜也は自室のパソコンの前でガッツポーズを取った。

 「まさか二枚も取れるとは、リンちゃんを誘おう♪」

 ヒーロー達の芸能ユニット、赤熱のチケットを手に入れた竜也は隣のファフナー邸へと向かった。

 「……たっちゃんって、ちょっと変わった趣味だよね?」

 誘いに来た竜也に対してジークリンデの反応は低かった。

 「そうかもな、けどリンちゃんと一緒に行きたいんだ」

 「たっちゃんとデートは良いんだけど、私あの熱子さんってのが苦手」

 ジークリンデが言う熱子ねつこさんとは赤熱のファンのおばさま達。

 ジークリンデは歌謡曲系の音楽は好みではなかった。

 「今回だけで良いから、次はリンちゃんの方に合わせるから」

 説得する竜也、ジークリンデは仕方なく承諾する。

 「良いよ、けどそれだけじゃ足りないから今夜は帰さないからね♪」

 「え? ちょっと待って!」

 「問答無用♪」

 そして二人は共に朝を迎える事となった。

 

 「そう言えば赤熱って確か、リーダーがタイヨウザーの人だよね?」

 ジークリンデが竜也に朝食で、ツナサンドとオニオンスープにオニオンサラダを出しながら思い出す。

 「そうだけど、何故に玉葱多めなのかな?」

 「たっちゃんを元気にしてから、美味しくいただく為♪」

 「ドラゴンって、いつもそう! 竜騎士を何だと思てるのっ!」

 「夫は妻に押し倒されるもの、古事記にもそう書いてある」

 と、アホなやり取りをする二人。


 「まあタイヨウザーは、俺の心の師匠だから」

 「太陽の光は闇を照らして世を晴らし、熱は悪を焼いて人の心を温めるだっけ?」

 ジークリンデが台詞を読み上げる。

 「リンちゃんも覚えてるじゃん♪」

 「たっちゃんが、タイヨウザーオタクだったんでしょ!」

 ジークリンデがむくれて叫ぶ、ヤキモチだ。

 ジークリンデは自分を笑顔にしてくれる竜也が、自分以外の相手に笑顔にされるのは嫌いだった。


 タイヨウザーは、二人が小学生時代に活躍していたヒーロー。

 全身を赤いスーツに身を包み、その上に太陽を模した大きめの帽子のソンブレロを被ったメキシカンなヒーロー。

 

 銀のサーベルで悪を斬り、必殺技の日射ビームは流行語大賞にもなった。

 ラテンのリズムで歌って踊る太陽のヒーローとして、当時人気を博していた。

 

 「俺もまさか、タイヨウザーが芸能ユニット結成するとか驚いたよ」

 「もともと変身前もマリアッチだったような? でも日本のヒーローって、結構セカンドライフで芸能界行く人いるよね」

 「実力や知名度がある人は、他にも政治家とかなるけどタイヨウザーは今でも一応戦ってるぜ?」

 竜也とジークリンデがヒーローの生活について語る。

 「お父さんも、最近久しぶりに共闘したって言ってた」

 「え、マジで? 会長羨ましいな!」

 「たっちゃんの中でお父さんの株が上がるから言いたくなかった、たっちゃんはもっと私に意識を全集中するべきだよ!」

 バンバンと食卓を叩くジークリンデ。

 「してると思うんだけど?」

 「ドラゴンは愛情も大食いなの、フンガー! フンガー!」

 ドイツ語で空腹を意味するフンガーを連呼するジークリンデ。

 竜也はツナマヨとサラダをフォークで搦てジークリンデに差し出す。

 「はい、愛情あ~ん♪」

 「あ~ん♪ って、取り敢えず誤魔化されてあげる!」

 少し機嫌が直ったジークリンデがテレビを付ければ、ニュース番組でスポーツ競技や芸能活動に励むヒーローの話題が上がる。

 「戦い方は人それぞれ何だろうな、俺らみたいななり立てが言う事じゃないけど」

 テレビを見ながら竜也は呟いた。

 「それはそうと、朝ごはんはしっかり食べてよねツナマヨもあるから♪」

 「玉ねぎが染みるぜ」

 竜也とジークリンデの朝食は盛り上がった。


 ジークリンデと朝食の後片付けなどをする竜也。

 「そういやリンちゃんは夏休みの課題は終わってる?」

 「え? そう言うたっちゃんはどうなの?」

 「終わってるけど? 何か信じられないって顔してるけど?」

 「お願い、写させて~~~っ!」

 竜也はジークリンデに自分の課題を写させた。

 「ふ~♪ 宿題が片付くって、気持ち良い~♪」

 「はいはい良かった、良かった」

 こうして、二人は心置きなく夏休みの最期を遊んで過ごせる事となった。

 竜也が一旦家に帰ると、赤熱のチケットが届いていた。


 「たっちゃん、これお父さんと行きたいんだけど定価で譲ってくれない?」

 自宅の居間で、赤熱ファンである母の姫子がギラついた目で交渉を持ちかけて来た。

 「父さんなら、取ってると思うから確認してみれば?」

 「そうね、お母さんついハンターの目になっちゃった♪」

 母がスマホで父に連絡を取ってしばらくすると、ガッツポーズを取った。

 「お父さん、チケット取っててくれたから四人で行きましょう♪」

 家族関係にダメージが入る事なく竜也達は四人で出かける事となった。

 「お義母様、熱子さんだったんですね」

 岸野家に来たジークリンデ、団扇やサイリウムと言った応援グッズを用意している姫子の姿を見てちょっと引く。

 「リカルド君、私達の大学の後輩なの♪」

 「マジかよ、何で教えてくれなかったんだ!」

 「言ったけど、信じてくれなかったじゃない?」

 「母さんにそんなコネがあるなんて信じられなかったよ!」

 憧れのヒーローが親の知り合いと聞いて驚く竜也。

 「たっちゃん、やっぱり変な所で鈍感だね」

 「ちょっと、人生損した気分」

 竜也は落ち込んだ。

 「落ち込んでないの♪ タイヨウザーに恥ずかしいでしょ♪」

 姫子が竜也の背中をはたく。

 「ああ、そうだな誰かの前にまずは自分の心を明るくする!」

 竜也は気合いを入れた。

 

 「そう言えば、お義父様達はどうやって取れたんです?」

 ジークリンデが姫子に尋ねる。

 「リカルド君からお父さんにチケットを送ってもらってたの♪ クラウス君達も来てるはずよ♪」

 「え? そうなんですか!」

 ジークリンデが微妙に嫌そうな顔をすると、岸野家のインターホンが鳴った。

 「俺が出るよ♪」

 と竜也が応対に向かうと、噂をすれば影とばかりにクラウスと、ジークリンデの母であるランドグリーズさんも一緒だ。

 「やあ♪ リカルドからチケットが送られて来たので来たよ♪」

 「竜也君は久しぶり♪ ジークリンデの事は宜しくね♪」

 竜也が久しぶりに見たランドグリーズは、昔と比べて少々丸くなり少しお腹が大きくなっていた。

 「お久しぶりです、おばさんは三人目ですか?」

 「お義母さんって呼んで♪ そう、あなたの義理の兄弟よ♪」

 「お母さんも来たの? 三人目がいるのに大丈夫?」

 ジークリンデも玄関へとやって来た。

 「大丈夫よ、あなたよりもずっと大人しいから♪」

 ランドグリーズが元気に笑う。

 「ぶ~! 私は今でも良い子だもん!」

 ジークリンデが竜也の腕に抱き着く。

 

 そんなやり取りを経て、竜也達は先に会場前で待つ応児と合流するべくクラウスが

手配したハイヤーに乗り出かけた。

 

 特に混雑もなく到着すると、応児が竜也達を見つけて合流できた。

 「ああ、両家揃ったな♪」

 「小さいのはシッターに預けて来たから全員じゃないけどね」

 応児とクラウスが軽く話してから皆で会場になっているサッカー場へと向かう。

 「じゃあ、俺達は一般席だから」

 「うん、お父さん達はプレミアム席だね」

 「え? 何か寂しいんだが?」

 クラウスが少し驚いて寂しがる。

 「ごめん、息子の方は自分で買ってたから」

 「たっちゃん達は、二人にさせてあげましょう♪」

 「そうだな、大人組は大人のデートと行こうか」

 「私の中には子供がいるけどね♪」

 そして、竜也達は親チームと別れて席に着いた。


 観客皆がライブの始まりを楽しみに待っていると、コート内に作られたステージが

爆発し赤熱ではなくタコやイカなどの怪人達が戦闘員達を引き連れて登場した。

 「ヒョヒョヒョ! この会場は我らディープが占拠した!」

 タコの怪人が叫ぶ、だが観客達は冷静だった。

 「リンちゃん、行って来るぜ!」

 「がんばって、たっちゃん♪」

 竜也はフリーデンに変身してコート内に降り立った。

 「ふざけるなよ怪人共、ライブの前座でこのフリーデンが相手だ!」

 フリーデンが登場すると、観客達が歓声を上げる。

 だが、会場のスピーカーからギターの音が流れて来ると更に観客は拍手を始めた。

 「ヘイ、ニーニョ♪ 君は前座なんかじゃないぜ♪」

 照明が巨大モニターの上を照らすとそこには一人のヒーローが立っていた。

 「太陽のパワー、タイヨウザー♪」

 トレードマークの太陽型のソンブレロ、赤いヒーロースーツの上に金色のチャロを纏い銀のサーベルを構えて出て来たのはタイヨウザーだ。

 「タ、タイヨウザー?」

 襲って来た戦闘員達を切り捨てつつ、心の師匠の出現に驚くフリーデン。

 「余所見はいけないぞ、日射ビーム!」

 必殺のビームを放ちながらフリーデンを奇襲しようとしていたイカの怪人を焼き殺して降り立つタイヨウザー。

 「はい、空の太陽のように全体を見ろですね!」

 ジャンプしてマスクの角からホルンブリッツェンを放ち戦闘員達を蹴散らすフリーデン。

 「ヒョヒョヒョ~ッ! 俺達を演出にしただと?」

 フリーデンとタイヨウザーに倒されて行く怪人達を見て驚く怪人。

 「このライブに釣り出された貴様らは演出以下、このニーニョの餌だ♪」

 このライブその物がディープをおびき寄せる為の餌。

 ヒーローの芸能活動は、敵を釣り出す為の戦場構築術でもあるのだ。

 タイヨウザーの煽りに傷つく怪人ことヒョウモンディープ。

 「それじゃあ、ありがたくごちそうになります!」

 ウニの怪人ウニディープの針攻撃を耐えつつカウンターで切り伏せるフリーデン。

 「良い剣技だが、腕に力を入れ過ぎだ♪」

 サーベルを素早く振り、マグロの怪人を颯爽と三枚におろすタイヨウザー。

 「全然見えなかったです!」

 「精進したまえ、いつかできるようになる♪」

 タイヨウザーと背中合わせになるフリーデン。


 「おのれタイヨウザー! だが俺はそう簡単にはやられんぞ!」

 触手を二本振り上げて回し二人へ向けて毒液を発射して来た!

 「全て焼き尽くして消毒だ、フレアシールド!」

 タイヨウザーが全身から炎を噴き出してフリーデンをかばう。

 敵が自分の技を勝ち誇るヒョウモンディープ、だが自慢の毒液が本当に全て焼き尽くされてしまい絶望する。

 「全くのノーダメージだ♪ さてニーニョ、止めは一緒に刺そう♪」

 タイヨウザーの動きに合わせて背中合わせになり二人で敵へ劍を向ける。

 「光と闇のアンサンブルを受けて見ろ、エル・ソル・イーラ!」

 「ドゥンケル・ヒンリヒトゥングッ!」

 太陽の如く燃え盛るタイヨウザーのサーベルと、夜の闇の如く黒いフリーデンの剣

による斬撃を受けたヒョウモンディープは爆散した。

 「アディオ~ス♪」

 敵を倒した後、タイヨウザーだけがくるりと回転し観客達に一礼すると万雷の拍手が巻き起こった。

 「お疲れ様、次のレッスンは近い内にやろう♪ 客席でライブを楽しんでくれ♪」

 タイヨウザーに言われフリーデンはコートから退場し元に戻って客席に帰ってた。

 「お疲れ様、格好良かったよ♪」

 「ありがとう、何かちょっとした社会見学になったよ」

 アクシデントを片付けた竜也は、ジークリンデと憧れのヒーローが率いる芸能ユニットの歌ありコントありのライブを楽しんだのであった。

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