閑話 王の祈り

・9月12日・ 朝  ……サンリスタ城、バルコニー……


 時は少し遡り、陽太たちがゾル王国へと出発した頃。


 クロイ王は空を見上げていた。

「行ったか……」


 その目は物悲しそうに、いや、嬉しそうに見える。


「母様……どうか、あの子達を見守っててあげてください」


 クロイは手を組み、ただただ祈る……


「おや、クロイ王……こんなところで雨乞いですかな?」

「……キュゼリー」


 クロイ王の後ろから現れたのは大臣であるキュゼリーだ。


「ただ鈴木陽太達の出発をみてただけですよ」

「……ほんと貴方は普段とのギャップが凄まじいですね……」


 普段、王として謁見するときの態度はまさに王そのもののクロイ王であるが、プライベートは王のオーラもなく敬語、そして爽やかな好青年という印象だ。


「自分の母親が亡くなったのに……へらへらして、呑気なことですねぇ……キッキッキッ!」


 面白そうに笑うが、クロイはにっこりと笑う。

「……」

「ケッ……気持ち悪い野郎ですね……」


 キュゼリーは面白くなさそうにその場を去っていった。


「……託せてよかったね……母様……うぅ……」


 目線の先には一つの骨……それはぼろぼろで少し焦げ臭い。


 バルコニーには普段の威厳な王の姿とは程遠い……弱虫な青年の泣き声が微かにしばらく聞こえていた。

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