第5記:魔境

 昨夜は帰宅が遅くなった。仕事後、御徒町の地下割烹で知人二人と合流した。ビールに続いて、焼酎を呑んだ。料理は刺身の盛り合わせ(特に鰯が絶品だった)とミックスフライなど。

 最後までつき合いたかったのだが、やや疲れを感じたので、先に帰らせてもらった。その前に清算を済ませる。俺の払いは、3000円ほど。まさに安い…と、云わねばならない。

 こういう時、無理は禁物である。無理をすると、かえって、迷惑や心配をかけることになる。何事も引(退)き際が肝心である。組織や団体もそうである。有能ならともかく、そうでもない人はさっさと引退して、趣味やボランティアなどに専念した方がいい。


 随分前の話だが「水を取り替えない金魚鉢」みたいな会社に所属していたことがある。社内全体に腐り水の臭いが漂っていた。未来を担うはずの若い金魚たちが、次々と死に絶え、悪臭の感知機能を持たない化物金魚だけが元気に泳いでいた。

 成績にも出世にも興味がなかった。当時から、俺の頭は「遊び」でいっぱいであった。皮肉なことに興味がなかったからこそ、異常環境に適応(ある程度だが)できたのである。意欲に燃えていればいるほど早死に(退職)する不思議な会社であった。

 頭数が減少すると、しばらくの間、俺のようなダメ社員でも妙に大事にされるのがおかしかった。在職中は信じ難い理不尽を幾度も経験したが、今にして思えば、俺のような出来損ないを雇って(使って)くれた温情あふれる企業でもあった。

 あふれてはいたが、役立たず代表の俺を定年まで飼っておくほどの余裕はなかったと思う。あのまま残留していたとしても、遅かれ早かれ、切られていただろう。どうせ切られるなら、自分から(辞表を)出した方が精神的に楽である。竹の鋸で切られると痛いよ。


 7時起床。コーヒーの支度を済ませてから、愛機を動かし、ぴよを呼び出す。ダブン三本を書き、投稿する。ダサクの続きも書きたかったが、時間が迫っている。今日は「映画塾」の最終回なのだ。講座後のビールパーティにも、出席させてもらおうと考えている。今夜の帰りも遅くなりそうだ。まったく、いいのかね。連日連夜、遊びっ放しである。俺の死は、遊びの最中に訪れるかも知れない。〔3月13日〕


♞「まさに安い…と、云わねばならない」は、池波エッセイの影響。地下割烹とは、昧舟(みふね)のことである。

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