54話 魔力弾の応用、魔力槍

・10月19日・ 夜 ……ゾル王国、上空……

 少し前……


(コノ速サニハ慣レタカ?)

(いやいや、速い速い!! 息吸えない!!)

(はやいよーーーー!!!!!)

(ソウカ……ナラ、平気ダナ)


 平気じゃないと言っているのが聞こえないのだろうか。


(ソンナコトヨリ……モリアガ怒ッテタゾ)

(モリア……? モリアと話せるのか!?)

(アァ……『魔力ヲ使ウ時ハ、全部使ウノデハナク、半分クライ残スツモリデナイト死ヌゾ』ト)


 たしかに……モリアに散々教わった内容だ。

 いくら我を忘れてもこれだけは覚えとけ、って言ってたな……。


(マァ、ソレハ後デ怒ラレロ)


 やっぱり怒られるのね。

(なぁ……お前は何者なんだ?)


 ここまで俺らのことを知っていると流石に気になってくる。


(我ハ我デアリ。今ハ、オ前ダ。……ム、敵ダ)


 気になるところで敵が来るもんだ。


 前を見ると羽を広げた狼のような魔物が襲ってくる。

「初級太陽魔法"リャーマ"……あ」


 魔法を詠唱……だが、火の玉は出てこない。

(馬鹿ガ。魔力ハ無イト、話シテイタダロウ)

(やばい……マジでどうしよう)


 謎の声のため息が聞こえる。

(反省シロ。今回ハ我ガナントカスル)


 と、急に体の魔力が回復する。

(……何したの?)

(我ノ能力ダ。魔力ヲ貯メテオケル)


 ゆっくり話している暇はないようで、翼の生えた狼……アラクエノが炎を吐く。


「うわっ!? 初級水――」

(ソレハ禁止ダ。魔力弾デドウニカシテ見ヨ)


「えっちょ……!?」

 炎が当たりそうになるギリギリで翼が動き、回避する。

(オマエハ、ソレダケニ集中スルノダ。コツハ、魔力弾ノ更ニ上カラ魔力デ覆ウ感ジダ……ソウスレバ、魔力ガ節約ガ、デキル)

(魔力弾の応用をするつもりなんだね)

(アァ。オマエニハ分カルノカ。アリス)

(やっぱり、私の名前も知ってるんだね)


 魔力弾の更に上から魔力を覆う……考えたこともないやり方だ。

「こう……か?」


 魔力弾を作り、それを魔力で覆っていく。

 ……思ったよりすんなりできた。

「発射!」


 アラクエノに当たる……が、ダメージを負った様子はほとんどない。

「失敗……か?」

(イヤ、ソレデ良イ。次ハソレヲ出来ルダケ鋭クシテミロ)


「……よし」


 さっきと同じような魔力弾を作り、ソレを鋭くしていく。

 魔力コントロールは特に難しいことでもなかったので、これまたあっさり出来てしまった。

「いくぞ、ふん!」


 槍状の光が飛んでいく。


 グサッ

 どうやら当たったようだ。

 アラクエノに刺さっている。


(よし!)

(お兄さんすごい!!)

(マダダ、次ハ出来ルダケ多ク増ヤシテミロ……ソシテ、一ツズツ。出来ルダケ高速デ打テ)


 目の前を見ると、大量のアラクエノがいた。

(いつの間にこんなに!?)


「……ん!」


 1……10……30……50。

 出来るだけ大量に作る。


 そして、

 一つずつ、

 丁寧に……今できる最大限の速さで打つ!!


 すると、光の槍はアラクエノを貫通して遠くの水に消えていく。

 それをただ繰り返す……繰り返す、消えるまで繰り返す。


「うわぁ……」

(すごぉい……)


 気がつけば、あれだけ大量にいた魔物も消えていた。

 まだ魔力は1割も消費していない。

(ヨシ、目的地ニ着イタ。着地スルゾ)


 そして、もう着いたらしい。

 でも……これは……。

「なんだこれ……」


 目の前には黒い結界と、透明な結界。

(……オマエノ仲間ラハ、オソラク平気ダ。ソモソモコチラカラハ、何モデキナイ)

(信じるしかない……か)

(多分、黒い方はマリンちゃんが作った結界だと思う! 透明な方はわからないけど……)


「じゃあ、城の方……か。……でも、なんかおかしい」

(コノ城ノ中カラ、魔力ガ一切感ジラレナイ)


「!?」

 やっと、ずっと感じていた違和感の正体がわかる。

 城は森から一番遠い位置にあるため、敵が攻めてきたら城の地下に逃げれる仕組みだと聞いた。

 だから普通、この城には人がいるはずだ。

 でも、魔力探知に反応しない。


「まさか……全滅?」

 

 

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