#21
#21
「もう一回言って」
「いやだよ...」
「言って」
なんか前にも同じようなことがあったような気がした
「言って」
言うまで終わらないと察して和希は
「か..可愛い」
「もう一回」
「可愛い」
「もう一回」
「可愛い」
数回繰り返した後に
「素直だなー」
結花は嬉しそうに笑いながら言う
「でも..そういうところも好きだよ」
「ありがとう」
和希の言葉は優しくて温かった
「雪奈にも謝らないとな、悪いことしちゃったし」
「もっと悪いことしちゃおっかな」
「え?」
和希が振り向くと同時に結花は和希をゆっくりと押し倒した
「秘密...一個だけじゃ足りないよね」
結花は深く和希を抱きしめて口を近づける
「なんてね」
ギリギリのところで止めて、そう言うと体を起こした
「期待したでしょ?」
「えっ!?べ..べつに」
「素直に言って良いんだよ」
そんなふうに言って笑い泣きをしている
「ちょっと..だけ」
「ふふっ、やっぱり和希も男の子だねー」
さらに笑っている結花を見て和希も微笑んだ。
「でもさ、私の初めてをあげたんだから...ね?」
和希が頬を赤くするのを見て満足したのか
「そろそろ戻ろっか」
と言って立ち上がった
「そうだな」
和樹も続いて立ち上がって、二人並んで教室に戻った。
「もしかしたら..また泣いちゃうかもしれないから...その時は助けてくれる?」
屋上からの階段を降りていく最中、どこか不安が残った声で呟いた
「もちろんだ」
結花は何も言わなかった。その代わりなのかそっと和希の手を握った。和希もそっと握り返した。
教室に入った時、結花は和希の後ろに隠れた
「こっちおいで!」
結花の代わりにと手伝いに入ってくれた雪奈が笑顔を向けると結花はゆっくり和希の一歩前に出て軽く深呼吸をして、ニコッと笑った。
何も言わずに笑った結花を見て雪奈も同じように笑った。周りにいる人たちも自然と笑った
「おかえり」
雪奈の言葉に安堵した結花はハッキリと透き通った声で言った
「ただいま」
その後、空いた時間に二人でいろんなクラスや部活の出し物を見て回った
「これ美味しい!」
結花は模擬店で買ったホットドッグを食べ歩きながら満足そうに頬を膨らませる
「和希....手繋ごう?」
「うん!」
そっと指先から触れ合って、ぎゅっと握った。
周りからの目線とかコソコソ話とか今はどうでも良い。とにかく一緒にいたい、繋がっていたい。
「ありがとね」
文化祭一日目を終えた後の片付けでいつもより遅くなった帰り道で結花はぽつんと呟いた
「こっちこそ、ありがとな」
結花は立ち止まってじっと和希を見つめる
「どうして、和希がお礼を言うの?」
「結花がいなかったら、僕はずっとひとりぼっちだったから」
結花の少し先で和希も立ち止まってそう言った
「なんだ....そうだったんだ..私、誰かの役に立ててたんだ........」
止まらない涙を両手で必死に拭っている
「また泣いちゃったね」
「泣いてるところも可愛いよ」
結花に歩み寄って優しく頭を撫でた
「そんなことされたら、もっと止まらなくなっちゃうじゃん...」
「思いっきり泣いたって良い」
和希はポケットからハンカチを取り出して結花の涙を拭ってあげる
「声にできない気持ちをどうやって伝えたら良いのか分からなくて...ううん、違う。本当は怖かったんだ..口に出したら全部壊れちゃう気がして」
「壊れないよ、絶対」
空気が変わった。周りの物音が一瞬で消えた
「無理して言わなくたって良い」
「でもさ..みんなに嘘ついてる気がしちゃうの」
「きっとみんなも口にしないだけで誰にも知られたくない秘密の一つや二つぐらいあって、でもみんな笑ってる。だから結花も気にせずに笑って良いんだよ」
「ありがとう」
涙こそ止まらないものの結花は笑っていた
「和希この後何か予定ある?」
「ないけど..」
突然の質問に少し戸惑いながらも答えた
「じゃあ来て!」
和希の手首を掴んで結花は走り出した。
いつもとは反対方向の電車に乗ってしばらく揺られていると
「ここだよ」
駅から降りて少し歩くと綺麗な砂浜と海が見えた
「前に雪奈の来たんだ」
雪奈と座ったベンチに和希と座る
「綺麗だな」
「こうやって海を見ながらぼーっとしてると、幸せだなって思うんだ」
「確かに落ち着くな」
「和希はさ自分が嫌になることはないの?」
「いっぱいあるよ」
「例えば?」
「バイトでミスして怒られた時とか」
「あとは?」
「テストの点が悪かった時とか」
「そういう時はどうするの?」
「難しい質問だな....諦める..かな」
「べつにいっかって」
「和希はすごいよ」
「でも、そんな自分が嫌になった」
「え?」
「べつにいっかっていつも後回しにして...でも結花のおかげで友達って言える存在ができて初めての恋人もできて」
「なーんだ、和希も私と一緒じゃん」
結花はそっと肩をくっつけて手を重ねた
「私がそばにいるからね」
結花は海を見つめたままそう言った。
波の音が聴こえてきて心をぎゅっと締めつける。この感情をどう言い表せば良いのか、きっと誰にもわからない。
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