第13話 二戦目、そしてドラゴンレースへ

 「へ~? あんたみたいな堅物も結婚できたんだおめでとう♪」

 黑いドラゴンの姿でジークリンデがアメリアを馬鹿にする。

 「そっちこそ、貴方の幼馴染みってだけで可哀そうな男ね?」

 水色のドラゴンのアメリアも言い返す。

 「あ~ん! 私のダーリンは世界一だごら~っ!」

 「何よ! 私の夫こそ、最高の王子様よ~っ!」

 試合前に旦那自慢を叫びながらドラゴン同士が柵を越えて頭突き対決を

した為に、フリーデンも相手の騎士も失格となった。

 「お~~~っと、フリーデン選手はドラゴンの暴走で失格だ~!」

 ドラゴンの声が聞こえない実況の女性は、只のハプニングのように叫んだ。

 「うぇ~~~ん! たっちゃん、ごめんなさ~~~い!」

 「貴方~っ! 申し訳ありません~~っ!」

 人間の姿に戻ったジークリンデとアメリアは自分のパートナーに抱き着き泣いた。

 「は~、よしよし♪」

 竜也はジークリンデをなだめる。

 「アメリア、泣かないで♪ 僕のお姫様♪」

 アメリアのパートナーの小柄な金髪の美少年も彼女をなだめていた。

 竜也とアメリアのパートナーの少年の目が合う。

 「どうも、僕はハンスと言います♪」

 「竜也です、どうも」

 と、挨拶を交わす。

 「お互い試合の前に負けちゃいましたし、四人でお茶でも如何です♪」

 「ああ、それはご一緒させていただきます」

 ハンスの誘いに竜也が乗る。

 「え? こいつと?」

 「そ、そんな罰はあんまりです!」

 明らかに嫌そうな顔のジークリンデと、金髪ひっつめオデコで眼鏡っ娘なアメリアが涙を流して嫌がる。

 「駄目だよ、僕と彼の騎士としての正式な試合を潰したんだからね」

 「やべえ、俺達も日本支部代表だった」

 竜也が落ち込み、ハンスは堂々とアメリアを窘めた。

 「たっちゃん、ごめん!」

 ジークリンデが竜也に謝る。

 

 会場のはずれのフードコートで四人が顔を突き合わせる。

 ハンス達はフィッシュアンドチップスとアイスコーヒー。

 竜也達は、アメリカの有名店の大きなハンバーガーとコーラ。

 「ジークリンデ、あなたはそれは太るわよ?」

 「運動してカロリー消費するから平気よ、後で野菜も食べるし」

 この時点ではジークリンデは余裕の態度だった。


 「しかし、君達は何でそんなに仲が悪いんだ?」

 「この不良娘の規則破りのとばっちりばかり受けて来たんです!」

 アメリアがジークリンデを指さして憤慨する。

 「私にはたっちゃんがいるのに、見合い話持ってくるババア殴ったりしただけ♪」

 ジークリンデは悪びれない。

 「教頭先生とのタイマン以外にも、脱走や門限破りやサボりとかしたでしょう!」

 「え~? 一緒に罰則のジャガイモの皮むきしてやったじゃない!」

 「それはこっちの台詞です、全部あなたのとばっちりです!」

 ジークリンデとアメリアが言い合う、このままでは怪獣大決戦になりかねない。

 「ああ、こりゃ駄目だ」

 「そうですね、ここはお互いの平和の為に解散で」

 竜也とハンスは何故か握手を交わして、互いのパートナーをどうどうと宥める。

 いずれご縁があればまた会いましょうと、その場は解散となった。

 

 そして竜也達は視察に来ていたクラウスと再会する。

 「娘よ、あれは流石にないんじゃないか?」

 クラウスが溜息をつきながらジークリンデに話しかける。

 「槍試合じゃなくて、ドラゴンバイトの方が私には向いてるのよ!」

 「だから、礼法修行として騎士を立てる競技である槍試合の方にしたんだ!」

 泣きながらクラウスが真意を語る、ドラゴンバイトとはドラゴン達による一対一の女子格闘技の試合で連盟の資金源の一つでもある。

 ジークリンデの方はシュッシュと拳を突きシャドーボクシングの真似事をする。

 アメリアとの再会で闘志に火が付いたようだ。

 「まあ、今回はこう言う結果と言う事で」

 竜也がクラウスに謝る。

 「うむ、乱暴者な娘だが見捨てないでやってくれ竜也君」

 「はい、それだけは必ず守り通します」

 竜也がクラウスに誓うと、クラウスは泣き出した。

 「ありがとう、君を選んだ事だけは娘は間違てなかった♪」

 「えへへ~♪ たっちゃん、大好き~♪」

 ジークリンデはいつの間にか竜也の腕に絡みついていた。


 「まあ、仕事は終わりと言う事で後は期間中自由に過ごしてくれ」

 「わかった、じゃあ私ドラゴンレースに出る」

 「家の長女はフリーダム過ぎる」

 クラウスはまた涙を流した。


 竜也達は場所を移動してドラゴンレースの会場へ向かう。

 こちらは簡易な競馬場と言う場所で、スタートのゲートには色取り取りのドラゴン少女が並んでいた。

 ジークリンデも七番のゼッケンを付けてその一人となり、開始を待っていた。

 合図音が鳴ると同時に七人のドラゴン娘が一斉に駆け出した。

 「リンちゃん、頑張れ!」

 「アメリア、無理しないで!」

 「明鈴、負けるな!」

 竜也の隣には、ハンスと温が自分のパートナーに声援を送っていた。

 彼らと同じように、自分のパートナーを応援する竜騎士達が客席側に集っていた。

 「先行はケツァルコアトル、二番手はムチャリンダ! 三番手に東海龍王! メキシコとインドと中国の三国志だ~~っ!」

 実況席の男性が熱く叫ぶ。

 アメリアが最下位、明鈴が六位、五位はイルルヤンカシュ、ジークリンデは四位だった。

 「私が勝つんだ! たっちゃんの為に!」

 ジークリンデの目が光り全身から漆黒のオーラを噴き出しながら追い上げる。

 「おっと、ここでジークリンデが追い上げて来た! これぞまさにダークホースならぬダークドラゴンだ!」

 ジークリンデの存在に上位の三人が驚く。

 「な! あの子は会長の娘?」

 「僕は負けない、僕は龍王なんだ!」

 「に、逃げきって見せま~ス!」

 「逃がすか~!」

 東海龍王が青、ムチャリンダが金、ケツァルコアトルが緑、と三人もオーラを出してブースとするもジークリンデも負けじと追いかけ遂には四人が横並びとなった。

 そして、東海龍王とジークリンデが横並びから抜けデッドヒートを繰り広げる。

 「負けるか~~~!」

 「たっちゃ~~~ん!」

 二人はほぼ同時にゴールし、判定待ちとなった。

 三位はムチャリンダ、四位がケツァルコアトル、五位がアメリア、六位が明鈴。

 最下位はイルルヤンカシュだった。

 そして、一位と二位の判定の結果が出た。

 「一位は東海龍王、初出場のジークリンデは惜しすぎるほどの僅差で二位だ~!」

 激闘を制したのは東海龍王だった。

 満面の笑みを浮かべつつも閉じた瞳からは涙を流し、勝利を喜ぶ東海龍王。

 青い拳法着風の勝負服を纏った黒髪ショートの美少女が客席に手を振っていた。


 ジークリンデはコースを飛びぬけて客席の竜也に駆け寄り、彼に抱き着き泣いた。

 「うぇぇ~~ん! 負けちゃった~~~!」

 泣く時も全力で泣くジークリンデ。

 「うん、お疲れ様♪ よしよし、頑張ったね♪」

 優しくジークリンデを慰める竜也。

 ハンスや温もコースを出て来たパートナーを労っていた。

 「うう~~~っ! 勝ったけど、なんか悔しいっ!」

 竜騎士がいない東海龍王が悔しがる。

 「オ~! パートナーのいる子がうらやまし~デ~ス!」

 野性味あふれる緑の衣装を纏た茶髪の美少女、ケツァルコアトルも羨ましがる。

 「本当、羨ましい」

 金色のサリー風の衣装のインド人少女の、ムチャリンダも竜騎士がいるドラゴン娘達を見つめていた。

 竜騎士のいないドラゴン娘達は、リア充爆発しろと内心思っていた。

 こういう大会は、竜騎士候補とドラゴン娘の出会いの場も兼ねている。

 竜騎士のいない彼女達にも、いつか自分の竜騎士となる相手との出会いがあるのかもしれない。

 熱狂的なレースが終わり竜也達が遊びに行こうとした時、東海龍王がジークリンデに声をかけて来た。

 「君、結構強いね♪ また一緒にレースしよう♪」

 スポーツ選手らしく握手を求める東海龍王、それに対してジークリンデは握手を返しはするがあっけらかんとした顔で答えた。

 「あ~、気が向いたら? 私はこれから、たっちゃんとデートだから♪」

 東海龍王の手を離し、竜也へ抱き着くジークリンデ。

 ジークリンデはもうすっかり闘争モードからイチャラブモードになっていた。

 「う~~~っ! 僕の方が絶対、君より良い男の竜騎士をゲットしてやる!」

 東海龍王は、別の意味でジークリンデに闘志と対抗心を燃やした。

 「ふ~ん、勝手に頑張ってね~♪ たっちゃん、お腹空いた~♪」

 ジークリンデの方はどこ吹く風と、東海龍王を放置して竜也を引っ張り立ち去る。

 竜也の知らない所で、東海龍王とジークリンデの間に奇妙な因縁が出来ていた。


 翌日、ホテルの部屋で観光気分で朝食を摂っていた竜也達にクラウスが話を持ちかけてきた。

 「二人共、最後にもう一回槍試合をしないか?」

 「え? 俺達二回戦負けなんじゃ?」

 「いや、競技とは関係なしでアーサー王と槍試合があるんだが先方から君達を指名して来たんだ」

 「そうですか、ならお受けします」

 竜也は快諾した。

 「お父さん、たっちゃんがやる気だから受けるんだからね!」

 ジークリンデも渋々従った。


 そして二人は変身して、エキシヴィジョンマッチの舞台に立っていた。

 黒き竜、ジークリンデに跨った暗黒の竜騎士フリーデンが対するは赤き竜モルガンに跨った輝かしき黄金の竜騎士王アーサー三十世。

 暗黒の槍、シュヴァンツ・ランツェンを構えたフリーデンと白く光り輝く聖槍ロンゴミニアドを構えたアーサー王。

 「胸を借ります、竜騎士王っ!」

 「来たまえ、日本の最も新しき竜騎士よ!」

 試合開始と同時に、双方が槍からブレスを放出し黒き闇と白き光がぶつかりあう!

 それはまるで剣道の打ち込みの稽古の如くフリーデンが放出した暗黒のブレスを

アーサー王のロンゴミニアドが放つ光がバシバシ受け止める。

 「良いブレスの打ち込みだ、だがまだ弱いな!」

 アーサー王の聖槍の光がフリーデンの闇を打ち払うと同時に、互いに突進する。

 「しまった、あっちが早いっ!」

 だが、ブレスを打ち払われたフリーデンより早くアーサー王が近づき槍先をフリーデンの胴に突き付けてポイントを取り勝利を掴んだ。

 

 「参りました、アーサー王」

 竜から降り変身を解いて礼をする竜也。

 アーサー王も竜を降りて変身を解くと、金髪で凛とした美声の精悍な体付きの青年が竜也に手を差し伸べる。

 竜也がその手を取り握手をすると、アーサー三十世である青年が語る。

 「良い試合だった、君も竜騎士王に至る素質があるよ」

 と言って、アーサー三十世が観客に向けて自分と竜也の手を頭上に掲げた。

 アーサー王の言葉が、竜也の胸に竜騎士王になるという目標の種を植え付けた。

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