かぶっていた猫が外れたら騎士団にスカウトされました!
灯倉日鈴
第1話 ……ですよねー。
「エレノア・カプリース、僕と結婚してくれないかい?」
ジルド・モントレー伯爵令息に両手を握られプロポーズされたのは、卒業間近のパルティトラ王立学園の正面扉前。玄関ホールから繋がる階段の天辺でのことだった。
「嬉しい……」
クリスタルの巨大なシャンデリアの灯りが、祝福するように二人を照らす。
私は涙ぐみながら……、
(きたきたきたきたぁーーー!!!)
……心の中で狂喜乱舞した。
父を知らない私生児として生まれた私。
母と二人で小さな町の貧乏長屋に暮らして十年。
母が病で亡くなり、人買いに売られかけたところを救い出してくれたのは、母の兄であるカプリース男爵だった。
ずっと母と私を捜していたと言って、見つけ出すのが遅くなってすまなかったと泣いて私を養女にしてくれた伯父と、突然現れた私を実の娘や妹のように温かく迎えてくれた義伯母と従兄達。
そんなカプリース家の恩に報いる為、私は精一杯努力した。
弱小男爵家の養女として、私が役に立てること。
それはズバリ『玉の輿』だ!
婚家に資産と権力があれば、実家も潤う。
貴族子女の通うパルティトラ王立学園に編入した私は、入念に花婿候補を吟味した。
出自の怪しい私には、身元調査の厳しい王族は無理。しきたりの多い旧家もめんどくさい。
ってことで、白羽の矢を立てたのは、新興成り上がり貴族のボンボンだ。
貿易で財を成し、現当主の代で叙爵されたばかりのモントレー伯爵家の令息ジルド。彼はまさに私の条件にぴったりだった。
私は密かに彼のことを調べ上げた。
物静かで儚げな
勿論、美容にだって力を入れたよ。夕焼け空のようだと評される
ジルドには素直になれない系の幼馴染、グッテン子爵令嬢リラがいて、彼と私が二人きりになるのを何かと妨害された。それだけではなく、陰口を叩かれ孤立させられそうになったり、靴に画鋲、鞄に虫を入れられたりもしたけど。
こっちは酸いも甘いも知り尽くした貧乏長屋の出身だ。箱入りお嬢様のぬるい嫌がらせなんて毛ほどのダメージも感じない。
見事ライバルを蹴散らし、ジルドの求婚をもぎ取ったのだ!
モントレー伯爵令息と結婚すれば、私もカプリース男爵家も安泰だ。
長屋で育って十年、カプリース家に引き取られて八年。
天国のお母さん、そして地上の
エレノアは頑張ったよ!
私の涙をプロポーズの感動と解釈したのか、ジルドが照れたように微笑む。
「返事を聞かせてくれるかい? エレノア」
それは勿論。
「喜ん……」
言いかけた……瞬間!
「いやぁぁああっ!」
突然、ドンッ! と背中が押された。
辛うじて首だけ振り返ると、鬼の形相のグッテン令嬢リラが見えた。
「ジルドはわたくしの物なんだからぁ!」
髪を振り乱し、泣き叫ぶリラ。その横で、ジルドは真っ青になって動けない。
景色がスローモーションに感じる。
……嘘でしょ? ここまで上手くいってたのに。
私はゆっくりと階段の天辺から落ちていく。
眼下に張り出た段差が見える。
……このまま手だけで衝撃を受けたら、腕の骨が折れてしまう。
私は咄嗟に考えて……。
階段の半ばで手をついた瞬間、身体を跳ね上げた!
段差のある急斜面を
よし、無傷で完璧。
ドレス姿にピンヒールでフィニッシュポーズを決めた私を、階段上からジルドとリラが口をポカンと開けて見下ろしている。
「ジルド様、これは殺人未遂です。警備兵を呼んでリラ様の拘束を!」
毅然と指示する私に、ジルドは「あ、はい……」と呆然としながらも動き出す。
警備兵に縄を打たれ、留置場に連行されるリラを見送りながら、私は思い出したように涙目で伯爵令息にしなだれかかった。
「ジルドさまぁ。わたくし、怖かったですのぉ……っ」
とびっきりの猫なで声を出したのだが……。
「エレノア、君との結婚はなかったことにしてくれ」
……ですよねー。
私の玉の輿計画は、
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