同じ空の下の分断
世にも奇妙な世紀末ぐらし
第1話 国境⑴
1982年、時は米ソ冷戦の真っ只中、ヨーロッパ諸国は東西で分断して相変わらず軍拡競争、アフリカや南米、東南アジアなどの第三国では代理戦争と激動の時代へ両陣営とも立ち向かっていた。
冷戦に関しては東アジアも他人事ではなく、中国大陸では中国共産党を主導とした中華人民共和国、そして国民党政権から成り立つ台湾、朝鮮の南北分断などが挙げられるが日本も例外ではなかった。
アメリカが本土決戦の最中に3度目の原爆を新潟に落とそうと計画していた最中にソ連の予想外の進撃、巧妙な諜報戦略により日本列島は敗戦と共に南北朝鮮や東西ドイツのように南北で分断されていた。
日本分断は北海道から山形、宮城までの北をソ連影響下に置いて日本社会民主共和国として、沖縄から新潟・福島の南をアメリカ影響下に置いて日本民国として、それぞれ北日本、南日本の通称されるのが当たり前となっていた。
1982年10月
国境地帯 日本民国(南日本サイド)
北日本の様子が目の鼻の先と言えるぐらいに大きくも小さくも視認できる警戒哨所と前線基地と陣地が割合を占める軍用地において国境からスレスレの場所から軍用双眼鏡で日本人民軍(通称=北日本軍)の兵士が薪割りをしたり、装甲車両の上でタバコをふかしながら談笑をしているところを観察する日本民国(南日本)側の兵士らしき男がいた。
彼は
「同じ日本人で分断されただけの兵士を見るだけの仕事、ほぼほぼ時間が解決ってところで可も無く不可も無くってところか。」
原川はそう言って、双眼鏡を下ろしてリラックスをした。
いつも見えるのは日本製にライセンス生産されたAK47である60式自動歩銃(JPAK60)の銃口を下にした状態で肩に負い紐を吊りかけて談笑している姿だったり、時には上官に叱咤される北日本兵の姿ばかりだったが、今回はやけに装甲車を数台見たり、今までソ連製の小型ヘリコプターしか見なかったのに攻撃ヘリコプターであるMi24ハインドまで目にするようになった。
北に潜入した別の要員や特命調査部内からの情報によると最近はこっちへ脱北しようとする者が後を絶たないという噂があったのを思い出した。
「どうりであのハインドが飛んでいるわけか。万が一逃げようもんなら搭載されている対戦車ミサイルだか機関砲でミンチって訳か。」
原川はそう言って現場を離れた。
比較的、9月ごろの残暑が続いていた時より寒い状況に近い涼しさで虫もなかなかいない為、観察任務には集中はできた。
一般的に南日本軍兵士は支給されているOD(オリーブドラブ)の野戦服に米軍が使用しているM16と同じ5.56ミリ弾を使用するAR18(通称=ヒトハチ)を装備している。しかし、原川は任務の特性上、日本人民軍の野戦服を模倣した迷彩戦闘服を着て、その上に東ドイツ国家人民軍が採用したレインドロップ迷彩とチャコウラナメクジの線上模様を足して2で割ったような柄のポンチョで身を隠していたり、越境したりして任務が終われば誰もいないところで隠しておいたバックパックから支給されているOD野戦服に着替えていた。
当然、敵対している国の装備を緊張で背筋すら凍るような場所で身につけているため仲間であるはずの南日本兵に撃たれてもおかしくない。その為、味方である南の土を踏んでも完全に安心はできなかった。
南北で隔てた場所の国境はほとんどが山と森林地帯になっている事で鉄条網が絡み付いたフェンスが二重に設置されている。東西ドイツみたいにベルリンの壁があるわけではないから南北双方の工作員の流入の他、脱北や南からの冷やかしで北へ不法入国しようとして北日本国境警備隊の兵士から狙撃されて射殺された者も多くいるのも憑き物だった。
原川は味方の南日本国境警備隊に
日記のような記載をされと防水メモ帳を持って直属の上司へ報告をする。
「今まで通りと言えばそれまでですが、少し変わったことと言えばソ連製の攻撃ヘリであるハインドが飛行しているのを確認しました。こちらを脅したいなら数体飛ばすと思うのですが、1機だけなので逃亡者狩りを始めたのだと思います。」
原川はメモ帳を渡した。
「最近は国境警備隊の連中も嘆くほどこちらへの亡命が目的で北から決死の脱北をする民間人が多かったからな。中には脱北者のふりをした工作員が逮捕される事もあったが。」
直属の上司は原川に話した。
上司の名前は作島友蔵。階級は中佐で部下にパシリごとや伝令業務などの負担を押し付ける事なく、自分のことは自分でこなす事で兵、下士官、士官からの信頼が厚い将校である。頭は五厘並みの短い坊主頭が特徴で普段の性格も穏やかだが、北への潜入回数は多く、長い時は1年潜伏していた事もあったと言う。本人曰く『所詮1年されど1年』だがその言葉には誰が聞いても重みのあるものだった。
北への潜入は基本的にフェンスを破り、サーチライトを避けながら行うのがデフォだが、たまに裏ルートである地下を使う場合があった。
地下が使われるのは主に日本人民軍と北日本国境警備隊の警備が厳重だったり厳戒態勢の時である。地下は旧帝国陸軍が本土決戦時に構築したバンカー跡跡、トーチカから繋がる地下通路などが多く残っていた。経年劣化による耐久性が低下した場所は工兵隊による再施工が行われ、陣地としてではなく、敵国へ潜入するための裏ルートとして使われるようなった。
知っているのは日本民国軍と在日米軍、CIAだけでなく、北の反体制派の一部や反体制側に内通した北日本兵やソ連軍兵士だけであり定期的に内情の情報交換や物々交換をするための場所となっている。
もちろん南側とやり取りをしている北日本兵やソ連兵も当局やKGB、軍部に見つかって発覚してしまえば当たり前ながらタダでは済まされない。確実に樺太にある政治犯収容所かシベリア強制収容所送り、最悪な場合は公開処刑もあり得る。
作島中佐は彼らの写真とプロフィールが記載された書類を原川に見せた。
「トクメイにいるなら覚えておくように。コピーしてあるの持っているからこれをやる。」
原川に渡した。
トクメイとは特命調査局の事で作島中佐もその一員でポジションは作戦課長だった。準軍事組織要員の原川に指令を出すのも彼の役割でもあった。
「この情報は潜伏先で絶対に落としたり紛失するような事は避けろ。これ以上の情報が手に入らなくなるのはもちろん、下手したら潜入ルートも見つかる可能性も高くなる。」
作島中佐は念押しで書類の紛失は避けるように伝えた。
拠点の武器庫には東側の銃器が格納されており、ソ連製のAK47やAK74、VZ61、CZ75などが種別ごとに分けられている。ほとんど裏ルートで手に入れた物のみならず工作員から押収した物や遭遇戦で撃退した人民軍ゲリラから鹵獲している物など多岐に渡る。
今は大胆な武力衝突は無いものの南北間の確執の空気は漂っていた。
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