第15話 トレジャーハント

 巨大なフラッド・クラーケンを撃破したマリカ達。街一つを壊滅させた魔物をたった三人で撃破したのは大戦果であるが、皆一様に疲労が溜まってぐったりとしていた。

 そんなマリカ達に、先程救助したトレジャーハンター達が様子を窺うようにして近づいてくる。


「あの化け物を倒したのか?」


 リーダーの女性がフラッド・クラーケンの残骸を観察しながら訊き、カナエが立ち上がって応対する。マリカはまだスミの効果による痺れが残っていて会話をする元気もなかった。


「まあな。まったく、あたし達に感謝してほしいもんだぜ?」


「そりゃ勿論。アンタ達がいなかったら全滅していたろうさ・・・・・・」


 トレジャーハンターは当初十数人いたのだが、海中からの奇襲を受けて半分が死亡してしまったようだ。生き残ったメンバーは一様に悲しみに暮れていて、遺体すら残ってない仲間の冥福を祈っている。


「これに懲りたらトレジャーハントなんか辞めて真っ当に働くことだな」


「そうするよ・・・里に帰って、残った仲間達と一からやり直す」


「うんうん、イイ心がけだな」


 そのやり取りを聞いていたマリカは心の中でカナエにツッコミを入れる。一番真っ当な生き方をしていないカナエがソレを言うのかと。

 トレジャーハンター達はカナエに一礼し、馬車へと戻っていった。


「フッ・・・人を改心させて更生させることができるなんて、あたしも立派になったもんだな」


「・・・・・・」


 マリカの冷たい視線を浴びていることに気がつかず、カナエは髪をかき上げて悦に浸っていた。


「あ~・・・やっと痺れがなくなってきた」


「良かったです。心配しましたよ・・・・・・」


「カティアは大丈夫なの?」


「はい。スミを受けた際に多少の機能障害が発生しましたが、すぐに復旧したので問題はありません」


「頑丈なんだねぇ・・・それに比べて生身の脆弱さよ・・・・・・」


 カティアは状態異常に強いらしく、麻痺を受けても大きな損害は受けないようだ。その丈夫さを羨ましく思いつつ、マリカはようやく立ち上がって腰に手を当てながら周囲を見渡す。


「にしても、とんでもない事態に巻き込まれたもんだ」


 ハーフェンが巨大な魔物によって壊滅したとは聞いていたが、まさかフラッド・クラーケンのようなレア且つ強大な敵に遭遇するとは予想外であった。


「でも上手く撃破できましたね。わたしとマリカ様の共同攻撃も成功しましたし!」


「だね。しかし最近、敵の体内から破壊するというエグい倒し方ばかりしているような・・・・・・まあでもコッチも生存に全力だからさ・・・・・・」


 戦いとは殺すか殺されるかだ。そこに美学を求める騎士や闘士もいるだろうが、マリカ達は騎士道精神や武士道は持ち合わせてはいない。生きるか死ぬかの瀬戸際でそんなものに執着するのはナンセンスだと思っているし、大切なモノを守るためなら尚更だ。

 マリカは目の前のカティアの笑顔を守れたことに安堵し思考を切り替える。この街に来たのは魔物討伐のためではなく、お宝を捜索するという目的があるからなのだ。






「というわけで、やってきましたハーフェンに!」


「誰にリポートしてるんだ・・・?」


「どうです? あたしら専用のビーチですよ!」


「砂浜はないけどね」


 水際でテンションを上げているカナエ。さっきまでの激戦は忘れ去ったようで、マリカの車に持ち込んでいた水着へと着替えて仁王立ちしている。旧世界の学校にて使用されていた所謂スクール水着であり、カナエのスラッとしたボディラインも相まってスポーティな印象だ。


「切り替えが早いことで」


「それがあたしの長所だからな。てかマリカだってしっかりと水着に着替えてるじゃん」


「クソ暑いしね。丁度いいっちゃ丁度いいからさ」


 対するマリカはリゾート地にでも行くのかといった派手且つオシャレな水着であった。オレンジカラーが太陽のように眩しく、豊かな胸元が強調されて海のビーナスのようだと隣に立つカティアは見惚れている。


「お似合いです、マリカ様。とてもお美しいですよ」


「そ、そう? カティアのもイイ感じだね。メイドっぽさがあるよ」


「えへへへ・・・マリカ様にお褒め頂けて嬉しいです」


 照れるカティアの水着はマリカがチョイスしたもので、カティアが普段着用している白黒のメイド服に似た基調となっていた。そのシンプルさは清楚さすら醸し出している。


「イチャついてる場合じゃないぞ、お二人さんよ。そういうのは宝を見つけてからにしてくれよな」


「はいはい・・・で、私達はこのまま潜っていこうって?」


「でないと沈没した船には近づけまいよ。それともマリカが引き上げてくれるのか?」


 目当ての商船は海の底だ。潜水艇やら水陸両用ロボットでもあればいいのだが、そんなアテは無いので直接潜るしかないだろう。


「カティアちゃんは見たんだよな? 沈んでいる船をさ」


「はい。フラッド・クラーケンによって海中に流された時に発見しました。ですが深度が深いため、これを生身で探索するのは不可能かと・・・・・・」


「うーむ。となると・・・カティアちゃんに託すしかないな」


 カティアであれば呼吸する必要もないので海底探査も余裕である。しかも水中用オプションパックを背負っているので高速移動が可能なのだ。


「カティア、無理はしないでね。戦闘が終わったばかりなんだしさ」


「大丈夫です。マリカ様のお役に立てるよう頑張ります!」


 敬礼したカティアは海へとダイブし、バックパックのスクリューを始動させて潜水していく。




 暫く潜行すると、フラッド・クラーケンとの戦闘中に見つけた船へと到達する。船体は真っ二つに折れており、各所が激しく損壊していた。

 バックパック先端のカバーを開いて可動式ライトを展開、暗い視界を照らしながらゆっくり近づいていく。


「さて、中に入りますか・・・・・・」


 内部に潜入し、探索を開始するカティア。見る限りは特に目ぼしい物は見つからず、船体後方の物資保管庫のひしゃげている扉を開いた。

 

「これは・・・!」

 



 カティアが潜ってから数分が経ち、特にやることのないマリカは気怠そうに座り込んでいた。疲労があるのもそうだが、暑さがしんどくなっていたのだ。


「せっかく海辺に来たんだから、もっとこう・・・キャッキャうふふな事やろーぜ?」


 水浴びをするカナエがマリカに水をかけた。そのヒンヤリとした感覚は気持ちよかったが、できればカティアにかけて欲しいなと思う。


「何が悲しくてカナエとヤラなくちゃいけないの」


「その言い方だとセックスするみたいな感じに捉えられるぞ」


「アホか・・・・・・」


 手元の貝殻をカナエに投げつけながらカティアのことを待つ。できれば一緒に潜りたいけれど、人間のマリカではアンドロイドのように長時間潜ることはできない。


「マリカは本当にカティアちゃんのことが大切なんだな」


 マリカがカティアの心配をしていることを察したカナエは、頭に付けていたゴーグルを首元にずらしながら呟く。


「ずっと昔からの関係のように感じてね。気づいたらカティアのことばかり考えるようになってんの」


「あらまぁ・・・まるで恋みたいだな」


「ホントにね」


 苦笑しながらも、カティアとは運命的な出会い方をしたなと実感している。そもそもマトモな人間は凍り付いた廃墟都市など訪れないし、偶然放置されていたカティアを見つける確率などいかほどのものだろうか。しかもたまたまマリカにリペアスキルがあったからこそカティアは再起動できたのである。

 あの時、早々に探索を諦めて帰るという選択肢もあったが、そうしなかったことを心から良かったと今なら言える。


「カティアがウチに来てから物事が良い方向に動き出したしさ。店の客が増えたのもそうだけど、カティアがいなかったら私は今頃死んでいただろうからね」


「そうなの?」


「カノン・オーネスコルピオとかに襲われたけど、カティアの力で倒すことができたんだよ。もし私一人だったら一瞬で消し炭にされて死体も残っていなかった」


「まさしく命の恩人だな」


 カティアにとってもマリカは命の恩人であり、互いに互いの存在を守り合った仲である。となれば特別視するのも当然で、もはやカティアなしの生活など忘れてしまっていた。

 

「ただいま戻りました!」


「カティア!」


 海からひょっこりと頭を表したカティアにマリカが手を振る。カティアは笑顔を浮かべていて、どうやら船の探索で何かしらの成果があったようだ。

 


  -続く-
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る