十の城

夕方の陽の光に照らされる天守の下で私は天女のひとみに吸い込まれそうになっていた。


私は今、部活動に誘われているんだよね・・・?


こんな美人にこんなふうに見つめられてしまうと例え同性といえどもも胸がドキドキしてしまうに決まってる。


私の頭は部活に誘われているのか、お城デートに誘われているのか理解が追いつかなくて頭が真っ白になってしまい


「あっ・・・あの・・・わっ私!ぶぶぶっ部活に誘われているんですよね!」


浮かれてどもってしまった。


「そうよ、慌てなくてもいいわ。私達出会ったばかりだから少し考えたいでしょう?転校してから散々いろいろな部活に誘われたでしょうからゆっくりと考えて。」


虎口こぐち先輩は私が色んな意味で混乱して躊躇ためらっているのを察すると慣れているのかすぐに引いてくれた。


私は部活に入っているわけではないから特に断る理由はなかったけど、このまま浮かれて何も考えずに部活に入るのは先輩の気持ちを裏切る気がしたので言葉に甘えることにした。


「所詮同好会やから、深刻に考えんと明日には忘れてええからね。」


たずねちゃんは気軽に言ってくれたけど、絶対忘れないだろう。


あんな瞳に見つめられて忘れられるわけがないよ。


私が男の子だったらきっと恋しちゃう。


「私、多分きっと入部すると思います。それだけ二人とお城を歩けて楽しかったから、もっとお城のことを勉強したい。だけど後悔のないようにしたいから、先輩のお言葉に甘えて少しだけ考えさせてください。」


私は二人に向かって頭を下げていた。


「嬉しいことを言ってくれてるで、あゆみ姉。」


訪ちゃんは私が頭を下げる姿を見て気持ちが昂ぶったのか頬が上気して赤くなっていた。


「ええ、とても嬉しいわ。じゃあ私、もしも城下さんが入部してくれたら、たくさんお城の勉強になるように最初の部活に行くお城をしっかりと考えておくわね。」


虎口先輩のメガネは少し曇っていて目の奥を覗くことは出来なかったけど、きっと喜んでくれていた。


「さぐみん、うちも頑張って色々教えるからな!」


気持ちが昂ぶった訪ちゃんは私に勢いよく抱きつくと先輩は微笑ましそうに私達を見ていた。


そして先輩は何か思い浮かんだのかおもむろにぽんと手を打つ。


「そうだ、城下さんがもしも部に入ってくれたら、一番最初の部活は高屋城たかやじょうに行きましょう。」


私が全く知らないお城に案内してくれるつもりらしい。


私は名前すら知らないお城に行けると知ると胸がときめいて、その先にある天守を夢想したが、訪ちゃんは顔を青くして慌てて


「あかんあかん!絶対あかんて!高屋城はあかん!」


と大きく頭を振った。


私は意味がわからず目が点になってまた頭の中に?が舞う。


「高屋城は立派なお城よ。」


虎口先輩はそう言って訪ちゃんを制そうとするが、訪ちゃんはその言葉を無視してますます激しく首を振って


「高屋城はあかん、さぐみんがお城に関心を失ってしまう!だって何もないただの住宅街やんか!」


必死に否定する訪ちゃんの言葉を聞いて私は全てを察した。


そうか・・・虎口先輩はなにもないところからお城の痕跡を探す達人だった・・・


「本丸なんか住宅街の中にある古墳やん。入ることすら出来へん。あんなところでお城語ったら間違いなく不審者に思われておまわりさんに職質されるで。そんなんやったら最初から羽曳野で古墳めぐりを目的にした方がまだおもろいやん!」


すると訪ちゃんの言葉を名案だと思った虎口先輩は


「古墳めぐりもいいわね。じゃあ古墳をめぐるついでに高屋城に行くのはどうかしら?」


訪ちゃんの激しい否定にも全くめげずに涼しい顔で提案した。


「それやったら城探部じゃなくて古探部やんかあぁぁ!」


訪ちゃんの悲痛な叫びは大阪城に全体に響き渡るのだった。

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