第48話 前へ2
「シーザ、ヴァルきちを元に戻すんだ。そうすれば許してやる」
「フフフ、随分怖い声を出すじゃないか。そんなに怒ることか?」
「ヴァルきちを元に戻すならばよし。さもなくば」
「さもなくば?」
「お前を殺す」
「ほう……怖い怖い。そんなにもこのファーブニルが愛おしいか……」
ファーブニルはシーザに顔を寄せる。
「そんなに愛おしいなら、取り戻せばいい」
シーザは「出来るものならば!」と槍をかまえる。一方でラディすけは剣を抜き、無言のままかまえる。
ファーブニルの咆哮が響いた瞬間、両者は互いに向け弾けた。
「矢部君」
「なんだい? 天野君」
「僕はキミを許さないよ」
矢部は守人の目を見て笑う。
「いい目をしている。もっとこの矢部高和を憎むといい」
矢部は狂気じみた笑い声をあげる。
ラディすけとシーザ、互いにスキが無いまま一時間にも似た一分が過ぎた。ファーブニルが雄叫びを上げようと息を吸い込んだ。瞬間、ラディすけとシーザは互いに向け走った。
剣と槍が交差すると、ファーブニルはラディすけに向け火球をはいた。ラディすけは思わず飛び退く。
「ヴァルきち!」
この戦い、やはり二体一となりそうだった。
ファーブニルに向かったことで、シーザに対してのスキが生まれた。
「もらったぞ!」
高速の突きが、反応が遅れたラディすけの青い鎧に突き刺さる。なんとか鎧を貫通することはなかったが、ダメージは少なくない。
「くそッ」
ラディすけはシーザに向かって駆ける。剣を振るう直前で、ファーブニルの炎のブレスが吐き出される。それはバックステップでかわしたが、シーザのジャンプ攻撃がラディすけを襲う!
「ははは、防戦一方じゃないか、天野君。キミの『許さない』っていうのはこの程度なのかい?」
確かにそうだ。ラディすけ一人では攻め手に欠けているのは事実。しかし、相手の一瞬のスキをうかがっているのは守人だけではなく、ラディすけもそうだった。
すると、今まで接近戦をおこなっていたシーザが、間合いを取り呪文を唱え始めた。
「深淵に触れる暗黒よ、古の契約に基づき我が前にその力を示せ!」
両手をこちらに向け、詠唱は完了する。
「食らえ! ダークネスバスター!」
上位の闇魔法を、シーザは放つ。
ラディすけはそれを左に避けてかわそうとする。
しかし退路はファーブニルの炎のブレスによって塞がれた。
ラディすけは「モロに食らうよりは」と、剣で防御した上でその前に七重の魔力障壁を作り出した。ダークネスバスターの直撃! しかしラディすけはなんとか耐える。
第一、第二の魔力障壁は簡単に貫通した。第三、第四、第五の魔力障壁もあえなく突発される。第六、第七の魔力障壁はダークネスバスターには耐えた。しかし、後から来た、ファーブニルの火弾によって突破された。
ラディすけは思わず膝をつく。魔力障壁によって、ダメージは軽減されたが、魔力が底を尽きそうだった。
「なんだ、頑張るじゃないか。さすが勇者ラディ」
ラディすけに残された手は何か? 考える。どうしたものか? 考える。
「ヒヒヒ……」
この逆境っぷりに、思わずラディすけは笑ってしまった。
「お? まだ余裕があるな? いいねえ。流石勇者。だが、そろそろ諦めたらどうだ?」
「絶対諦めないってのが心情でね」
ラディすけはなんとか立ち上がり、剣をかまえるもふらつく。
すると、ぽつぽつと雨が降り出した。通り雨だろうか? 少しだけ強くなりそうな、そんな予感がした。
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