俺、器用貧乏なんですよ。
さんまぐ
ラージポットまでの道程。(第1話~第16話)
第1話 ミチト・スティエット。
「全責任は責任者ミチト・スティエットが取る形で本件は終わり、ミチト・スティエットはこの後従事先の[ラージポット]に向かってもらう」
そう言った3人組の兵士達がチームハウスを出る時に2人の兵士が1人の青年を連れ出して行く。
青年は満身創痍ではなかったが1人大怪我をしていて頭には包帯が巻かれていた。
それも下手な巻き方でとても上手とは言えない。
ヨタヨタと兵士に連れられて歩く青年。
扉の所で一度青年は振り返る。
目の前にいる青年の仲間達、老若男女の集団は誰も青年の顔を見ない。
声もかけない。
別れすら告げない。
中にはヘラヘラと笑っている者も居た。
「っ…!」
青年は悔しげな顔と声を出しながら仲間達に背を向ける。
外に出ると後ろ半分が牢屋になっている馬車に乗せられる。
「一応、鍵付きの方に入ってもらう。お前はその怪我じゃ逃げないだろうけどな」
「手錠も無しにしておくよ。だから俺達の好意を台無しにしないでくれよな」
「何故反論をしなかったんだ?全面的に責任者であるお前さんが悪い事になっていたが違うだろ?それにあのメンバーを見ても誰もお前さんを責任者だなんて思わないぞ?」
青年は馬車の牢屋側に黙って乗り込む。
監視目的で1番偉い兵士も乗り込んできた。
「俺には…何も言えません。何を言っても無駄なんです」
「…ラージポットはここから5日。少しの付き合いだから気が向いたら話してくれ。
減刑は無理でも誰か1人でも真実やお前の正しさを知っている人が居たら気が紛れるぞ?」
青年は暗い顔をしながら「…ありがとうございます」と言う。
「それに、この刑罰は流刑ではあるが望んでラージポットに入る連中も居るくらいだ。
到着までの5日間、3食キチンと食事が配給される。それはラージポットの責任者ロキ様のご配慮だ」
青年はラージポットがどう言うところで責任者が誰なのかも知らない。
情報収集が出来たことはありがたい事だ。
何としてでも生き抜く。
何としてでも生き延びる。
これだけが青年の行動理念だった。
道を暫く進み、青年達が居たダカンの街が見えなくなった頃、ようやく青年が口を開いた。
「先程は態度が悪くてすみませんでした。何も知らないので色々教えてください」
「ああ、構わない。何でも聞いてくれ」
「俺…、僕の名前は「ミチト・スティエット」です」
「ああ、知ってるよ。俺達は決まりで名前を明かせないんだ。悪いな。まあ小隊長で通じるよ」
名前で呼び合えば情がわく。情がわけば逃がす者も出てくる。あくまで冷静に冷徹に冷酷に職務に当たるための処置。
「いえ。それで小隊長さん、ラージポットはどんな所ですか?」
「お前さん、チームで仕事を受けているからダンジョンバース、生まれた迷宮は知ってるな?」
ダンジョンバース。
迷宮の誕生。
ここ数年、何もない土地にある日突然生まれた迷宮。
そこに国から派遣された貴族が責任者として統治をしてダンジョンを踏破して最深部の魔物を倒すことになる。
国を守る事になる為に国庫から費用が支払われ、生み出されたダンジョンは人知の及ばない秘宝や武器なんかも存在する。
「…そこは何年目ですか?」
「お、知っていたな。6年目だ」
マズい…
6年は耳にした中でもだいぶ育っているダンジョンだ。
ミチトは全身の毛穴から嫌な汗が吹き出していた。
「あの!」
「どうした?怖気付いたか?」
「いや…まあ…そうなんですが行く事には逆らいません。
ただ、そのロキさんはどの位国に関わりのある貴族ですか?」
「なんだその質問?まあダンジョンを任されるくらいには国に信頼はされているがロクな兵を送り込んでもらえずにこうして訳ありの実力者を自腹で呼んだり、やる気のある連中が志願してこないと回らないくらいのお方だな」
それはミチトにとって最悪に近い展開だった。
「わかりました。ありがとうございます」
「いや、顔付きが変わったけど何かあるのか?」
「…他言無用です。
言えば貴方自身がこちらの立場になります。
それでも聞きますか?」
ミチトの顔はとても怖い顔で聞いているだけで恐怖心が増してくる。
だが聞かないわけにもいかない。
そんな顔だった。
「…聞かないとどうなる?」
小隊長の口からようやく出た言葉はコレだった。
「平和的に助言はできます」
「何て言ってくれんだ?」
ミチトは深呼吸をして真っ直ぐに小隊長の目を見ながらゆっくりと話し始めた。
「2年以内に十分な蓄えを得て転職をしてください。そしてラージポットから少なくとも5日以上遠くの土地、出来れば城や砦、都市を間に挟む所に移住してください」
「お前さん…」
「これが助言です。これ以上は言えません。
今なら責任を取らされてダンジョンに売られたついていない若造の戯言に騙された人で済みます」
「…なるほどな。お前さん、何を知ってる?」
「…ダンジョンの秘密です。国では極秘情報にされています」
「それで売られた訳だな」
小隊長は合点の言った顔をしてミチトを見る。
「…やはりそうでしたか」
「わかっていたのか?」
「ラージポットがダンジョンと聞いて納得しました。
恐らく責任を取る際に俺1人じゃ足りなかったからリーダーが洗いざらい話したんですね」
「ああ、だが詳しくは何も知らないんだ。ただ罪の量に対して罰がお前さん1人をラージポットに送りつける事だったから上司に聞いたんだ。
そうしたら上司は10人分の価値があるから問題ないって言っていたよ。
所でお前さん、何でそんなに詳しいんだよ?」
「ああ、俺…器用貧乏なんで…」
ミチトはそう言って泣きそうな顔で笑った。
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