第十五話 「イレギュラーな形」



 入学試験終了後、青色学園職員会議にて。


「まさか、あんな堂々と武器だけを持って試験に挑む者がいたなんて思いませんでしたよ」


 数多くの有能な人材を排出してきた青色学園。


 そこに完全なイレギュラーとして現れたエバン・ベイカーの合否について、急遽話し合いが行われていた。



「でも面白いですね。高速で飛ばすことが可能な剣なんて、一体どこで手に入れたのか」


「エバン・ベイカーは武器鍛治師に希望している。おそらく武器は自分で作ったのだろう。だが、スキルを重点してして磨くのであれば緑色学園でも良いのではないか?」


「それもそうだ。実技テストで彼は自分自身の長所を示せていない。魔法適正もなく、武術の心得もないのであれば話し合いの余地も無い」


「筆記テストでもあまり良い結果ではなかったらしいではないか、それでは合格なんぞ出るはずがない」


「そんなヤツがよくここを受ける気になったな」


「全くです。青色学園は本当に優秀な天才もいるというのに、それなりの知識も取り入れていないとは」



 ここでの今のエバンの評価はとても悪い。


 当然だ。不合格者の中でも特に低い評価を獲得してしまったのだから。


 それに実技テストでは武器の使用は認められているが、原則自分個人の力を発揮できなければ点数はあまりもらえない。


 エバンはそれを知らずにドヤ顔で帰ってしまったのだった。


「では、なぜこの会議にベイカー君の名前が出てくるのでしょうか?」


 一同がエバンの試験監督を務めたマローの方に一斉に顔を向ける。


「……ベイカー君の養親は最上聖騎士、オーグナー様です。実は試験の前日、オーグナー様に『もし合格を貰えなかったらとんでもないいちゃもんをつけてこの学園の評価を下げてやる』と、脅しのようなことを……」


「「「…………」」」



 ――それは聖騎士としてどうなんだ。

 ここにいる誰もがそう思ったに違いない。


 すると、一人の小太りの男教師が声を上げる。


「ほ、本当にただの強要ではないか! そんなの認められる訳がないだろうに! 今すぐ聖騎士団の本部に……」


「――まあ落ち着いてください、ラービッツ先生。あんな常識外の連中に何を言っても無駄ですよ。それに、私はエバン・ベイカー君の入学させてあげてもいいと考えています」


「ロ、ローレンス校長?」



 この学園の現校長、タリア・ローレンス。若くして前代の校長の座を引き継いだ、天才魔術師の肩書きを持つ者だ。


 突然の提案に他の職員全員が驚いた顔を見せる。


 それを特に気にすることもなく、彼女は穏やかな口調で続きを話す。


「彼のステータスプレートを少し拝見させてもらったけど、……彼は類稀な才能を持った人物だよ」


「で、ですが、それでは他の不合格になってしまった学生達とあまりに不平等ではないかと……」


「これは異例の判断だ。筆記は最低ライン外、実技は皆無だけど、彼にしか持ち合わせていないユニークなスキルに鍛治の技術は一六歳にしてトップクラスだ」


 タリアは珍しい、新しい、面白そうなものを見つけたかのような笑みを浮かべる。



「――そんな人材、逃すわけがないだろう?」



 そう彼女は静かに、威圧感を放ちながら言った。


「もし彼がこの学園に来れば、クラスメイトと協力する際に大きく戦力を上げられるかもしれない。それに夏には『四争祭』もあるだろう? この青色学園が抜きん出て優勝できる可能性も出てくる」


 職員達はざわつき始める。


 これはチャンスなのではないか?

 エバン・ベイカーがいれば、他の生徒の能力を上げるだけではなく武器も揃えられるかもしれない。

 四争祭で優勝できれば前年の雪辱を他の三校に晴らせるかもしれない。


 そんな考えが飛び交う。


「彼以外に、若くして優秀な鍛治師は中々いない。それ故に緑色学園になんて渡してなるものか。卒業した後、騎士の資格を取るらしいね? 国に優秀である彼をここまで育てた学園は青色学園だ、なんて功績を示すことが出来れば……ウチの評判はどうなるだろうね?」


 皆、校長の言葉を聞いて一気に意見が傾いた。

 それだけの説得力があるという事だ。


「……では、エバン・ベイカーはこの学園に迎えると?」


「さっきからそう言っているだろう? ラービッツ先生。私が推薦で入学させるよう手配する。後でオーグナーにそのことを通達しておこう。私も、彼に難癖は付けられたくはないからね」


 ……こうして。


 エバンは異例な入学を果たすことになった。



**



 青色学園入学試験の五日後の昼。


 今日も元気に武器鍛治の鍛練をしていると、


「エバン! 校長からの推薦入学が決まったよ! おめでとう!!」


 クラウスが突然大声を上げながら鍛冶場に入ってきた。


 まったく、入る時はあれほどノックを――。


 って待って、推薦入学?


「えっと、どゆこと??」


「推薦入学だよ! 鍛治師としての腕を見込んで特例で入学を許可するってさ!」


 ????????


 鍛治師の腕なんて見せたっけ?

 あの武器、そんなにすごかったのかな?

 それに、推薦入学なんてものもあったんだな。


「まあ、推薦と言っても他の生徒とは待遇は変わらないよ。気軽に行ってくるといいさ。試験が散々だったのに合格を貰えるなんて君以外にはいないだろうね!」


 いや、受験落ちたんかい!

 それ完全にお情けで入学してるじゃん!


 それなら試験なんて受けなくても良かったんじゃないか……待てよ? 落ちたということは、あの学園で一番評価が低くなるのって……。


 ……あんまり考えないようにするか。


「何で推薦してまで入れてくれるんだ? 何か裏とかあるんじゃないだろうな?」


「さあ、ローレンスは昔から何かを企んで利益を得るのが大好きだからね」


 ……なんにせよ、入学できるなら願ったり叶ったりだ。

 俺の頭の中には聖騎士の国外戦闘資格しかないのだからな。


 学園にいるのは、僅か三年。

 長いようであっという間に終わってしまいそうな短い期間。

 そこでさらに鍛治師としての実力を上げて、

 早く俺Tueee系主人公に成り上がって強くならなければ。


 入学まであと一ヶ月もある。


 それまでに華麗な入学デビューを飾るべく、準備をしておこうと思う。

 新しい武器でも作っておくか?

 舐められないようにイメージトレーニングとかもしておかないとな〜。

 意外と楽しみでもあるからな。


「第二の学生生活だ、どうせなら楽しくいってみよう!」




 ……この時、俺は知る由もなかった。

 いや、考えてもいなかったのかもしれない。


 最低な成績状況で入学を果たしてしまったということの意味が、どれほど過酷なのかを。

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