第539話 視察巡り2
城内の視察を終えた後、俺たちは城外へと出る。そして改めて城下に出来た街並みを見回す。
「なぁ、マグナブリル、今城下に何世帯、何人ぐらいが疎開してきているんだ?」
「凡そ500世帯、約2000人でございます」
今まで近所にシュリの家庭菜園ぐらいしか無かった城の近辺に、いきなり500世帯ぶんの民家やテントが並んでいるのでホラリスに旅立つ前に比べてかなり景色が変わっていた。そして、マグナブリルから世帯数や人数を聞いてそれを実感する。
「500世帯か…で建築完成済みの家屋はどれぐらいあるんだ?」
「ざっと60軒程でございます」
「60軒? じゃあ400世帯以上が未だテント暮らしって訳か? それだと不公平で不満の声とか上がってこないのか?」
城下を見渡して世帯数に比べ思った以上に家屋が少ないので、マグナブリルに振り返って尋ねる。
「木の伐採や、木材への加工、建築など…襲撃の対処に必要な人員を差し引き、残った人材で対処し、領民の手助けも借りておりますが、日が暮れるまでの作業時間ではここらが限界でした。それにひと世帯分の家屋を建てていくのではなく、台所やトイレ、食堂など数世帯分共同で使える家屋を建築しておりますので、完全にテント暮らしの者は殆どおりませぬ」
「あっなるほど、襲撃があった時にはテーブルをどかせてもっと中に入れるし、雑魚寝で良ければそこで大人数眠れるわけか、なかなかいいアイデアだと思うが、まだまだテントの数が多いな…どうしてだ?」
「あくまで家屋は共同生活の公共の場ですので、それぞれ個人的プライベートの場が欲しいのでしょう」
マグナブリルの説明を受けて、あっ察しと言う感じになる。俺でも四六時中他人のいる場所で過ごすのではなく、女としっぽりぬっぽり致し空間…いや癒し? どっちでもいいけど個人スペースは譲れないな… だが、テントで致すのって、どうなんだ? 声丸聞こえというか、致し音も丸聞こえだろ…
「あ~ 俺からも言っておくが、アソシエにテント内の音が外に漏れにくい魔道具をテント世帯に渡せる数を作る様に言ってもらえるか?」
「は、構いませぬが… 安眠の為に外の音が小さくなるのではなく、中の音が外に漏れない魔道具でございますか?」
マグナブリルの感覚では、一般市民が襲撃の恐れがある状況でも明るい家族計画を実施しているなんて思わないであろう… だが、俺のゴーストが告げている…領民は必ずや明るい家族計画を実施していると…
「あぁ、そうだ。中の音が外に漏れない魔道具だ。しかも可及的速やかに製造し頒布してやってくれ」
「分かりました。私には分かりませぬが、領民にはそれが必要なのですね。アソシエ様に連絡致します」
マグナブリルは俺の言葉を了承すると、後ろに控えるアルファーに目配せする。するとアルファーがコクリを頷いて、アルファーは暫し目を閉じる。
あぁ、なるほど。蟻族の種族間伝達を使って電話代わりに使っているのか。流石マグナブリル、俺より蟻族の連中を活用してんな。
「あと、ざっと城下を見渡して思ったんだけど、約2000人程疎開してきている割には人気が少ないな… 掃除洗濯やっている主婦ぐらいしか見かけないけど…」
「自分の耕作地の農作業が出来ない状況ですからな、老若男女問わず働けるものは、城内での作業のように、なんらかの作業についてもらっております」
「今は襲撃での非常事態を差し引いても、ここってそんなに仕事あったか?」
「大体が家屋を建てる為の仕事でございますな、木や石、粘土を各地で収取したり、それらを蟻族やロレンス殿ビアン殿ところでの加工の仕事に建設、また元々労働力不足でした麻などの縫製作業にあたってもらい、領民の衣料も作っております。その他の作業も合わせまして領民の6割凡そ1200人程、何かの作業について頂いておりますな」
「1200人もか?」
「数だけみれば多いですが…何分、ヴァンパイアの襲撃がございますので… 数ほどの成果は上げにくいですな… 日の入りまでにきっちり作業を終わらせた上で襲撃がいつ来てもいいように備えを済ませておかなければなりませんのでな」
となると17時には家に帰って飯を済ませて襲撃に備えるって感じか…現代人もこれぐらいの時間間隔で働けたらいいんだけどな…
「後、子供たちの姿が見えないのはどうしてだ?」
次に子供の姿が見えない事を尋ねる。もしかして他の領地に子供だけでも疎開させているのだろうか?
「4~5歳以下の未就学児童は各家屋で纏めて面倒を見ております。何処かに遊びに出かけて行方不明にでもなりましたら大変ですからな、10歳までの児童は城内の一画を使いディート様や手の空いている文官を使って授業をしております」
「そう言えば、前に各集落に教会や学校を作るって言ってたよな、それを今集中して行っている訳か」
「左様でございます。こう言っては何ですが計画していたものより、かなり効率的に行得ておりますな」
「というと?」
「本来であれば5,6歳になると畑仕事の労働力として子供の使われておりますが、現在はこの様な状況ですので畑仕事から解放されております。なので10歳までの児童が教育を受ける事が出来るのです。現在、領民の識字率や四則計算が可能な者の率はかなりあがっております」
「ほほぅ~ それはいいな」
現代感覚で言うと、速くて高校卒業の18遅くて大学卒業の22歳あたりが就業年齢となるが、文化文明が中世時代のこの異世界では、繁忙期で5,6歳通常なら10歳ぐらいで仕事を始めるので、高等教育など受ける者は貴族や富豪ぐらいなもので、一般人は読み書き四則計算が出来れば十分学があるほうだ。
まぁ、その代わり、こちらの世界では18歳ぐらいになると十分職業経験や知識技術の継承を得ているので十分即戦力となる。但し、新規の技術革新となると読み書き四則計算ができないので知識技術伝播にかなり時間が掛かる。
それを短期間の詰め込みで皆読み書きや四則計算が出来るようになれば、今後かなりの発展が望める。
「はい、それに望めば更なる高等教育や、木工・石工・鉄工・縫製などの技術も学ぶことが出来ますし、このまま事が進めばかなりの発展を望めますな」
「まぁ、それもヴァンパイアたちを撃退ではなく、討伐しての話だがな…」
「然り…」
この不幸中の幸いというか怪我の功名というか、これはマグナブリルがこの状況を生かしただけで降ってわいた幸運ではない。一刻も早く領民を日常に戻してやらないと、食料の自給が滞って食うに困る事になりかねない。
「兎に角、この状況を早々に打破しないとダメだな」
「はい、この状況を良きものと捕えず、そう思って頂ける方がよろしいかと」
マグナブリルは当然の事の様にコクリと頷く。こうして、俺は自分の目で視察を終え、ヴァンパイア対策に決意を固めたのであった。
尚、後日俺の指示によって各世帯に配られた音漏れ防止の魔道具は、領民たちに大層喜んで受け入れられ、この襲撃の中、領民の支持と出生率を向上させたのであった…
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