第4話 ラージポットとオーバーフロー。
「中には何て書いてあった?」
「ダンジョンの規則性」
「規則性?」
「ええ、生まれる条件は1000年前もわからなかったようですが生まれた後の事、ダンジョンの成長やその他の事は事細かく記されていました。
そして「オーバーフロー」と命名されたイベントについて記されていました」
「オーバーフロー?流れ出る水?」
「はい、この場合は溢れ出る水で、水は魔物を意味します。
詳しくはまだ踏み込むなら説明しますが、今は少し別の話をしましょう。現存するダンジョンが1000年前に生まれましたが、生まれたダンジョン全てが残るわけじゃ無いんですよ」
「…?何だそれは?」
「この世界で新たに生まれたダンジョンは俺たちの知らない所でブレイクされて消失した筈です」
「ブレイクで消失?」
「はい。1000年前もブレイクして消失…バニシングしたダンジョンは沢山ある。
それなのに今残っているのは?
そこで出てくるのがオーバーフローです。
大体お分かりでしょうか?」
普通に考えればわかる。
生まれて消えるダンジョン。
残るダンジョン。
そしてオーバーフローと呼ばれる状況。
「すごく嫌な考えが頭の中に居るよ」
「正解だと思いますよ?
特定の条件を満たしたダンジョンはオーバーフローを起こして魔物達が外に溢れかえります。
そして更に特定の条件をクリアしたダンジョンは残ります」
「ラージポットではそれが起こるんだな?」
小隊長はそれを察した。
察したからこそ聞く必要があると思った。
「ここで止めても平気ですよ?」
「お前さん、2年で逃げろって言ってくれただろ?だから聞く気になった」
「…。
良い人ですね。
オーバーフローの条件はいくつかあります。
まずは10年の経過。
もうラージポットは6年が過ぎている」
「ん?そう言えばお前さんはそれだけ詳しいのに何で逃げてない?まだ余裕があるからか?」
「いえ、国営図書館に入るまではダンジョンに興味はありませんでした。
R to Rでバースしたダンジョンにアタックするのはハイリスクです。
あの人たちは運搬や俺1人…末端の数人で処理できる案件にしか興味ありません。
そしてそれを知ってからは極端に情報からは遠ざけられましたから…」
「酷え話だな、逃走防止か?」
「本当ですね。逃走と言うかダンジョンに興味を持たせたくないのでしょう。仮に小隊長さんの言う通り重宝がられてスカウトをされると困りますからね。
話、戻しますね。
明確な数は書かれなかったもののダンジョン内で死んだ魔物の数が一定数を超えると、まるでその命をイケニエに捧げたように一気に魔物が溢れかえってしまう」
「…」
「そして最後、魔物がダンジョンから飛び出して一定時間が経過する」
「その3つがオーバーフローの条件?」
「はい。多分ラージポットは数年以内にオーバーフローを引き起こします。だから概算で2年と言いました」
なんとも恐ろしい話だ。
だがそれを国は黙っている。
小隊長はそれも気になったが、それよりも逃げる先にミチトが指定した場所も気になった。
「聞きたいことが増えた。
とりあえずお前さんが避難先に指定した場所が気になる。5日以上離れていて間に街や城に砦を挟む事と言ったのは何でだ?」
「オーバーフローしたダンジョンはステイブルと言って安定するんですよ。
それには条件があります。
簡単に言えばダンジョンからオーバーフローした魔物はダンジョンを中心にして正円状に拡散していきます。
仮にダンジョンから1,000の魔物が拡散した時、7日以内に1,000の命が尽きればステイブルされます。7日経っても目標数に届かなければバニシング…消失します」
「1つ残らず倒せば良いのか?」
「違います。犠牲者と討伐数の合計が1,000になれば良いんです」
「おい…、それって…」
「だから俺は間に街なんかを挟む事を勧めたんですよ。
俺からも聞いて良いですか?ラージポットには何人俺みたいな流刑者が居ますか?」
「まあ流刑者だけなら3桁後半だろうな。他にはチーム単位でそこに自ら来た連中と後はそこで結婚した連中なんかも居る」
…最悪だ。
ミチトは最悪の結論に至った。
「それならそこまで被害は出ないんじゃないですか?
一応聞きたいんですけどラージポットはもしかしてかなり高い城壁のような壁に阻まれていて出口は馬車一台がやっと通れる堅牢な門に阻まれて居ませんか?
それに家族を持つと言う事は下手をしたらダカンくらいの街並みがありまさよね?
きっとロキさんの采配で道具屋や酒場なんかも充実してる…」
「何だ?見てきたように詳しいな。
その通りだぜ?壁は二重になっているんだ。外壁の一枚目と街の外周に二枚目が用意されていてその中にはお前さんが言うような街が作られている。
まあ少し違うのはロキ様ではなくて弟のヨシ様が提案したらしい」
「最悪です。
悪い事は言いません。俺を送ったら1年以内に転職をしてください」
「さっきは被害が出ないって…、それに2年が1年に縮んだぞ?」
小隊長がそう言った所で糸目の兵士が「小隊長、ここらで夕飯にしましょう」と扉を叩いた。
「まだ聞くなら明日話します」
「…わかった」
小隊長はもう少し聞きたい気持ちをグッと抑え込んで扉を開けた。
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