#24
#24
「緊張するね」
バンドメンバーが集合したところで雪奈は言う
「そうだね」
「結花なんか元気なさそうだけど大丈夫?体調とか悪い?」
「無理すんなよ」
心配そうな顔をして優斗と夜羽が言った
「大丈夫。ただね、伝えておかなきゃって思って」
和希と雪奈には静寂が走った。つられるかのように優斗と夜羽も真剣な顔になる。
結花は深呼吸をしてから話し始める
「ステージに立つ私はね、綺麗な私でいたいから」
異様に長く感じた数秒の沈黙の後、結花は口を開いた
「私ね、死のうとしたんだ。もう何もかも嫌になって、どうしようもなくて。でもそんな私に手を差し出して"死のうとなんてしないでくれ"って言ってくれる人がいた、それが和希。すっごく戸惑った、だって初めての気持ちだったから。少し前まで死にたがりだったのに人を好きになるなんて...和希は私を変えてくれた。でも、素直になれなかった、そんな自分を嫌った」
結花は全てを話した。死のうとしたこと、和希とのこと、雪奈とのこと、全部。
「こんな私だけど、良いかな?」
「本当...?」
意味深に発せられた雪奈の言葉に再び沈黙が流れる
「結花はいつもそう」
雪奈は俯きながら結花の目の前に立ってそっと結花に手を触れて言った
「結花はいっつもそう...全てを伝えているようにみせて、本当の気持ちとかはなんにも言わない....」
「そんなことないから安心して、私は大丈夫だから」
結花は言う
「大丈夫って言わないで!」
雪奈は俯いていた顔を上げて結花を見つめる
「あの時だって..そうだったじゃん、大丈夫って言って独りで泣いてた、だから..怖いの....」
雪奈は結花に触れたままその場に崩れるようにひざまづいた
「もう..独りで泣かないで」
「本当はね.....今でも死んじゃいたいなって思う時がたくさんあるの、でも..それでも良いんじゃないかなっていう気持ちもあって...正直よく分からない。でもありがとう、じゃあ無理しないようにするね!」
「うん....どうしようもなくなったら、すぐに言うんだよ」
雪奈は涙を拭った
「その時は僕にも言ってくれよ、助けてやっから」
和希は言った。
「私もずっとみんなと笑っていたい」
結花は瞳を揺らしながら言った
「もー!せっかくの可愛い顔が台無しになっちゃうぞ」
雪奈がポケットからハンカチを取り出して、そっと結花の涙を拭った
「ごめんね...空気悪くしちゃって..」
結花が謝ったところで少し暗い顔をした夜羽が口を開いた
「ちょっとだけ良いかな?」
「結花はずっと綺麗だったよ、私はずっと結花に憧れてた、昔から人見知りで誰とも話せなかった私を軽音部に誘ってくれてバンドにも誘ってくれて...私がどんなに頑張っても私より前にいる結花に嫉妬したこともあった。でもね結花は私の何倍も努力してた。だから自分のことを汚いなんて言わないで、私が憧れた、追い掛けた結花でいて」
「誰にでも辛くて苦しくてどうしようもないって時があるの、結花にもあると思う、だから友達がいるの、どうしようもなくなった時に何も言わず側にいてくれる人が....すっごく大切なの」
「ありがとう」
「私にとって、その大切な人は結花だよ」
「私も好きだよ」
和希はしんみりした空気を払拭するように口を開いて
「じゃあ行くか!」
「おー!」
「おー!」
「おー!」
「おー!」
「おー!」
みんなで手を重ねて気合いを入れた。
ステージまでの小さな階段を登っていく
たくさんの人が自分達を見つめている。
緊張が襲う、でもそれを掻き消すように楽しさが心の底から込み上げてきた
「3・2・1!」
結花の掛け声と共に音楽が鳴りだす、和希は必死にみんなについていく。
結花の歌声は透き通っていて、どこか儚くて、愛おしい声だった
客席からの心地良い歓声が聞こえてきて、さらに緊張が緩む
ステージに立つことがこんなにも楽しいことだなんて知らなかった。きっと結花が軽音部に誘ってくれなかったら一生知ることはなかっただろう。
"僕が結花を変えた"と結花は言った。それもある意味では正しいのかもしれない。ただそれ以上に"結花は僕を変えてくれた"
一つ一つはちょっとした変化かもしれない。でもその一つ一つが積み重なってその人を変えたり、感じたことのない気持ちを芽生えさせる。
僕や結花。雪奈、夜羽、優斗に芽生えた感情をそっと紡いで綺麗に飾ったのならどんなに綺麗なんだろうか?
そんなことが頭の中をよぎっていく。
曲が間奏に入ったところで結花がバンドメンバーを紹介していく。名前が呼ばれるたびにその人の友達やらが一際大きな歓声をあげる
「ギター!和希!!」
驚いた。結花と話すようになってから良くなったとはいえ、他のクラスには知らない人もたくさんいる
その"話したこともない他のクラスの人達"が和希に歓声を上げていたのだ。
驚いている僕を結花がチラッと見て微笑んだ。
演奏が終わってステージ裏に戻ると結花が言った
「和希って意外とモテるんだねー!」
それに反応した優斗が
「僕の時なんて全然だったのに和希の時は満員御礼拍手喝采で女子からの歓声をいっぱいで、羨ましいやつだ」
「嫉妬かな??」
優斗の前に覗き込むように立って雪奈は言った。
「ちげーし!」
慌てて否定する優斗を見てみんなが笑った。
「みんな!まだ終わりじゃないよ!午後のステージも残ってるんだから!!」
例年文化祭二日目は一年生のみのステージで各バンドは午前と午後で計二回演奏する。
「取り敢えず...お腹すいた!!」
優斗の言葉に
「私もー!」
と、結花が反応した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます