第6話

 適性試験の日、アルスとミリアは試験会場の前にいた。

 王都の中心にある大広場、その東に青い屋根に白壁の建物がそびえている。周りの建造物よりも一回りも二回りも大きく、二人以外にも建物内に往来する者は少なくなかった。

「なんだか今になって緊張してきたね」

「そんなに気負わなくても大丈夫だろ」

「お兄ちゃんは気楽でいいね」

「昨日ウルフが言ってただろ。気負わずに気楽にやれって」

「犬っころのくせに偉そうに」

 ミリアはその場にいないウルフに悪態をつくと、今から入る建物を見据える。

 二人は試験会場へ足を踏み入れた。


「明日、俺は宿で休んでるぜ。そんなにやることねぇと思うが、まぁ頑張れや」

 アルスとミリアが試験会場へ向かう前、宿でウルフはそう言った。

 ウルフは二人以外に自身が獣人族ビーストニアであることを悟られないよう、王都に入ってからは狼の姿を通していた。

 本来であれば人間に警戒される狼だが、危険が伴う遠距離専門の運び屋などが護衛として狼を飼育する場合が多く、所定の手続きを踏めば街の中を歩かせることが可能となる。

「やることがないって?」

 屋台で買ったリンゴを口に入れながらミリアが尋ねた。

「そん時になったらわかるさ」

「ウルフは適性試験を受けたことがあるのか?」

「ねぇよ。でもそれくらいは俺だって知ってる。お前らが知らなすぎるだけだ。俺にもリンゴくれよ」

「もっと具体的に教えてよ」

 ウルフはミリアからリンゴを受け取ると、その場でムシャムシャと咀嚼を始めた。

「受付を済ませたら個別に部屋に通されるんだ。んで、中には国直属の占星術師がいる。そいつがお前らの未来を視てくれるって寸法だ」

「へぇ……」

 アルスがわかったようなわからないような声を漏らすと、リンゴの芯をゴミ箱に投げ入れた。

「要するに占いなんだ」

「要するにそういうこった。まぁ占星術師によってやり方は変わるだろうから、そこから先の詳しいことは俺にもわからんがな」

「てっきり剣術試験とか魔力勝負とかよくわからないトーナメント戦とかやらされるのかと思ってた。聞く限りだとすぐ終わりそうね」

 二個目のリンゴを手に取ったミリアは安堵した。

「まぁ適性試験はすぐに終わるだろうさ。ただ、適正職が決まった後の訓練があるから、すぐには王都を出るってのは難しいと思うぜ」

「訓練って、どれくらいかかるんだ?」

 外から広場で遊ぶ子どもたちの声が聞こえる。

「職業によるだろうな。10日程度で済むこともあれば1年かかる場合もある。自分が何になれるかもわからんヒヨッコが、例えば『あなたは今から魔法使いです』って言われても、実際何ができるよ」

「確かに」

「そのためにヒヨッコから見習い程度にまでスキルレベルを引き上げる。それが訓練だ。見習いだったら頭数にはなれるだろうからな」

「詳しいんだな、ウルフって」

「人間嫌いのくせにね」

 ウルフがリンゴを食べながらアルスをじっと見る。

「ま、伊達にお前らより長生きしてねぇからな」

「何歳なのよ」

「忘れた」

 何よそれ、とミリアは悪態をつく。

「まぁそういうことだから、明日は気負わずに気楽にやれや。俺は寝る」

 そういうとウルフはベッドの下で丸まり、寝息を立てた。

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