第467話 今日の成果
「ふぅ、食った食った、御馳走様~」
「私もお腹いっぱいになりました、御馳走さまです」
「御馳走様」
俺とカローラが御馳走様をいうと、何故か聖剣も御馳走様を言って、俺の頭に付けていた触手をするすると戻していく。
「ん? なんで聖剣まで御馳走様を言ってんだ? それと触手を戻した様だけど」
「ちょっと、試しに味覚の感覚を共有させてもらったのよ、あぁ、300年ぶりの食事の感覚は良いわね…」
「勝手に感覚を共有していたのかよ…ってか、そんな事が出来るなら今までだって出来ただろ」
俺は食後のコーヒーを飲む。
「教会のお堅い連中が私の前で飲食なんてするはずが無いでしょ? だからそそられなかったのよ」
「あぁ、確かにご神体扱いされていたからな…不敬に思われる飲食なんてしないわな」
「それで、聞きそびれていたけど、今日の成果はどうだったのよ」
「それ、私も聞きたいです」
二人して今日の成果を聞いてくる。
「あぁ~ 今日の成果か… 今日は本当に骨折り損のくたびれ儲けだったな…」
俺はソファーにもたれかかって脱力感を解放する。
「それは全く成果が無かったのに面倒ごとだけはあったという事? 一体何があったのよ?」
「なんか心霊スポットに行くって言ってましたよね?」
カローラがコーラのキャップを捻って開ける。
「あぁ、探知魔法を使ってきた方角を調べるといっても、そんなホイホイと行方不明者がでる事件なんて起きないから、心霊スポットの老ノ坂って所を調べに行ったんだけど… やはり有名どころらしく、変な連中と鉢合わせしてな…」
「「変な連中?」」
聖剣とカローラの声がハモる。
「あぁ、自称霊能力者というやつだ…」
「自称霊能力者?」
「なんなのそれ? そう言った職業があるの?」
二人は霊能力者が全く分からないといった反応をする。
「あぁ、二人からするとそういう反応になるわな… 向こうの世界と違って、こっちの世界では霊的存在を肉眼で見る事は殆ど出来ないんだよ」
「えっ!?」
「それ本当なの!?」
二人が驚く。
「見えなかったら対処できないじゃないですかっ!」
「この世界にも僧侶や神官がいるんでしょ? その人たちは何をやっているのよっ!」
「こっちの僧侶や神官は冠婚葬祭などの宗教的儀式だけをやって、除霊とかそういった行為は殆どしないんだよ」
困惑する二人にそう説明する。
「じゃあ、霊体とかの対処はどうしているですか?」
「人がいる以上死んだら霊体になるでしょ? 悪霊とかいたら困るじゃない」
「うーん、その辺りは、向こうの世界と違ってこちらの世界は肉体と霊的存在であるエーテル体やアストラル体との位相が離れていて、物質世界に干渉しづらくなってるみたいなんだ…」
俺は逆に異世界に行った時に霊が当たり前に見える方に驚いたぐらいであった。
「じゃあ、なんですか? この世界では霊はいないし見えないし、悪さもしてこないってことですか?」
「いや、見えないだけでいるし悪さもしてくるぞ」
「えぇ~! 見えない分、向こうの世界より質が悪いじゃないですかっ!!」
そう言ってカローラが身震いをする。なんでアンデッドのヴァンパイアが幽霊をビビってんだよ…そう言えば、物理攻撃が効かないとか言ってたな…
「あっ… イチローが最初に自称霊能力者って言っていた意味がなんとなく分かってきたわ…」
「おっ、分かって来たか?」
聖剣が察しがついたようだ。
「えぇ、普通の人には見えないという事は、実際に霊に関係なく言いたい放題という事ね…」
「そうだ、実際には見えてないのに、霊がいるとか霊の仕業とか適当な事を言う連中がいるんだよ… まぁ、俺も転生する前は騙されていたけどな…」
「悪辣な連中ね…」
「それで、その自称霊能力者がどうしたんですか?」
カローラが俺の服の裾を握りながら聞いてくる。マジでビビってんのかよ…
「その老ノ坂って所が心霊スポットで有名だから、なんかの力場か魔力スポットでもあるんじゃないかと思って調査していたんだけど、そこに自称霊能力者のおばさんが現れてな… 変に絡まれたんだよ…」
「絡まれたってどんな感じにですか?」
俺は今思い返すのも面倒であるが説明をする。
「老ノ坂にある首塚大明神って所を調べに行こうと参道を進んでいたんだど、首塚大明神の方から、小太りで厚化粧のおばさんが降りて来て、俺を見るなり『貴方…憑りつかれているわよ』とか言い出してさ…」
「憑りつかれているってどんな感じに?」
聖剣が聞いてくる。
「それを明言しないのがアイツらの手で、何でも俺の先祖で首塚大明神に祭られている酒呑童子に関わっていたと言われたんだけど…そりゃそうで、1000年も前の話しだったら、どこかで先祖が関わっている可能性が高いよな…」
「人間の寿命で考えると、1000年もあれば確かに関わりのある先祖は居そうですよね…」
「だろ? そんな事を言い出すおばさんに絡まれて肝心の心霊スポットを調べる事が出来なかったんだよ」
俺はコーヒーを一口啜る。
「でも、その霊能力者が実は先日のソナーを打ってきた本人ってことはないの?」
聖剣が聞いてくる。
「いや、ねぇな… 俺に手を翳して霊視するとか言って来たけど、魔法の発動は全く感じられなかった…逆に俺がこっそり魔法を使っておばさんを調べて見たけど、全く反応なかったぞ」
「ホント、この世界には魔法が使える人がいないのね…」
「でも、どうしてその心霊スポットを調べる事が出来なかったんですか? そのおばさんが帰った後に調べればよかったでしょ?」
カローラがコーラを飲みながら聞いてくる。
「いや、そのおばさんが通せんぼをして、『貴方にはここから先を行くのは早すぎるわ!』って言って通してくれなかったんだよ… その代わりにこんな名刺を渡されてな…」
そういって、俺はおばさんから渡された名刺を取り出す。すると聖剣がするすると触手を伸ばして名刺を取って見始める。
「えっと… 除霊の母… 霊能力者 太木和子…」
「カズコって…」
カローラが眉を顰める。俺も女装した時のカズオを思い出してコーヒーが不味くなる。
「霊のご相談、なんでも賜ります。明朗会計… 相談料…要相談 霊視料…要相談 除霊料…要相談… って、これ…全く明朗会計じゃないじゃない」
「だろ? この世界の霊能力者ってそんなもんだよ、あっ名刺は返さなくていいから、そのままゴミ箱へポイしてくれ」
俺に名刺を投げ返そうとする聖剣にそう言うと、聖剣は名刺をくしゃっと握りつぶしたあと、ゴミ箱の中に投げ捨てた。
「それで、これからどうするの?」
「そうだな…やはりソナーを打たれたのが気になるし、亀岡方面を調べるしかないか…」
「わかったわ、イチローが現地を調べに出かけている間、私が情報を調べておいてあげるわ」
聖剣が珍しく自分から仕事を買って出る。
「すまねぇな、頼むわ、今の聖剣の姿を見てたら、お前の方が調べるの早いし上手そうだな」
「わ、私もご飯炊いておきますので!」
カローラが自分だけ何もしない訳にはいかないので、炊飯の仕事を買って出る。
「おっ、そうか…でも、明日はムルティさんとこの店に行くつもりだからご飯炊かなくていいぞ」
「の、飲み物の買出しとかもしますので…」
カローラは食い下がってそう言って来た。
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