第7話 戻らねばならぬ私

 ナタリーさんが私の体調を見て最初の頃より凄く元気になったと言ってきた。


「お嬢様!とても顔色もよくなりましたね!!そろそろ邸の方にも戻られそうですね!!良かったわぁ!!」

 と言われ瞬間げっとなる。

 そう、ここは別荘なのだ。

 うぐう!あの家に戻らねばならないとかまた胃が痛くなりそうだ!折角良くなったというのに戻ったらまた再発する!!


 あーあ、折角ヴァンサンとも犬扱いだけど少しは仲良くなったのにな。ブスですけど私。

 わかっとーる!ブスだから恋なんぞしても実ることなく吹き飛ぶとな!


 ブスよ…夢見るな!くらい!!嫌ってくらい!

 だが、ただ戻るつもりもない。いや、ただ戻るけども。


 戻った時私はあのクソ婚約者ジョゼフとの婚約破棄を成立させ、お母様の子ではないことをはっきりさせそして家を出て行く!!


 そう、安定の一人暮らし平民ライフじゃ!

 その為に村で仕事募集してないか今からチェックしとかんとならーん!!



 *

 ヴァンサンの家に行き、もうすぐ戻らねば行けないと告げるとヴァンサンはシュンとした。


「ベス…いや、お嬢様がいなくなると寂しいなぁ…」

 今ベスとまた言ったな?もうベスでもいいわ!

 犬扱いもブスには慣れたもんよ!


「ああ…あのねヴァンサン…私もう少ししたら貴族でなくなるし侯爵家出て働こうかと思うのよ」

 と言うとキョトンとした。


「なんで?いきなり…」

 まぁそうだろうね。どうしよう。


「……いろいろ事情があって…」


「何?まさか…本当にもしかしてベスの生まれ変わりだったとか?」


「それはない!!ごめん!」

 と言うとシュンとした。何を変な夢見てんのよあんた!いい歳して!!そんなわけないだろ!

 むしろベスだってなぁ!どうせ生まれ変わんならブスより美人に決まっとろーが!!


「じゃあなんで平民に?」


「いやだから、事情があるって言ったでしょ?」

 みなまで聞くなよ虚しくなるし。


「うん?だから教えてよ?友達だろ?」


「えっ!?」

 私ヴァンサンと友達だったの!?えっ!?いつからよ!?知らん!友達になろうと言われたっけ!?いや、言っとらん!仲良くはなったが知り合い程度だと思っていた!

 は、ヴァンサンからしたら私はベスに似てるから友達だと勝手に思ってるのかも!これだわ!


「ええと…あの…引いたり笑ったりしない?」


「うん」

 とヴァンサンは言う。ほんとか?

 仕方ないここまできたら話すしかないか。


「ええと…私の妹とお母様って私と違って物凄く美人なんだけど…」


「うん?」


「…で実は私には物凄い美青年な婚約者がいるわけよ。お見合いしてお茶の席で会話しかしてないけど」


「うん…ほう」


「で……その婚約者の方が…私に隠れて…ええと…その…お母様と妹と後、結構綺麗系の私の侍女と…浮気?みたいなのしてて私胃が痛くてこっちに療養しに来てたんだけど…」

 と言うとポカンとしたヴァンサン。


「えっ?それ…婚約者の男酷くない?普通に」


「うん、だから婚約破棄しに家に一度戻って荷物纏めて家出ようかと…。それに私本当はお母様の子供じゃなくて…亡くなったお父様が娼館に行って出来た子みたいなの。だから私本当は平民の血が流れてるのよ。


 本当の母親も私が産まれたら捨てる気だってお父様に言ったらしくて同情して今のお母様と話し合って私を引き取ったらしいの。だから私には貴族の資格無いんだ。ほんとは。妹に家督とか継いでもらいあの浮気した婚約者がお母様か妹かと結婚すればいいと思うの」

 と一気に言う。

 おお、人に言ったらスッキリすんなーー!!

 うじうじ悩んで胃を痛くしてたし!


 ヴァンサンは驚いていた。


「うわー…結構ヘビーだね。凄く耐えたんだね、ベス。あっ違う、お嬢様!」


「ふふ…そうだけど、結構貴族にはよくあることかもしれないよ…こんなのきっとうちだけじゃないよ…」


「え、俺だったらとりあえず婚約者はぶん殴るけどな?」


「ヴァンサン…暴力は何も解決しないわ…。それによく考えてみたら全部私がブスだから悪いのよ!ブスじゃなかったら…婚約者も浮気しなかったかも」


「え?…ベスはかわいいよ?あっ違うお嬢様は!」


「ヴァンサン基準の可愛いとは違うんだよ、残念ながら世間では私みたいな顔はブスと認識されているのよ?わかる?」


「え、そうなの?知らなかった…」

 おお、ヴァンサンよ、君はなんて清らかな天然男なんだい?こんなブスに慈悲をありがとう!!


「まぁそんなわけで、仕事を探さないとだよ…」


「ん?仕事の前に家じゃないの!?」

 とヴァンサンが首を傾げるのでハッとした!!

 そうだ!家!!

 どどど、どないしよ!考えてなかった!!

 ホームレスだ!!このままではあかん!!


 ブス冷や汗流す。


「じゃあ落ち着くまでうちに来る?うちは父さんと母さんの部屋も余ってるから大丈夫だよ!仕事もあんまりお給金は出せないけど俺の靴屋を手伝ってくれる?」

 と言ってくれたのでもう神かと思った!


「いいの?ヴァンサン!!」


「友達が困ってるからね!!」

 といい笑顔のヴァンサン。あんたいい男だよほんと!!


「ありがとう!!この恩は必ず返すね!!後払いだけど!!…とりあえず私はちょっと…決着をつけてくるわ!」

 ときりっとブスが真面目な顔をするとヴァンサンもにこりと


「頑張ってね!ベス!あっ違うお嬢様!!」


「ははは、もうベスでもブスでもどっちでもいいよ!」

 と私は笑った。

 本当に私はベスの生まれ変わりでヴァンサンを助けてやる為にこの世に舞い降りたブスだと思うか?私はそれほど救われた気がしたのだ。いつかヴァンサンにも可愛くて綺麗な嫁をめとるだろうしそっと応援してやるからな!!


 と私は密かに決意し、家に戻る準備を始めた。

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