第24話 泣き虫女の子と甘やかす女の子
「いつから気付いていたのですか?」
「初めからだけど?」
「……え?」
まったく想定していなかった言葉に困惑してしまう。
なぜ気付いたのかを聞こうとするさよの心の中を読んだように刹那が図書館の天井に設置されたLEDライトを指さす。
「一応先に言っておくとあれな」
なぜ気付かないと言いたげに呆れた声で答えた刹那。
だがそうは言われてもいまいちピンと来ないさよは首をかしげて戸惑ってしまう。
ただのLEDライトを使って人の気配を察知できるなど最早人間業ではない。
「うん……???」
「あっ! 私わかった。答えは影じゃないの?」
「その通り。パッと視線を飛ばした時にずっと動かない人影があった。最初はすぐに立ち去っていくなら本を探しに来ただけの赤の他人かと考えたが一向に動く気配がない事から俺達話しに興味がある人物だと推測した。後は簡単な話しで、このセントラル大図書館に俺達に対してそう言う感情を抱く人物は誰かと考えれば一人しかいないってのが答えな」
名探偵のように僅かなヒントから推理し特定の人物を当てる刹那にさよは驚きを隠せなかった。『ダイスゲーム』を見てその片鱗は確かに見えていたが、やっぱりと確信する。今まで見てきた中で刹那は育枝の方が頭が良い発言を何度かしているが、さよから見れば十分刹那も頭が良い。ただ一言に頭が良いと言えばそれまでだが、刹那のその場の判断力や推理力は並みはずれた物ではないと見ていてわかる。今も当たり前のようにして妹の本を探している刹那だがその本は育枝が読む本。つまりは天才少女級の理解力を持つ育枝が求めている本を一緒になって探している時点でもう魔法についての知識は大方把握しており、学界で発表されるレベルの本『超応用編:ダイスゲームと魔適性の関係について』を読んでも理解できるレベルまで知識を得て理解していると言う事だ。成長速度が早いなんて物じゃない。もはや異常レベルだ。それに比べると誰が自分達の事を遠目でチラチラと見ているかを推理することなど、とても簡単なのだろう。
「お見事です。その推理力には正直驚きました」
「それはどうも。んで、わざわざ隠れて俺達の会話が終わるまで待っていた所を見ると用事があったんだろ?」
「隠れていた理由は聞かないんですか?」
「言いたければ話し聞くけど、そうじゃないならわざわざ俺からは聞かない」
「そうですか……。これは意外な答えですね。では本題だけお話ししても良いですか?」
「うん」
履いていたスカートの裾を両手で力いっぱい握りしめ、熱い眼差しで刹那と育枝に視線を送るさよ。
「お願いがあります」
「「…………」」
「三日後行われるアギルが行う見せしめ通称公開処刑があります。そこで私達親子をもう一度助けては頂けないでしょうか?」
その言葉に沈黙を持って返す刹那と育枝。
三人の間の空気が重苦しくなり独特な緊張感を周囲に放ち始める。
ここで断られるような事があれば。
大切な家族との縁や家族と過ごした我が家を今度こそ失う事になる。
「本音で話せ。自分で戦わずして俺達を頼る理由は?」
ここは兄である刹那に全てを任せて黙って見守る育枝。
「現状を考えると単純に勝率だけを取るなら刹那さんと育枝さんに任せた方が私が大切としている家族の絆が守られるからです」
その言葉にピクリと身体が反応する刹那。
「本当は私達の問題にだけは巻き込みたくはありませんでした。だけどどう頑張ってもそれを打開できる手段が私にはありません。となると、お二人を頼るが正解という答えが私の中で……実は昨日の夜に出ました」
「それで?」
「ハッキリ言います。私は……わ……私は……お二人より生まれてずっと一緒に暮らしてきた家族の方が……だ、大事です」
途中から堪えきれなくなった涙がぽたぽたと頬を通り床へと落ちて行った。
本当に今日の自分は泣き虫だなと思いながらもありのままの気持ちをぶつける。
自分で言っていてあれだが、人を利用している時点で最低だなと言う自覚はあるし罪悪感だってある。だけどここで善人を気取って万に一つの希望までを失っては本当の意味で一生後悔すると思ったさよは人の本質である自己中心的な考えを示す。こんな最低な頼み方では断られて当然だなと心の中で思っていると、
「それは興味ないな」
冷たい言葉が返ってきた。
断られてしまった、そう思うと何故か心の中で諦めがついた。
もうどうあがいても王に反逆した時点で人生は終わっていたのだと、ようやく頭の中で一つの答えが出てきた。
「俺が聞きたいのはただ一つ。助けて欲しいのかそうじゃないのか。その一言が欲しいんだよ。さっき盗み聞きしていたからある程度こちらの事情を知っていると思うが、こちらもそれなりのリスクを負うことになる。俺は大切な妹を出来るだけ危険な事に巻き込みたくはない。育枝は俺にとって唯一の家族なんだ。もし本気じゃないなら俺は育枝を巻き込まない方法を考えるつもりだ。だけどお前が本気なら育枝の気持ちにも答えて俺達でお前を救おうと思っている。もう一度聞く。お前はどうしてもらいたいんだ。先に言っておくぞ、人間の本質は自己勝手で愚かで自己中心的がほとんどだ。だからこそ何よりも儚くて何よりも美しい存在にもなれる、これを忘れるな」
「私は……助けて欲しいです」
するとふんっと鼻で笑う刹那。
「いい返事じゃねぇか。なぁ育枝?」
「ん?」
「これで俺の中にある確認事項が全て終わった。悪いが最後まで付き合ってもらうぞ?」
「当然! てか私の可愛いさよちゃん二回も泣かせないでよ!」
「……ッ!?」
さよの元に駆けて行き、思いっきり抱きしめる育枝。
それを見た刹那はめっちゃ仲良しになったんだなと思う。
「私のおっぱいの中で沢山泣いていいよ」
「ぐすっ、……ぐすっ、……ありがとうございます」
「うん、いっぱいいっぱい泣いて甘えていいからね」
見ててどこか寂しい気持ちになっていく刹那。
決して羨ましいとか……俺もとか……そんなやましい気持ちは……ないと言いたい。
え? どっちになりたいの? っていう野暮な話しはご想像に任せるとして、
「まぁ、いいや。育枝が幸せなら、なんだってやってやる覚悟は最初からあったからな」
二人には聞こえないよう静かに呟いた刹那は手に持っていた本をチラリと見て「これでいいや」と言葉を付け加えてから、一人先に元の場所に戻り(エスケープして)育枝からの宿題となっている『超応用編:ダイスゲームと魔適性の関係について』を読むことにした。
それから三日間が経ち、ついにアギルとの決闘の日がやって来た。
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