第33話 心通わせて3

 ヴァルきちは今宵も夜空を見上げていた。

「今日も助けてもらってしまった」

 いつもの力が出ていれば何とかなった……それは否だ。あの時の竜騎士は明らかに手を抜いていた。そういう戦い方だった。

 どっちにしろまた助けてもらってしまった。なんだか申し訳がない。

 あの人と釣り合うバトルアーツになりたい。そして、共に生きたい。

 そこまで考えて、「何をバカなことを」ヴァルきちは頭を振る。

「私はバトルアーツ。その生は戦うためにある誰かと一緒になるなど……」

 俯いた顔をもう一度あげ、夜空を見る。都会故に星は見えない。しかし大きな月は見えた。アイツもこの月を見ているのだろうか? そこまで考えたヴァルきちは、「またおかしなことを言っている」と、自らを律して窓から離れた。

「ミサ、おやすみ」

「ヴァルきちもう寝るの? わたしは宿題やるの思い出したから、もうちょっと起きているよ」

 ヴァルきちは「わかった。宿題がんばれ」と残し、コネクターにコードを挿すとそのままスリープモードへと移行した。


 次の朝、ヴァルきちは目覚めるとベッドで横になっているミサを起こす。

「ミサ、起きろ。朝だぞ」

 ヴァルきちに揺さぶられ、ミサはなんとかあくびをしながら起きる。

「おはよヴァルきち」

「おはようミサ」

 そしてミサは着替え、モーニングルーティンを済ませた後、学校へと元気に出かけていった。もちろんヴァルきちも一緒にだ。

「今日は会えるだろうか?」

 そんなことを思わず呟いてしまった。

「誰に?」

「今日こそあのマフラーを取り返そうと思って」

「そうなんだ」

「ああ」

 なんとも気の抜けた返事ではあるが、ヴァルきちはミサの胸ポケットから外の様子を見ていた。

 本当はマフラーなんかどうでもよかった。アイツにさえ会えれば……。そこまで考えて、「私は一体何を考えているんだ?」と、その考えをかき消す。

「おはよう坂下さん」

「おはよう天野くん」

「ようヴァルきち。いい天気だな」

 声の方を見て、ヴァルきちは一瞬嬉しそうな顔をしてしまった。それがなんとも気恥ずかしく、ヴァルきちはミサの胸ポケットの中へ隠れてしまった。

「よう天野ォ。坂下もォ、チートバトルアーツどももォ一緒かァ」

「鎌瀬君おはよう」

「わたしも天野くんもチートしてないけどね」

「ハッハッハァ。ご謙遜ン」と聞いて聞かない鎌瀬は、そのまま二人の横を通りすぎていった。

「お前らァ。早くしないとォ遅刻ゥだぞォ」

 そして三人はダッシュで小学校へと駆けていったのだった。

 胸ポケットの中のヴァルきちは、「顔が見れたこと」そして「声をかけてもらえたこと」が嬉しくて悶えていた。

 そこで気づく。自分は何をやっているのだ? と。

 ヴァルきちはラディすけをそっと胸ポケットから顔だけ出して見る。

 ダッシュしている最中の守人から振り落とされないように必死で服に掴まっていた。

 自らに生まれる「愛おしい」という感情を必死で否定していた。

「なんとか間に合いそうだね」

 校門を過ぎ、下駄箱を通り越して、階段を上がったところでそんなことをミサは言いだした。

「ホント、なんとかだね」

 守人と鎌瀬は「じゃあ」とミサに手を振る。

「うん。まったねー」

 ヴァルきちは胸ポケットから顔を出しながら手を振る。

 ラディすけはそれに気づき、ヴァルきちに手を振った。

 ヴァルきちはこころがぽかぽかしていくのを感じたが、同時に挙動不審だったなあと心底反省した。もしアイツに嫌われたらどうしよう。そんなことを考えると胸が苦しくなる。この気持ちは一体何なのだろうか?

「ヴァルきち?」

 ヴァルきちはなんだか気分が落ちてきて、胸ポケットの中で悲しい顔をしていた。

「ヴァルきち大丈夫? やっぱなんか調子悪いのかな?」

「ミサ、私には分からない」

「何が?」

「この気持ちの名前だ」

 ミサは頭に「?」を浮かべながら話を聞く。

「アイツを見ていると心が暖かくなる。でも嫌われたら……と思うと、私は……私は!」

 ミサはフッと笑う。

「その気持ちはね、ヴァルきちが恋をしている証だよ」

 ミサは「多分だけどね」と付け加える。

「こ……い。池で泳いでいるヤツや、麺つゆの濃度ではない方か」

 ミサはうんうんとうなずく。

「ヴァルきち。想いは言葉にしないと相手に伝わらなくて、伝わらない想いには何の意味も無いんだよ」

「マンガの受け売りだけどねえ」と、笑いながらも真剣にヴァルきちに向き合う。

「ミサ……わかった。行ってくる!」

 決意を固めたヴァルきちをミサは、「行ってこい! 恋する乙女よ!」と送り出したのだった。


 隣のクラスは大騒ぎだった。何かあったのだろうか? ヴァルきちは覗き込むと、始業前ギリギリにもかかわらず、ラディすけがバトルをしていたのだ。相手は矢部ではないクラスメイトらしい。

「おお、また天野が勝った!」

 といったところで始業のチャイムが鳴った。話しかけるのは今しかない。

 ヴァルきちは守人の机をよじ登り、板状に躍り出た。

「ヴァルきち? どうしたの?」

 守人に一礼すると、ヴァルきちはラディすけに向かう。

「ちょっと、ツラ貸せ」

「何だ何だ? ケンカか?」

 ヒロ太はそう言いつつヴァルきちの様子をうかがう。これから戦いに赴くような顔をしているからだ。

「ラディすけだけでいい。ちょっと顔を貸してくれ」

「これから授業があるんだけどなあ……」

「ラディすけ、後でノート見せるから、行っておいでよ」

 ラディすけは「わかったよ」なんて言いながら、守人に一礼するヴァルきちに「ほら、行こうぜ」と移動を促す。

 守人のクラスの向かいには図書室がある。ヴァルきちはそこに向かった。ラディすけもそれに続く。

 それを見送ったヒロ太はただ一言だった。

「フッ、ヤレヤレだぜ」

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