2章後半 最強最弱の男

33話 最強最弱の意味

・10月4日・ 昼  ……ゾル王国 城5F、小さな会議室……


 木に囲まれ、質素な小さい部屋。

 その中央には木のテーブル、それを囲むように小さな椅子が8つある。それだけの部屋。


 だが1つだけある小さな窓からは、この国を見渡せる。それはこの国が緑の国と言われるに相応しい景色であった。


 ジャングルと言うと暑いイメージがあったが……なぜか感じない。

 代わりに感じるのはこの木々を覆う謎の高い魔力、ただ、悪い魔力ではなかったためそこまで深く考えなかったが……まぁそれはそれとして


 ここの場は小会議室であるらしい。

 ゾル国王から許可をもらい、貸してもらったのだ。


「さて、本題ですが、これからの目標……は決まってるんでしたね」

「……えっと、敬語は大丈夫ですよ……」

「……そうは言っても、一応王子ですしこのままで……」

「そこまで言うなら、わかりました。目標……は、11月1日に行われる予選通過、そして本戦に行ってアルム兄さ……兄様に勝つこと、ですね」

 しゅんとした様子でラルバは返す。

「そう不安がはないでくださいよ、今から勝つための作戦会議をするんですから」

(って言ってる俺も不安なんだけどな)


 そりゃあ当然だ。

 なんせ35687人の参加中予選落ちでさらに35687位……最下位なのだから、不安になるなと言われたほうが無理だろう。


「まず……そうですね、ラルバ王子の戦闘能力を詳しく知りたいですね」

 順番としては、ラルバ王子のことを知り、特訓……まぁこれしかない。

 あとはアルム王子のことを知るのも大事だが、そもそも予選を突破しないといけない。


「特殊能力のことは……知っているそうですね」

「さきほど、説明は聞きました。ランクのことも……」

「なるほど、では話が早いです。知っているとは思いますが、私の特殊能力のランクはAです」


 さっき話した兵士との会話が頭をよぎる。

『特殊能力は主に4つのランク付けがされています。C、B、A、Sと、上に行くごとにより強力で希少な能力になります』


 Aはかなり希少だとか


「特殊能力の名前はラド、能力は敵となる者の能力を100%コピーできます」

 

 (コピー……え、相当強くない?)


「強いのがコピーの性能。魔法、身体能力、特集能力までもコピーしてしまうんだとか」


 ラルバに代わりセレーテが発言する。


 聞いている限りだと相当な化け物かもしれない。

 例えば1級魔族のザラと戦うとすると、ザラの魔法と身体能力をすべてコピーした状態で戦えるってことだろう……それはつまりどんなに強い相手でも同じ土俵で戦えると言うことだ。

(しかも特殊能力までパクったら……恐ろしいな)


「弱いところは……実は何個もある。1つ目はこの能力は1体1には強いが複数人だと誰をターゲットにしたかで強さが変わる。弱いやつ、もしくは遠距離重視の奴をコピーしたら絶望的だろうな……」

「……実際それで毎回予選、落ちてますしね」


 ソニアは思い出しながら言いづらそうに話す。

 と言うか、予選はやはりバトルロイヤルのような感じなのだろうか……


「そして、もう2つ目の弱点は弱い奴すら完璧にコピーしてしまうこと、まぁこれは聞いただけでわかるだろう……3つ目だが、実はこれが1番の問題だ」


「……それは?」


「……この能力自体を王子がコントロールできていない事だ。強い奴であればあるほど強い魔法や体術が使える……が、やはり体がそれについていかない、この能力は3英雄の1人、メリス様が使っていたとされる能力に似ている。だから宝の持ち腐れだとか言われ今や能力は最強、でも使いこなせない最弱、それで最強最弱なんて言われてるな」


 3英雄……過去にこの世界を救ったとされる英雄だ。

 この世界で知らない人はいないだろう。

 まぁ、俺はアリスに教えてもらったが


 ラルバは下を向いて俯き、セレーテの直球な言葉を受け取っている。


「……なるほど」


 思い返せば、さっき訓練場にいた時に魔法が飛んできた……あれも制御できていないということだろうか


「さて、お前はこの3つの弱点を聞いてどう指導する……?」

 ニヤニヤとしながらこちらを見るセレーテ

(やっぱり俺が指導することになってるのね)


「えっ……と、1つ目と2つ目の弱点はとりあえず複数人と戦う練習をいっぱいすればどうにかなると思います。3つ目の弱点は……特殊能力に慣れる特訓をひたすらするしかないですね」


 つまりとりあえず特訓いっぱいしよう、と言うことだ!

 ……我ながら結構脳筋だな

「ああ悪くない!! 俺の1番大好きな答えだ!!」


 ……セレーテはやはり脳筋らしい。

(……さっきから静かだけど、アリスはどう思うんだ?)


 この緑の国に来てからまだ一度も話していない。

 ……流石に寝過ぎではないだろうか?


(おい、アリス!)


 少し心配になり、念を大きくすると、

(……あ、ごめんごめん! 寝てた!)

 聴き慣れたアリスの念が返ってくる。

(まったく……じゃあこの状況も詳しく分からないか?)

(うん……えへへ、お兄さん。ごめんねー)


「なにボケっとしてる! 今日はもう自由に動いていいんだぞ! 観光でもしてこい!」


 セレーテのどでかい声でようやく現実に戻る陽太。

 よく見ると、もう会議は終わりみんな外に出て行ったところだった。

「はぁ……」

(明日からの特訓、どうしようかな……)

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