第53話 はぁゥゥゥゥ……まさに、現代の恐竜

 唱子さんの部屋で“入り口“は思ったよりも簡単に見つかった。

 三嶋さんが、どんどん入り込んで探したからだ。


 私の部屋くらいありそうな、立派なウォークインクローゼットの奥の、大きな姿見の裏に、少し小さめのドアがあったのだ。

 姿見は、元はそこに無かったのだろう。


 三嶋さんが、たくさんかかった洋服をジャカジャカどかした場所に、姿見と同じ大きさの跡があった。

 長い間その場所にかけられていたのか、周りの壁紙がほんの少し色が変わっていたのだ。

 跡を見つけた三嶋さんは、2人の男たちに、現在かけられている姿見を外すように指示した。

 姿見は、業務用だろう粘着力の高いテープで、べったりと貼り付けられていた。


 無理やりテープを剥がして、中の扉からソロリと忍び込んだ私たちは、入り組んだ中の様子に、慌てた。

 幾つもの部屋があって、幾つもの曲がり角がある。

 角を曲がれば、扉があって、扉を開ければ、階段がある。

 テーマパークの中にある巨大迷路のようだ。



「これ、わざとなんだろうけど、やばいな……。もう、元に戻れる気がしないな。

 おーい、はぐれないようにしろよぉ」

 そう言った遼ちゃんの言葉を聞いた数分後、私は見事にはぐれてしまった。

 しかも、なぜだか気がつけば、薄暗い中を歩いてる。足元の板は、薄いのか歩く度に、ミシミシと軋む音がする。

「困ったなぁ……どうしよう……」

 不安になった私は、独り言を呟いてみる。


 ふっと前方を見ると、床がぼんやり明るくなっている。

 穴でもあって、下から灯りが漏れているような光り方に見える。

 ミシミシ軋む床をそろそろ歩いて、光っている場所まで行くと、格子状の蓋のようなものが嵌められてる。 


 排水溝のような形状だなぁ……。

 そう思いながら、覗き込むと、下は結構明るくて広くて、距離もあった。


 しかも、覗いた先に見えるのは、部屋の中でドドーンと寝そべる、トカゲちゃん。

 恐らく、グリーンイグアナだろう。

 若しかしなくても、2メートルをゆうに越しているように見える。

 頭から背中には、たてがみのようにトゲトゲの、クレストと言われる鱗が並び、黒と灰褐色の縞模様の尻尾が時折ゆらりと動く。

 5本の指の先には、木の幹を登る時にも使われる鋭い鉤爪が生えている。


「か……かっこいい……」

 足の腿を覆う完璧な形状の鱗、パチリと瞼を開ければ金色の目がキョロリと周りを見回す。

 神々しいほど美しい。

「はぁゥゥゥゥ……まさに、現代の恐竜」


 ハアハア言いながら、胸を押さえる。やばい、過呼吸になりそうだ。

 落ち着いて呼吸する。こんなところで、呼吸に支障をきたしたら、シヌ。



 そんな私の前方の視界に同じようにぼんやり明るくなっているところが見える。

 も……若しかすると、あの下にもトカゲちゃんがいるかも……。

 私は、ずりずり這うように前方の光を目指した。



 何がどうして、こんなところまで入り込んでしまったのよ?

 途中でやめておけばよかったのに、私の好奇心のバカ!


 ミシミシ鳴る床………ではなく、天井の板の上をそろそろ歩きながら、自分で自分を罵倒した。

 だって、最初はどうにかなるかと思ったんだもん。

 そもそも、あの小さい通風孔から見えたグリーンイグアナが良くなかった。

 ……いや、グリーンイグアナには、罪はないんだけど。


 でも、あのグリーンイグアナをみたときに、このままもっと進めば、他のトカゲちゃんが見れるかもと誘惑に負けてしまった愚かな自分のせいなのよ。

 ところが、行けども行けども、定期的にある通風孔から見える景色は、何にもない白い壁の部屋ばかり。

 トカゲの尻尾だって出てきやしない。


 しかも、この白い部屋は、よく見れば部屋の廊下側にある小さな窓には、頑丈な格子が嵌められて、ドアは内側にはノブがない。 

 つまり、外からしか開けられない仕様になっている部屋………牢屋だ。

  私は、怖くなってきた。こんな場所に、一体何を閉じ込めるというんだろう?

 しかも、私が見ただけで似たような部屋『牢屋』は、3つはあった。


 この時点で、やっと自分が歩いているミシミシ音を立てる薄っぺらい板は、床ではなく、天井だということに気がついた。

 この薄暗い空間は、部屋じゃなくて天井裏だ。

 どうしよう、もう戻ってみんなを探したほうがいいかも知れない。

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