第456話 帰還方法の調べ方

 カローラはのっそりとロフトに上がっていくとすぐにZZZと寝息が聞こえ始める。やはり、相当眠気を我慢していたようだな。


 パソコンを取り出してテーブルの上に置き、ゴクリと唾を飲み込む。


 ノートパソコンの蓋を開け、電源も入れていて、ブラウザも立ち上げて、すぐに検索できる状態になっているが、俺がソファーから立ち上がり、台所に行って電気ケトルに水を入れて、コーヒーを飲む準備を始める。


 お湯はすぐに沸き、俺はマグカップにインスタントコーヒーを入れてお湯を注ぐ。インスタントだが思った以上にコーヒーの香りが立ち始める。俺はマグカップを掴んで、再びパソコン前のソファーに腰を降ろす。


 今から、状況確認や帰還方法を調べるのであるが、帰還方法と打ち込んで検索しても、ゲームや漫画、宇宙の話題がヒットするだけで有益な情報が引っかかることは無いだろう。


 では、どうやって調べるか… 俺には確実に調べる方法がある… 


 それは、俺が異世界に転生した時の事…つまり、俺がこの現代日本で死んだときの情報を調べる事である。


 俺はコーヒーを一口啜り、気分を落ち着かせる。そして、ゆっくりとパソコンに手を伸ばし、検索し始める。


 俺が異世界で過ごした期間、そして俺が死んでこうして戻ってきた期間は5年と3年という差異は存在するが、今でも俺が死んだと思われる日にちと場所は覚えている。



 2020年11月12日、場所は大阪、枚方市…



 検索ワードに日付と場所、そして火事という文字を打ち込んで検索する。すると心構えをする余裕なく、一瞬で検索結果が画面に映る。


 俺は検索結果 の一つをクリックしてその内容を見てみる。


「2020年11月12日、枚方市のマンションで火事、マンション全体が全焼…」


 火事が発生した状況だけが記載されていて、死者などの情報は記載されていない。恐らく、速報の第一報で、この記事が書かれた時には被害状況が分かっていなかったのだろう。


 俺は他の検索結果も調べる。


「2020年11月12日、大阪府枚方市で発生したマンション全焼の火事は、一階男性宅から火元とみられ、2階3階へと延焼した」


 俺は3階に住んで居たので、俺の部屋が火元では無い様だ。


 更に他の検索結果を調べる。


「2020年11月12日 大阪府枚方市で発生したマンション火事は死者一名、行方不明一名が出ており、共に被害者は10代の男性…」


 これでは、死んだのが俺なのか、行方不明になったのが俺なのか分からない。俺は一体どうなったんだ?


 俺はうーんと唸った後、コーヒーを一口飲んで、再び他の検索結果を調べていったが、被害者の男性の氏名を見付ける事は出来なかった。また、火事のその後や、他の検索ワードで調べて見たが、詳細な情報を見付ける事が出来なかった。


 恐らく、よくある火事の一つとして、ネットの海に埋もれていったのであろう。


 まぁ、有名人や事件性がある問題でなければ、世間の扱い方なんてこんなもんだろう。


 俺はゲーゲルマップで当時住んで居た住所を打ち込み、ストリートビューでその場所を見ている。


「あ…」


 俺は小さく声を漏らす。ストリートビューに映し出された画面には、俺が住んで居たマンションとその近所にあった店が映し出される。


「あの店…まだやってんのかよ…懐かしいな~ ここの食堂もよくサービスランチを食いに行ったっけ…」


 ストリートビューで俺の暮らしていた街を見ていると、俺にはそんなものは無いと思っていた郷愁の念が湧いてくる。


 俺は別のタグを開いて、名古屋から大阪までの移動経路を調べる。出てきた検索結果では1時間半で俺の住んで居た場所にいける様だ…


 ネットで調べて、火事があった事以上の情報が得られないのであれば、現地に赴いて調査するしかない。しかも一時間半で着く事ができる。現地に向かうのは当たり前のことだが、個人的な郷愁の念でそんな事をするのはどうかと考える自分もいる。


「うーん… とりあえず…行ってみるか…」


 俺は自分に言い聞かせるように口を開く。


「ん? 何の事?」


 そんな言葉を聞きついて聖剣が尋ねてくる。


「いや、元の世界に帰る方法として、俺が昔住んで居た場所に行こうかと考えてな…」


 すると聖剣はパソコンを弄る手を止めて、俺に向き直る。


「一応、聞いておくけど… 私も付いて行った方がいいの? それとも留守番をしていた方がいいの?」


「………」


 俺はすぐに堪えられずに暫し押し黙る。すると聖剣はくるりとパソコンに向き直って再び操作し始める。


「出来れば、私、留守番をしてパソコンを見ていたいんだけど…」


 聖剣は押し黙る俺の顔を見て、何かを察してくれたようだ。


「すまないな…気を遣わせてしまって… 留守番しておいてもらえるか?」


「別にいいわよ…私と貴方はもう腐れ縁状態なんだし、私だって、他人が踏み込まれたくない事ぐらい分かるわよ」


 聖剣は何でもないような事のように、サラリと流してくれる。


「そう言ってくれると助かるよ…それでだな…」


 俺は立ち上がって聖剣に近づく。


「なに?」


「いや、一応、何かあった時の為に連絡を取る方法を用意しておこうと思ってな… ちょっとお前のパソコンを弄らせてもらえるか?」


「別に構わないけど…どうするの?」


 聖剣はパソコンを俺の方に向ける。


 聖剣が見ていた画面をチラリと見ると、男女問題を取り扱うまとめページが開かれており、そこのコメント欄で真実の愛が何たるかをレスバしているようであった。


「…なぁ…聖剣…」


「なによ?」


「この…フィーラってのはお前のコメントだろ?」


 俺は名前欄にフィーラと記載されているコメントを指差して尋ねる。


「そうだけど、それがなにか?」


「いや、ここの人間とコミュニケーションを取るのもレスバを繰り広げるのもいいけど… リーガルアウトな発言だけは控えてくれよ…」


「リーガルアウトって言葉が分からないのだけど…まぁ、いいわ後で調べるから… それでそれの何が問題なのよ?」


「えっと警察…いや憲兵って言った方が分かり易いかな? まぁ、あまり酷い発言をしていると役人が来て捕まえられてネットの出来ない状態になるから気を付けてくれって事だ…」


 ただでさえ、DQNの身分証で過ごしているので警察とは関わりたくない…


「分かったわ…気を付けておく」


 ネットが出来ない状態になるという言葉が効いたのか、聖剣は大人しく了承する。


 そんな話をした後、俺は聖剣のパソコンにスカイペをインストールして、俺の連絡先を登録する。


「よし、ここのチャット欄にメッセージを書き込めば、俺のスマホに届くから、何かあれば俺に連絡してくれるか?」


 俺は試しにスカイペにテストと打ち込んで、俺のスマホにテストと表示されている所を見せる。


「あら、そんな事も出来るのね、分かったわ、何かあれば連絡を入れるわ」


「おう、頼んだぞ」


 俺はそう言い残すと、身支度を済ませて、俺の暮らしていた街枚方市に向けて部屋を出た。



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