第5話 葵の思い
今日は楽しかったなぁ。
今後について話そうと言われた時には家に帰らされるんじゃないかとドキドキしたけどまさか服を買いに行こうと言われるとは思わなかった。
電車に乗って大きなショッピングモールに行って服を買ってもらってご飯も食べさせてくれてゲームまでさせてもらえてほんとにうれしかった。
そういえば電車に乗ったのもかなり久しぶりだった。
ラーメンおいしかったなあ。
初めての経験ばかりでびっくりすることもあったけどそれもいい思い出だった。
ここまでよくしてもらうと逆に申し訳なくなってくる。
どうして真白さんは私のためにここまで尽くしてくれるのだろう。
今まで出会ってきた大人たちはみんな自分が一番で他人のことなんて気にもしない人たちばかりだった。もちろんそれが悪いことではないと思うけどもう少し周りに目を向けてくれてもいいと思う。
そうすれば私みたいな状況にいる人は――
ううん。考えるのはやめよう。大人に期待するのはよくない。
でも真白さんは……出会ったときのことはなぜか思い出せないけど、私に優しくしてくれるしいろいろなことを教えてくれる。
それに倒れていた私を気にかけて2日間も看病してくれていたみたいだし。
私が目覚めたときは本当にうれしそうで涙まで流していた。
どうして……
「……そんなに優しくされたら好きになるに決まってるじゃん」
チャプンと水が跳ねる音が響く。温かい。
2日間寝たきりだったらしいし、久しぶりのお風呂になるのかな?
えへへ、真白さんったら今はまだもう少しお互いのことを知ろうだなんて。
これからもいろいろな世界を見せてくれるかな。真白さんは私のこと裏切ったりしないかな。
ううん、真白さんになら裏切られてもいいのかもしれない。
その時こそ私の居場所は――
それにしても紫雲さんだっけ? あの人絶対真白さんのこと好いてるよ。
真白さんは渡したくない。いや、でも真白さんが紫雲さんを選ぶのなら仕方ないか……
うぅ、でもでも! まだあきらめたくない。
真白さんみたいな人はたぶんそういないはず。
優しさを他人に向けることができて気遣うことができる。
もちろん私が年下だから心配してくれているのかもしれない。
それに2日間も寝ていたわけだしね。
私の経験上うわべだけの心配というか言葉だけで終わる人もたくさん見てきた。
だけど真白さんは私を楽しませようと行動してくれるんだ。
何か理由があるのかもしれないけど、それでも私と向き合ってくれるのはうれしい。
でも……あの人はなんとなくだけどちょっと前の私みたいな雰囲気がする。
心の底から笑ってるような姿なんてめったに見ないし時々つらそうな表情をすることもある。
やっぱり過去に何かあったのかな。
もしそうだとしたら……今度は私が力になりたいな。
「そろそろあがろう」
お風呂を出てバスタオルで体を拭く。
今朝着てた服はかなり薄手で寒かったんだけど私なんであんな格好をしてたんだろう。
まあ今日買ってもらったパジャマもあるしどうでもいっか。
えっとドライヤーは洗面台の下の棚だっけ。
あれ? なんで私がドライヤーの場所を知ってるの?
教えてもらってないはずなのに……
気にはなったけどとりあえず髪を乾かしてリビングに戻った。
「お風呂あがりましたよ」
「それじゃあ俺も入ってこようかな」
そう言って真白さんはお風呂場へと姿を消した。
真白さんがお風呂に入っている間に私はゲームセンターでとってもらったうさぎのぬいぐるみを取り出した。
見た目はどこにでもいそうなただの白うさぎのぬいぐるみだ。
でも私にとっては大切なぬいぐるみ。だって今日の真白さんとの思い出が詰まってるんだもん。私はぬいぐるみを抱きしめてみた。ちょうどいい大きさでふわふわしていて気持ちいい。
「キミは……私の宝物だよ!」
まだまだこの幸せな日常が続くといいな。
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