第九報 半グレ集団スターブル

スターブル(1)

「なんだお前等は、俺達が誰だか分かってんの?」

 晴れた顔に手を当て地面に膝をつけている。同じような状態で上を見上げる他二人の男。


 今、三人の男がザイと阿吽兄弟に追い込まれている。


 この三人こそが『スターブル』のメンバーで、柊木ひいらぎ山口やまぐち吉井よしいで、小松奈央の彼氏である松井を暴行した者である。


「いやー、そちらさんから喧嘩を吹っ掛けてくれたうえに、こんなひと気のない場所に連れてきてくれるなんてありがたい」

 ザイは「コキコキ」と首を鳴らしながら、スターブルの三人に近付いていく。


「もっとやるかと思ったんだが、しょせん半グレ集団だな」

「お兄、こいつら弱すぎだぞ!」

 大した事のない相手に拍子抜けな様子の阿吽兄弟。


 バチ達と復讐屋達は下準備や意見交換を終え、スターブルの執行に取りかかっていた。話し合いの末、今回の業務(執行)はザイと阿吽兄弟、バチとシヅクと朱里で二手に分かれ行動していた。


「ク、クソが!」

 柊木はよろめきながらも立ち上がり、ザイへ殴りかかる。


「だからそんな大振りじゃ当たらないって!」

 柊木の右ストレートを軽々と躱したザイはみぞおちに膝を入れた。


「ぐぅ……」

 悲痛の声を上げうずくまろうとする柊木のこめかみにザイは続けて肘を打ち込む。打撃が直撃すると、柊木は白目を剥いて気を失って地面に倒れた。


「後の二人は任せてもらおうか。」

 やる気満々の阿吽兄弟が山口と吉井の前に立つ。


「すいません、もう許してください!」

「お願いします」

 

 実力の差を見せつけられすっかり戦意損失した二人は土下座し、許しを請うが当然ザイはそれを突っぱねた。


「駄目だね、罪と罰は平等でないといけない」


「そ、そんな……」

  

(いやーー。このセリフ一度言ってみたかったんだよな)

 ザイはバチがいつも言うセリフが好きだった。

 

 ザイは二人を阿吽兄弟に任せ、路地裏から誰も入ってこないよう路地裏の入り口へ行き、煙草を吸って待った。


「おい……」


「おい、ザイ!」


「あ?」


「終わったぞ」

 

「あ、お疲れ」


 ザイはリストを見ながら三人の状態を確認する。

「まーこんなもんだろ。お前等はどうする?」


 阿行は答えた。

「俺達の依頼もこんな感じで大丈夫だろう」


「じゃあ、次行きますか?」と、ザイ達はその場を後にする。


「お兄にザイちんよ。あっちは大丈夫? 朱里はいろんな武器持ってるけど、正直戦力がこっちに偏り過ぎてないかな?」

 吽行は、バチや朱里の心配をしていた。


「それならたぶん大丈夫だと思う。バチは俺より強いよ……」

と、ザイは言う。


「あぅ、そうなのか?」


「ああ、ちなみにシヅクはドSだ」


「……」

「……」


 何も反応しない阿吽兄弟に、思わずザイはため息をつく。


「お前等、洒落が通じないな……」


「うるさい!」


 雑談しながら、ザイと阿吽兄弟は次なる標的を探す。



 一方、バチ達は


 『スターブル 』のメンバーの一人を拉致し、車で移動していた。男の名は内山と言う。内山は朱里とシヅクに挟まれ後部座席の真ん中に座る。


「ムグムガ……グゥウウ」

 内山は手足をロープで縛られ口に詰め物をされ、顔には布袋が被せられている。鼻元付近には呼吸ができるよう複数個所小さな穴が開けられてはいるが、それでも苦しそうなうめき声を上げていた。


 しばらく車を走らせること約15分。バチはある建物の前で車を駐めた。

コートの『職場』である。


「ひどい匂いね」

 朱里は鼻をハンカチで覆う。


「そのうち慣れる」


「私も最初、何回吐いたことか……それよりバチさん! 助けるの遅くありません?」

 シヅクはバチに怒っていた。


「そうか?」


「そうか……じゃない! コイツは一緒に車乗ってる時に何回も私の太もも触ってきたんだよ」


「ああ」


「ああ、って……」

 相変わらず素っ気ないバチに呆れるシヅク。



 シヅクはオトリ役になっていた。シヅクは声を掛け誘惑し、内山は自身が運転する車でラブホテルへ向かう。それを尾行したバチと朱里がホテルの駐車場で内山を捕獲したのであった。シヅクが正調査官として採用されたのは、この美貌もあったからである。


「あー、今思い出しても気持ち悪い!」

 シヅクは内山の脛を蹴った。


「ンググ」

 内山は痛そうに唸る。


 朱里は内山の手足を縛ったまま椅子に座らせると、顔を覆う布袋と口の詰め物を取った。さらにシヅクは椅子と手足を縛り固定させる。


「やめろって、お前等は誰なんだよ!」


 バチは内山の問いかけを無視し、リストを数枚めくると勝手に話し出した。


「それでは始めます」



 内山うちやま ただし22歳


「ちょっと待ってよ!」

 朱里がバチを制止する。

「こいつは私達の依頼でしょ。あなた受けてないよね?」


「ああ」


「ああ、じゃないわよ!」


「すまない、いつものクセで……」

 

 するとバチに替り朱里が内山に話し掛ける。


「あなたは自分の後輩を無理やりスターブルに入れさせたよね。それで、その後輩が怖くなってチームを抜けようとしたら集団で暴行して病院送りにしたでしょ。私達の依頼主はその親御さん。二度とあなた達が近づかないようにしてくださいってね」


 朱里はズボンの中に隠し持っていた伸縮式の警棒を取り出し、内山の首元へ突き付けた。


「あと、これはただの私の独り言。これからあなたに様々な拷問するけど、私達が喜びそうな事があれば答えてくれると嬉しいな」


「は? 何ふざけてんだ。このクソあま!」

 内山は、縛られたロープを外そうと必死に藻掻く。



 朱里の言葉を聞き、バチは「うまいな……」と、小さな声で呟いた。


「どういう事?」と聞くシヅクに「今にわかる」と、バチは一言だけ言った。



 朱里は突然警棒で内山の左脛を力一杯叩くと「ゴキッ」という鈍い音が、周囲に響きわたる。


「あああああーー!」


「あら、一発で折れた。脆い骨ね、ちゃんとカルシウム取ってる?」

 朱里は平然とした顔で次に右手首を警棒で叩く。

 

 またも内山の骨が折れる音がする。


「がああああああぁ! お、お前ら……マジかよ」


 朱里は折れた左脛をもう一度警棒で殴る。


「ああああああああ!」


 朱里は何度も何度も同じ個所を警棒で殴る。


「ああああああ」


「ぐああああああ」


「ううううううぅ……ああああああ!!」




「まっ、待って! ごめんなさい。お、おねが……いします」

 内山が痛みに耐えきれず、朱里に謝り許しを乞う。


「な、何を話せばいい……ですか? ああああああ!」


 朱里は黙ったまま負傷した内山の右手首を叩く。何度も何度も警棒で叩かれた右手首は皮膚が剥がれ骨が肉を突き破り見えるほどになっていた。


「まっ、待って。あ……あのすいませんでした! ああああああああああ!」

 

「ス、スターブルの拠点は埠頭Bの……ぐあああああああ!」


「すいません、すいません! メンバーは、ぜ、ぜん、全部で33……に、があああああああ!」


 朱里の言葉通り、内山は自分が助かりたいがために正解がわからないまま知っている限りのありとあらえる情報を洩らしていく。


「なるほど……質問を絞らない事で、あえていろいろな情報を吐き出させようとしているんだ」


「その通りだ」



 尚も続く朱里の拷問。内山は次々とスターブルの情報を吐くも朱里は手を休めてはくれない。


「ぐひぃぃぃ、もうだにも……なにもじらない、だずげて」


「ちょっと、もういいんじゃ……」

 シヅクは見かねて朱里を止めようとするが、バチがそれを制止する。


「なんでよ、バチさん!」


「よく見ておけ、これが復讐屋と裁き屋の違いだ」


 復讐屋と裁き屋には大きな違いがある。復讐屋は憎む相手に望むまま依頼を遂行する。例えば「アイツを半殺しにしてください」という案件に対して、手法を問わずやり方は復讐屋に一任する。そして復讐屋はターゲットが依頼者に二度と気概を加えないように徹底して相手を潰す。

 

 それに対し、裁き屋はあくまで依頼主の意向に添う。基本執行するのは依頼者であり、依頼者からの委任もしくは実行能力がないと判断した時にのみ執行人が代理となり、被害者と同等の代償を負わせる等価交換である。


 内山は執拗な拷問に耐え切れず、自分が知っている『スターブル』の情報を洗いざらい話した。だが、朱里の拷問は内山が意識を失くすまで止む事はなかった。

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