第111話 街での人探し

 骨メイド達から部屋を追い出された俺たちは、とりあえず、街に出る前にカズオに一声かけておこうと、本部の裏側の倉庫へと向かう。すると、荷下ろしが終わったのか、皆、腰を降ろして一休みしていた。


「おぉ、カズオ、荷下ろしは終わったのか? ご苦労様だな」


「へい、旦那、終わりやしたぜ。所で、旦那の方の掃除は終わったんでやすか?」


「いや… 骨メイド達があんなに汚い部屋の掃除をカローラにさせられんという事で、追い出された」


「あぁ、ホノカさんもナギサさんもカローラ嬢の健康管理には、かなり気を使ってやすからね…」


 いや、アンデットというかヴァンパイアの健康管理ってどうなんだ? そんな健康に気をつかわにゃいかん程、脆弱な存在じゃないだろ。あいつらちょっとカローラを甘やかし過ぎなんだよな…


「で、これからどうするんでやすか?」


「時間潰しを兼ねて、街に繰り出すのと、シュリの希望のハルヒとか言う人物を探し出そうと思う」


「あぁ、それならあっしもご一緒してもいいでやすか? 市場の食品を見てみたいんで」


「おう、いいぞ、一緒に行くか」


そう言う訳で、俺たちはカズオも連れ立って街に繰り出すことになった。



 先頭を歩くのは案内をするフィッツで、俺がカローラを肩車して運び、その後ろにシュリとカズオとポチが続く。


「しかし、イチロー様は凄いですね! 屈強なオークだけでなく、こんな大きな狼まで手なずけるなんて!」


 フィッツが振り返りながら、目をキラキラさせて、まるで憧れのスターと話す様に話しかけてくる。ポチの事を狼だと思っているようだが、普通の人間がフェンリルなんて見た事ないから仕方ないだろう。


「まぁな… カローラ、フードが外れないように気をつけろよ」


「はい、わかりました」


「えぇっと、そちらの女の子お二人は、妹さんと娘さんですか?」


フィッツはシュリとカローラの姿を見て聞いてくる。


「いや、俺の仲間だぞ」


「えぇ、お兄様、そんな連れないことを仰るのかぁ~」


「イチローパパ、酷いです~」


シュリとカローラがフィッツの言葉に乗って冗談を言ってくる。


「何が、お兄様にパパだよ… お前ら下手したら俺より年上だろうが… フィッツ、こいつら見た目はこんなチンチクリンだけど、中身はそっちの白いのがドラゴンで、こっちの黒いのがヴァンパイアだぞ。見た目に騙されるな」


「えっ!? ドラゴンにヴァンパイアなんですか!? 本当にイチロー様は凄いです! 憧れます!!」


 シュリとカローラの中身がドラゴンとヴァンパイアという事が分かり、更にフィッツの中の俺の株が急騰していく。もうストップ高なんじゃないか?


「そう言う事で、わらわがシルバードラゴンのシュリじゃ」


「私がカローラ。よろしくねフィッツ」


「よ、よろしくです!」


 そんな感じにお互いの自己紹介が終わり、街の中を歩いていくが、まぁ、戦時下なので人気も少ないし、いたとしても湿気た顔をしている。かなり活気がないな。


「まず、どちらに向かいますか?」


「そうだな… 俺は情報仕入れに酒場に行きたいし、カズオは食材だろ? シュリは本屋か、カローラはいつも通り雑貨屋でカードか?」


俺は皆を見回して確認する。皆は俺の言葉にうんうんと頷く。


「まぁ、わらわは出来れば種も買いに行きたいのう」


「分かりました。ではとりあえず、街の広場に向かいましょうか。そこまで行けば、目的の店も近いですし」


フィッツはそう言って、街の大通りを進み、街の広場へと案内していく。


 町の広場まで出ると、流石に人手が多く、ごった返している。噴水を中心にラウンドアバウトの様になっており、城壁の門まで続く大通りが四方に伸びている様だ。そして、ここの変わった光景は、学校の合格掲示板の様な看板が噴水の周りや、広場の淵に幾つも立てかけられており、本当に合格発表を見る様に人が群がっている。また、噴水の横には大きな竈と大きな鍋があり、数人の人が作業を行っている。


「なんだ? あれは?」


俺はフィッツに尋ねる。


「あれはお悩み掲示板ですね」


「お悩み掲示板?」


「はい、今は戦時下なので、外部との交流が少なく、経済も回っていません。なので、お金がなかったり、仕事を失った人が多いです。そんな人たちがお互いの悩み事や欲しい物を書いて、労働で支払う為の掲示板です」


「へぇ~ ギルドの仕事の掲示板の様なものか…」


俺は試しに掲示板を覗いてみる。


『繕い物します。魚一食分』

『大工仕事。魚二食分』

『掃除洗濯なんでもします、魚一食分』


「なんだ? この魚一食分って奴は?」


俺は掲示板の報酬のほとんどが魚換算で書かれているのを見て声をあげる。


「今、物流が止まっていますので、街の炊き出し以外で食べていくのが難しいんですよ。でも、海がすぐそこにあるので、魚だけはとれるので、依頼の報酬が魚換算になっているんですよ」


「まぁ、このご時世、金を渡されても金は食えないって事か…」


 それに食べ物も配給制になっている様だな。噴水の横の大きな鍋は炊き出し用のものであろう。時間が来れば、ここは物凄い人で溢れる事になるだろうな。


「すぐそこの、角が酒場兼宿屋になっていますが、行ってみますか?」


掲示板を眺めていた俺にフィッツがその酒場を指さしながら聞いてくる。


「あぁ、行ってみるか」


そして、酒場の入口を潜るが、中は驚くほど静かだ。というか全く人がいない。


「い、いらっしゃいませ」


 舌足らずの子供の声が俺にかかる。俺はそこ声の方を見ると、受付のカウンターの所に顔だけぴょこんと出た子供の顔が見える。


「えっ? 子供が店番してんの?」


「はい、おとうたんは今、魚を釣りにいってます。すみませんが、今はお酒もお食事もだせません…」


「あぁ、そうか…」


 なるほど、交易がなければ、酒も入ってこないし、旅の客も入ってこない。そんな店でぼぉーっとしているより、釣りにでも行って魚を手に入れた方が良いと言う訳か…


「すまない、邪魔したな…」


 俺はそう言って酒場を後にした。しかし、これでは情報収集が出来んな… ギルドに向かうか…


「フィッツ、ギルドはどこにあるんだ?」


「ギルドですか? 少し離れた場所ですね。他の店を回るなら遠回りになりますが、どうしますか?」


「そうか、では、先に店を回るか…」


 そうして、俺たちは皆の希望の食料品店、本屋、雑貨屋などを回っていったが、どこも酒場と同じような感じで、女子供が店番をする開店休業状態であった。幾つか品物がおいてある店もあったが、物流が止まっている現状では、金の価値が下がっており、相場の10倍以上の価格が設定されていた。


 特に、雑貨屋ではカードパックが置いてあったが、カードパック一つが金貨一枚の値段がついていて、赤字の城の事もあってカローラが泣く泣くカードパックを諦めた。


「これはもう、金で買う事を諦めて、魚で買った方が良さそうだな…」


「イチロー様! 釣具店に行きましょう!!」


 どうしてもカードパックの欲しいカローラは俺の頭の上で鼻息を荒くして言ってくるが、実際に釣具店に行ってみると案の定、釣り具は全て売り切れであった。まぁ、そうなるわな。


 その後、ギルドにも行ってみるが、流石にギルドは大丈夫だろうと思っていたが、ギルドも同様であったのは驚いた。まぁ、金の動かない街に来ても儲からないので冒険者は来ないか…


 そういう事で、俺の情報収集は手詰まりになった。街の広場まで戻ってきた俺は途方にくれる。


「まいったなぁ… これでは情報の集めようがない…」


「では、掲示板を利用しますか?」


困り果てた俺に、フィッツが声を掛けてくる。


「やってみるか…で、どうやって使うんだ?」


「あそこの受付に身分証を出して、専用の用紙を貰って書けばいいですよ」


フィッツはそう言って、露店の様な受付を指さす。俺はその受付に進み、暇そうにしている受付に声を掛ける。


「ちょっと、いいか? 身分証はこれでいいか?」


俺は首からかけていた、勇者認定証を受付に見せる。


「えっ? あぁ! 認定勇者様ですか! どうぞどうぞ!」


 一般市民ではなく、認定勇者が来たので、暇そうにしていた受付は慌てて専用用紙を差し出してくる。


俺は備え付けのペンで、用紙に依頼内容を書いていく。


『ハルヒ・ニシゾノさんを探しています。 連絡は本部、イチロー・アシヤまで』


 俺は書き終えると、ペンを置き、掲示板の方を見る。しかし、どういう事だか、獲物を狙う野生生物の様に皆の視線が、俺に注がれている。


「何… イチロー様、皆の視線が怖い…」


頭の上のカローラが言葉を零す。


「多分、新しい依頼を出す俺に注目してるんだろ、皆、飢えてそうだからな…」


 俺は皆の視線が注目する中、掲示板に進み、ぺたりと紙を貼り付ける。その瞬間、餌に群がる蟻の様に人々が俺の依頼を覗き込む。


 俺はその集団から、距離をとり様子を伺う。次から次へと人がやってきて俺の依頼を覗き込む。しかし、単なる人探しの依頼なので、皆すぐに諦めて、一人一人と去っていく。


「あれ?」


 そんな人ごみの中、一人の女性の声が響く。そして、その女性はマジマジと掲示板の内容を確認した後、紙と俺との間で何度も視線を動かす。そして、俺の方にトボトボと歩いてきた。


「あ、貴方がイチロー・アシヤさんですよね? 私がハルヒ・ニシゾノです」


 そう答えた女性は薄汚れてはいるが、ウリクリの本屋で俺が買い損ねた、エロ本の表紙の女の子と瓜二つの姿であった。





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