64話 再会

・10月??日・ ? ……ゾル王国、訓練場?……


「俺は、魔王だ」

「「!?」」


 反射的に手を前に出し戦闘体制。

 ラルバ王子も少し困惑しつつもすぐに整える。

(アリス! 起きてるか!)

(……)


 アリスから応答はない。

(くそっ! このタイミングで寝てるのか……)

「落ち着け」


「ぐっ……」

「うぇ……」


 謎の重圧に押し潰される。

 体の力があまり入らなくなり思わず地面に膝がつく。

「先程も言ったが俺は味方だ」

「信じ……られるかよ!! お前が……お前が魔王なら、俺の街を襲った! 俺の妹を攫った! しかも……人体実験なんて……なんで! なんで……あんな……酷いことを!」


 だんだん声が小さくなる……何か能力を使っているのだろうか。

「うぅ……」

 どんどん体は力が入らなくなり、やがて倒れてしまう……ラルバ王子もそのようだった。

「マリン……も……お前が……いなければ……」


「……そうか、だが、俺ではない。とりあえずそれだけは信じてくれ」

「……っ!」


 初めてだった。

 無表情でクールだと思ったアンブラが初めて感情を見せた。

 ……悲しそうな顔をした。

 それだけで、信じてしまうほどに。


「「……」」


 俺たちは何も言えなかった。

「とりあえず、全てを話そう。怒りはその後にぶつけろ」


 体に力が戻ってくる。

 やはり何かの能力だったらしい。

「……その前に、他の仲間はどこにいるかわかるか?」

「あぁ、そうだったな。マリン、ディグミア・アルディグマ、メリッサ・マルズ、そしてアリス……は今治療中だ」


 ……ん?

 ツッコミどころが多い。

 ディグミアも怪我をしたということ。

 メリッサがいるのにアドロがいないこと。

 そして何故か魔王の口からアリスの名前が出たこと。

 何故かみんなのフルネームを知っていること。

「……驚いているところ悪いが、あまり時間をかけていられない。一人ずつまわるぞ」


 ゾル王国の地下は思ったよりも広かった。

 思っていたよりも治療用の道具も充実している。

 患者室(大広間1)に入ると、沢山の人がいた。

 ここは主に軽傷の人たちがいるらしい。


 そこにいたのはディグミアとメリッサ。

 2人は軽症だったらしい。

 ただ辛そうにうなされている。


 反対方向に行くと廊下が広く、沢山の小部屋があった。

 重傷の人たちが運び込まれている。

 その中でも特に酷かったのが……マリンだったらしい。

 全身火傷状態で発見、そして魔王が運んできたそうだ。

 だが……俺が見たマリンは白い肌だった。

 火傷なんて見当たらない。


 おそらく、回復力だろう。

 マリンに関しては何を見ても驚かない気がする。


 そして……。

「アリス!?」

「……誰ですか?」


 マリンの隣にはアリスが眠っていた。

 当然だが、ラルバ王子はクエッションマーク。

「危険な状態だった。あのままだとお前の中でアリスは消滅していただろう」

「え」


 魔王の直球な一言。

 胸にズシリと重みが乗る。

「こいつはお前の深いところまで潜りすぎたのだ……最近心の中で呼びかけても反応が薄い時があっただろう?」


 そういえばそうだ。

 最近はやけに寝ていると思っていた。

 色々なことが繋がっていく。

「……今のアリスの状態は?」

「アリスの魔力をお前と順応させた……それだけだ。ほぼ抵抗はなかったからな。だからここまで回復した。それどころかアリスはこのように具現化できるようになった……と言ってもただの器のない魔力の塊だがな」


 正直何を言っているかわからなかった。

「ア、アリス……」

 わからなかったが……でも、今は現実にアリスがいることが何より嬉しかった。

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