第9話 欲望の種は撒かれた

 「デザイアシード、お前厄介事に突っ込んだな」

 停学が解除されて久しぶりに会った烈太に言われる。

 「ああ、使用者の欲望を肥大化させて怪人に変える寄生生物だって」

 白陽と敵の取引を潰した事で警察から表彰された竜也。

 活躍した生徒が停学中と言うのは外聞が悪いのか、竜也達の停学は取り消された。

 「どこの組織の仕業だろうな? あちこちでヒーローが対応してるけど」

 「わからない、けど敵の邪魔をしたから報復に来た所で迎撃して聞きだすかな」

 「ああ、敵から直接聞くって奴だな」

 竜也と烈太は話を締める。


 デザイアシード略してDSは、各地のヒーロー達を悩ますゲームのレイドイベントのような展開となった。

 「ふう、女性の下着を食べたくなるDS怪人って洒落にならなかったわ」

 灰色の肌をした筋肉質な肌を踏みつけるのは黒のバレエ衣装を着た魔法少女。

 だが、怪人を踏みつけた事で怪人の口から飛び出した白い芋虫状の物体が彼女の口の中に入り込む。

 叫ぶ間もなくその幼虫は彼女の体内に入り込み、魔法少女の胸を膨らませた。

 「な、何なの! 私の胸が大きくなってる♪」

 少女が飲み込んだ幼虫こそデザイアシードの正体、宿主の欲望を糧にして宿主を

変質させる寄生生物。

 「これでもう貧乳なんて言わせない、私の新しいヒーロー人生の始まりよ♪」

 この魔法少女の欲望は、自分の胸が大きくなりたいであった。

 こうしてDSにより一人の魔法少女が消えた。

 

 数日後、某所の銀行が強盗に襲撃されていた。

 銀行員達は縄で縛られ救い主の登場を祈るしかなかった。

 「悪党ども、超人バストが成敗するから覚悟しなさい!」

 銀行員達の祈りが通じたのか、救い主が現れた。

 銀行の壁を胸で砕いて現れたその救い主は、バストが豊満過ぎた。

 「な、でかすぎる! 鉄球クレーンか!」

 「おい、超人バストってまさかあの?」

 「落ち着け、でかくても乳だ銃で撃ち抜ける!」

 強盗達は現れた超人バストに銃を向ける。

 「おっぱいを無礼なめるな! バストキャビテーションッ!」

 元魔法少女、現在はアメコミ風なドミノマスクと青い全身タイツ衣装でおっぱい超人となった少女が銀行強盗達の前で自分の胸同士を打ち鳴らして鉄砲海老のように衝撃波を連発して強盗達を叩きのめして行った。

 「決まったわ♪ もう私は没個性じゃないっ♪ おっきいおっぱいは勝つ♪」

 超人バストが胸を張って勝利宣言をする。

 「ありがとう、超人バスト♪」

 「ナイスおっぱい♪」

 「地球が二つ並んでる♪」

 助けられた銀行員達から、ボディビル会場で聞くような彼女を讃える声援を受ける超人バスト。

 「ありがとう♪ 今日も平和をバストア~~~ップ♪」

 縛られた銀行員達の縄を解いてから、空を飛んで立ち去る超人バスト。

 魔法少女時代の面影は消え去り、超人バストとして彼女は再ヒーローデビューを果たした。

 超人バストのようにヒーローからも、DSの力を使う者が現れた。

 「このおっぱい、私より百倍大きい! ヤバいわね?」

 超人バストの動画を自室で見ていたジークリンデ、自分の胸の百倍は大きい彼女のおっぱいに危機感を覚えていた。

 だが、ヒーローでも超人バストのようにDSの力を正しく使おうとする者ばかりではなかった。

 「こいつが噂のDSか、これを使えばもっと速く動けるはずだ!」

 自宅である高速たかはやモータースと言うバイク店のガレージで赤いツナギにモヒカンと言う風体の少年がDSを飲み込んだ。

 怪しく瞳を光らせた後、少年こと高速飛車たかはや・ひしゃはバイクからハンドルとメーターを外したような装置を腰に当てると装置からベルトが射出され腰に巻かれた。

 「ハイウェイ、ゴ~~~ッ♪」

 叫びを上げてベルトのハンドルを回す飛車。彼の全身をレーシングスーツに似た

防護服が覆いその上に双肩にはバイクのカバー風の肩アーマー、胸はレース用のボディアーマーで頭部はフルフェイスに複眼のヒーローマスクで手足はガントレットとブーツを装着した。

 そこまでは椿原の装甲科二年生のヒーロー、ハイウェイダーだが銀のボディスーツ以外のアーマーやマスクなどは黄色から黒へ変色し狼を模した姿にフォームチェンジを果たした。

 「ウォ~~~~ン! 俺がハイウェイのキングになるんだ~!」

 DSにより欲望が肥大化し、DS怪人へとハイウェイダーは堕ちてしまった。

 愛機のマシンウェイダーもレーシングバイクから、赤く燃え盛る犬科の怪物を模したマシンへと変貌してしまい一台と一匹はシャッターをぶち抜いて暴走を始めた。


 「ヒャッハ~♪ ウェ~~~~イッ♪」

 スピードに酔いしれた叫びを上げ、マシンも遠吠えを上げ地面を焦がしながら道路を爆走するハイウェイダー。

 マシンのナンバーは隠れていなかったので監視カメラから身元が確定。

 「何ぃ~っ? ハイウェイダー、家の馬鹿弟が暴走っすか課長?」

 椿原署の交通課のオフィスで野性味あふれる炎のように赤いロングヘアーの白バイ隊員の女性が上司の机を叩いて叫ぶ。

 「そうだ、高速警部しかも彼はDS怪人になっているとの事だ」

 「あのバカ野郎! 了解しました、機動特警きどうとっけいバクエンダー直ちに緊急出動します!」

 ハイウェイダーの実の姉、高速茜たかはや・あかね警部はダッシュでシャコへと駆け出しながら全身から炎を燃やし赤い生体外骨格せいたいがいこっかくを身に纏った。

 赤鬼のような姿のヒーローである、機動特警バクエンダーに変身した彼女は自分の

愛車である改造パトカーに乗り込みアクセルベタ踏みで暴走を始めた。

姉弟揃って迷惑だが姉の方は国家権力がついているだけに、尚更酷かった。


 道を外した愚弟を更生させるべく、身も心も赤鬼となった姉。

 そんな事件に介入せざるを得なくなった男がいた。

 「……マジかよ! こんな夜中に事件か、行かなきゃ」

 寝ている時に竜騎士の力で事件を見た竜也は起きた。

 魔法で礼装に着替えると外へ出る竜也。

 「たっちゃん、さっさと事件解決しましょ」

 ジークリンデも不満げな顔をしつつドラゴンに変身する。

 竜也もフリーデンに変身して、ジークリンデに乗り飛び立った。

 

 一般道でチェイスを行うバクエンダーとハイウェイダー、市民は避難済みだが

道路は焦げるは流通の妨げになるはで大迷惑だ。

 「止まれ馬鹿野郎っ!」

 「俺は止まらねえからよ!」

 「ふざけんな、そのイカれたバイクごと止めてやる!」

 モンスター化したバイクとモンスター並みの性能を持つパトカーがぶつかり合う。

 「トチ狂ってんじゃねえ!」

 「俺は止まりたくないんだっ!」

 「止まらない奴がいるから、母さんが轢き逃げで殺されたんだろ馬鹿っ!」

 「か、かあさ……ウォォォ~~ン!」

 「この馬鹿野郎がっ!」

 弟を止める為バクエンダーは愛車をパワードスーツ形態に変形させ、燃え盛る巨大な炎の怪物と化したハイウェイダーを殴り倒そうとする。

 だが、暴走ハイウェイダーの勢いをバクエンダーは抑えきれず弾き飛ばされた。

 衝撃と共に遥か彼方へと飛ばされ落下したバクエンダー。

 邪魔する者がいなくなったとばかりに暴走を再開しようとする。


 その時、空からドラゴンの雄叫びが木霊した!

 「リンちゃん、ブレスお願い!」

 フリーデンの頼みに応えて、暗黒のブレスをハイウェイダーへぶっぱなすジークリンデ。

 その一撃に射抜かれて、周囲に秘をまき散らし火災を起こしながらのたうち回るハイウェイダーが反撃とばかりに火炎弾を撃って来た。

 火災のヤバさを感じたジークリンデが、攻撃を避けつつブレスを吐いて闇で炎を吸収し消火を行った。

 「トマラネエ~~~~ッ!」

 暴走ハイウェイダーは道ではなく、縦の方向に暴走する事を決めたのかその体をドンドン巨大化させていった。

 「マジか! リンちゃん、合体しよう!」

 ジークリンデが同意の遠吠えを上げると同時に、フリーデンは彼女の体内へと沈んだ。

 そして、フリーデンを取り込んだジークリンデがその姿を瞬時に巨大な竜騎士へと変化させた。

 「竜と人が一つになって歩む騎士道、竜騎士道っ!」

 「刻め我が名は、大竜騎士!」

 巨大ロボットのような竜騎士の体内で竜也とジークリンデが叫ぶ。

 「「その名は、暗黒大竜騎士あんこくだいりゅうきしジークフリーデンッ!」」

 巨大な黒い竜の騎士、ジークフリーデンが名乗りを上げた。

 大竜騎士、竜騎士とドラゴンが一つになった巨大な戦士だ。

 ジークフリーデンの放つ気迫に、気圧されて動きが止まるハイウェイダー。

 その隙にジークフリーデンが虚空から、槍先がアンキロサウルスのように刺々しい槍を取り出して構える。

 「シュヴァンツ・ランツェン!」

 尻尾槍と言うべき武器を振るい、ハイウェイダーを殴りつけるジークフリーデン。

 「おっしゃっ!」

 ガッツポーズを取るジークリンデ、だが竜也はすぐさまハイウェイダーを叩きのめした事で起きた火災を移動の際に起こした突風で消す。

 「ごめん、あいつ燃えてたんだった!」

 竜也のフォローに謝るジークリンデ。

 「フォローしたから大丈夫、リンちゃんも俺のフォロー宜しく!」

 「任せて♪ とはいう物の、被害出さないようにするには?」

 「リンちゃんの家みたいな結界、張れる?」

 「それがあった♪ おりゃシャッテン・ヘレッ!」

 ジークフリーデンが、虚空を槍で突くと空間が割れジークフリーデンとハイウェイダーを異空間へと引きずり込んだ。


 シャッテン・ヘレ、影の地獄と言う決闘用の異空間へ自分と敵を引き込む暗黒の竜騎士の技だ。

 「ウオオオオオッ!」

 巨大な人型の炎の塊となった、ハイウェイダーが燃える拳を振るい暴れる。

 その猛攻をジークフリーデンは闘牛士の如く回避をしては、槍で突く。

 「リンちゃん、一応先輩だから殺さないようにしよう」

 「わかってる、私達ならできるよたっちゃん♪」

 ハイウェイダーが苦しみながら暴れるのとは対照的に、ジークフリーデンは

竜也達がイチャコラしつつ冷静に戦っていた。

 「トマラネエゾ~~~~ッ!」

 心を暴走させてさらに燃え上がり巨大な炎へと大きくなるハイウェイダー。

 「良し、敵の胸のあの辺りが先輩のコアだ!」

 「おっけ、じゃあ助けてあげましょうか!」

 ハイウェイダーの胸、人間の心臓に当たる場所に球体上の結晶に閉じ込められた

高速飛車が胎児のように身を包めていた。

 「それじゃあ行くぜ、ドラッヘン・ファング!」

 ジークフリーデン、巨大な竜の騎士と言う姿から、瞬時に四つ足に一対の巨大な翼を持つ漆黒の西洋竜へと変形しハイウェイダーの胸にいる高速飛車めがけて巨大な咢を開き突進した。

 ジークフリーデンの目論見を察知して、敵は両腕で胸をガードするもそのガードを

噛み砕き胸部を食い千切って突き抜けたジークフリーデン。

 宿主を失った敵は、瞬く間に消滅しジークフリーデンはシャッテン・ヘレを出て

現実の世界へと大迷惑な先輩を連れて帰還した。

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