悪魔の童話:胡蝶蘭を愛でる猫

これはデビル死刑を受けた悪魔が人間の世界に行った

そんなどこにでもある様でどこにもないたった一つの物語。


その悪魔は店のジゴクタラバガニを盗み食いした罪でデビル死刑を受けました。

魔界では盗み食いは重罪と言う法律が絶対なのです。

罰として人間の皮を被った悪魔として人間界で生きなければなりません。

ところが、彼は生来の才能である魅了の力で人に好かれる事には事欠かず

ある時はお金を騙し取り、ある時は欲望のままに食べたいものを食べて

魔界よりも制約が無いこの世界を満喫していました。


しかし、ある日、魅了の力に騙されない生き物に遭遇します。

それは年老いた野良猫でした。彼はどういうワケか執念が働いて

その子に好かれる為にあらゆる努力をしました。

餌をあげたり水をあげたり、遊んであげたり。

どうにか努力が実を結び、野良猫が懐く様になりました。

そして悪魔はいつしか与える事の喜びを知る事となります。

思い通りにならない事のもどかしさの中にあるこの感情は

自分にとって何なのだろう?それだけが心に引っかかります。


気分屋な野良猫ですが時に喉を鳴らしてご機嫌に尻尾を揺らして

甘えて来たりします。悪魔にとってそれが一番幸せな瞬間になっていました。

悪魔は猫を自宅で飼う事にしました。人を騙して何かを得るよりも

その時間は何よりも尊いものだと感じる様になった悪魔でしたが

猫は既に年齢から来る体調不良により動きが鈍くなっていきます。

獣医にかかった所、余命幾ばくも無い病気を患っていたようです。

一日ずっと、息をしてるのも辛そうな程に衰弱していきました。

悪魔は涙こそ流せませんが、そこで限りある命の儚さを知る。


自分の様ないい加減な悪魔と居て楽しかったのか?

せめてその痛みを肩代わりしてあげたい。

そんな気持ちでいっぱいになっていきます。


いろんなことを聞きたかった。元から気持ちも分からないのに

ただ当たり前の様に傍に居てくれた猫から

本当の気持ちを知りたくなった。

だけど、もう良い。辛かっただろうから一度だけで良い。

精一杯の「ごめんね」を伝えたかった。

長生きできる悪魔が愛を知ろうとしたから絶望を思い知らされる。

自らの傲慢が招いた結果だったと謝りたかった。


だけど、猫は最期の力を振り絞って悪魔の元へとすり寄って来て

心配する彼の腕に潜り込みながら、少しだけ鳴いて・・・

最後に眠るのは飼い主の腕の中。と決めていた様に

そこからずっと動かなかった。呼吸は弱くなって行く。


悪魔はずっと「ごめんね」と謝り続けた。

しかし、猫が息をしなくなって、力なく身を預けてからは

「頑張ったね。」「ありがとう」と感謝し続けた。


猫が死んだらどうしようかと言う事は決めていた。

人間の世界で花を贈ると喜ばれると知っていた悪魔は

自分の傍に居てくれた唯一の家族にお花を手向ける事にします。

散歩してる時に猫がその花が好きだった事を知っていた・・・

木箱に眠る猫に桃色の胡蝶蘭の花を敷き詰めてあげました。

花言葉は「あなたを愛しています。」

猫の魂が浮かび上がると、虹の橋へと運ばれて・・・

悪魔は二度と悪さを働かなかった。

彼は限りある命と消えない愛の意味を知ったのでした。



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