第87話 キャットファイトからのシャイニングマイSON

 ミケと黒髪猫耳少女のハバナは互いに構えをとり、ジリジリと間合いを図る。


俺はその様子を固唾を呑んで見守る。猫獣人はしなやかな柔軟性に富んだ身体をしている。その身体から繰り出される、器用さや俊敏さは人族の及ぶところでは無いだろう。その猫獣人二人が戦うのだ。どんな戦いをするか楽しみでしょうがない。


「にゃー!!!」


「フゥゥゥゥ!!!」


 ハバナがにゃーと叫び、ミケガフゥゥと言って威嚇する。二人とも毛を逆立て、円を描くように回り、少しづつ間合いを詰めていく。


「にゃー!! にゃー!!」


「フゥゥゥゥ!!!」


 小柄なハバナは両腕を大きく開き、対するミケは両腕を身体の前にだらりと垂らした、よく日本画に出てくる幽霊の手つきみたいは構えをしている。


「にゃー!! にゃー!! にゃー!!」


「フゥゥゥゥゥゥゥ!!!」


 円の様に互いに回り会う動きが止まる。いよいよか? そう思った瞬間、お互いがとびかかる。


「にゃー!! にゃー!! にゃー!!」


ぺち! ぺち! ぺち!


「フゥゥゥゥゥゥゥ!!!」


ぺち! ぺち! ぺち!


「えぇ… なにこれ…」


 ミケとハバナの戦闘は、俺が想像していたような、体術を使った高速戦闘などではなく、お互いに、猫パンチを繰り出す、ただの女同士の喧嘩…というかキャットファイトであった。


「にゃー!! にゃー!! にゃー!!」


ぺち! ぺち! ぺち!


ハバナの猫パンチがミケの頭を叩く。


「フゥゥゥゥゥゥゥ!!!」


ぺち! ぺち! ぺち!


ミケの猫パンチがハバナの頭を叩く。


「あほらし…」


 俺は呆れて、二人の戦いから目を放し、そこらの木箱に腰をおろす。なにからなにまで、いい加減でのん気な事が多かったが、最後のミケとハバナの戦いまでもが、こんな茶番のキャットファイトかよ… 期待して損した。


「にゃ!にゃ!にゃー!!!」


「ふぅにゃ!!!」


 バカバカしいと思っていたら、ミケが俺の所まで突き飛ばされてきて、俺の足の間に背中向きに転がってくる。


「おい、大丈夫かよ…ミケ」


俺は股座のミケに声をかける。


「ラグにゃん! とどめにゃー!!!」


そんなミケにハバナが手を振り上げて突っ込んでくる。


「…くっ!」


ミケは俺の股座から、さっと姿を消す。



 ガリッ!!



「だ、旦那ぁ!!!」


 股間を押さえる俺に、カズオが声をかけてくる。俺は股間を押さえ、蹲ったまま、無言でカズオに手を伸ばし、心配無用と意思表示をする。


 周りの空気は凍りつき、皆、俺の言動を伺っている。俺は股間を押さえたまま、ゆっくりと立ち上がる。


「わ、ワザとじゃないにゃ! ラ、ラグにゃんが悪いにゃー!」


少し狼狽えながらハバナが叫ぶ。


「…ミケ… 下がってろ… 俺が相手をする…」


俺は木箱の陰に隠れているミケにそう告げる。


「子供の喧嘩に親が口を出すなと言うが… いや、俺は出すね! 口どころか手を出す!!」


俺の言葉にハバナが顔を強張らせる。


「大事な息子が傷つけられたとあっちゃ、手を出さずにいられようか!いや、ない!(反語)」


俺は天を仰ぎ、高らかに叫ぶ。


「ラグにゃんと代わって、お前がにゃーと戦うつもりか? いい度胸だにゃー!」


俺の言葉にハバナが身構える。


「カズオ… 先程、俺が昔、飼っていた猫が消えてしまった話をしたよな?」


「へ、へい、詳細までは聞いていやせんが…」


俺の後ろにいるカズオが答える。


「俺がまだ猫を飼っていた時に、ある一つの動画と出会った… それは猫をイカせる内容の動画だった…」


「猫って… 普通の猫をでやすか?」


「そうだ… 俺は面白がって、一晩中、猫をイカせまくった… そして、その日から猫が俺の前には姿を現さなくなった… 消えてしまったんだよ…」


「いや、そりゃ…いくらなんでも一晩中って言うのは…」


俺はその時の悲しみを堪えて拳を握りしめる。


「だが、その悲しみは俺に一つの境地に辿り着かせた… それが猫のあらゆるおさわり大好きポイントを網羅した… そう! にゃんこ神拳だぁ!!」


 俺はそう言って、ある漫画の構えをとる。もちろん、にゃんこ神拳の名前はいま思いついた名称だ。


「にゃん… だと!? にゃんこ神拳だと!?」


ハバナはそう言ってごくりと固唾を呑む。なんかこの娘もノリがいいな…


「フフフ… では、お前ににゃんこ神拳の真髄を見せてやろう… はぁぁぁぁ~!!!」


 俺はそれっぽく両腕を身体の前で回しながら、派手に呼吸をしていく。そして、一気にハバナの前に飛び出す。


「あたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた おぅわったぁ!!」


俺の無数の突きが猫のおさわり大好きポイントを的確に突いていく。


「にゃぁ~! にゃぁぁぁぁ~!!!!」


ハバナはその無数の突きに耐え切れず、嬌声をあげる。


「にゃんこ百裂拳!!! お前はもう、イっている…」


ハバナは腰をガクつかせて、膝をつく。


「そ、そんにゃ… にゃーが… にゃーが…」


ハバナは頬を赤く染め、潤んだ瞳で俺を見上げる。


「クククッ… これで終わりだと思ったら間違いだぜ!!」


「…にゃん…だと!?」


ハバナは愕然とした顔をする。


「我が心、明鏡止水! されどこの息子は烈火の如く!!」


またしても、俺はノリノリで全身に魔力と闘気を漲らせる。


※以降、状況描写については規約がございますのでお察し頂き、皆さんのご想像にお任せします。


「俺の息子が真っ赤に燃える!! お前と致せと、轟き叫ぶ!!!!」


「にゃ…にゃんだ… それは…」


「ばぁく熱!! シャァァァイニングゥ!マイSoooooooon!!!!」


「にゃー! にゃー! にゃぁぁぁぁぁ~!!!」


「ヒートォ、エンドォッ!」


「にゃぁ~! にゃぁ~! にゃぁぁぁ~!(エコー)」


ハバナはがくりと崩れ落ち、肩で息をしながら地面に横たわる。


「ふぅ… 俺の勝ちだな…」


俺は額の汗を拭いながら、ハバナを見下ろす。


「あ、主様よ… ノリノリでお楽しみの所、申し訳ないが…」


「なんだ? シュリ?」


俺から目線を逸らしながら言ってくるシュリに尋ねる。


「致すのはいいが… 公衆の面前じゃぞ…」


「あっ」


気が付いて周りを見渡すと、皆が凍り付いた表情で俺を見ている。


「ハ、ハバナ様が…」


「ハバナ様が致されてしまったぁ!!!」


 ハバナの部下たちは、そんな絶叫をあげて、神輿とハバナを置き去りにして蜘蛛の子を散らす様に逃げ出す。


「あっ! ちょっと待て! この娘どうすんだよ!!」


「それより、わらわたちも、この場を立ち去りたいのじゃが…」


シュリが恥ずかしさに赤面しながら言ってくる。


「ちっ! では、馬車まで逃げるぞ!!」


「だ、旦那、この娘さんはどうするんで?」


「さすがに、このままじゃいかんだろ… 連れて行くか…」


 俺は失神しているハバナを肩に抱えて、俺たちは走り出す。町の人混みはモーゼの海割りの様に俺たちを避けていく。


そして、町の出入口に来たところで、いきなりミケが立ち止まる。


「どうしたミケ?」


俺はミケに振り返る。


「イチロー… 今までありがとう… イチローのお蔭で、フェインは人々は救われ、マセレタの脅威も去った…」


ミケは別れを告げるような寂しい顔をする。


「私はフェインの王族… ここに残らなければならない… ありがとう…イチロー… 貴方の事は忘れないわ…」


「ミケ… カズオ、ちょっといいか? この娘を預かってくれ」


俺はそう言って、担いでいたハバナをカズオに渡し、ミケに向き直る。


「さよなら… イチロー…」


ミケが俺に手を振る。


しかし、俺はツカツカとミケに近づいていく。


「俺も忘れていないんだよなぁ~ お前との約束… この国の危機を救ったら、致させてもらえるんだったよな?」


俺はミケに覆いかぶさるように近づき、ドスの聞いた声で告げる。


「あっ、やっぱり覚えてた?」


「覚えとるわ!! 一体、何のためにここまで来たと思ってんだよ!!」


俺の言葉に、ミケは諦めたかのようにため息をつく。


「しょうがないにゃ~ はい、イチローこれ」


そう言って、ミケは懐から鍵を取り出して、俺に手渡す。


「おまっ!! 最初から、貞操帯の鍵を自分で持っていたのかよ!!!」


「なくさないでにゃ」


そう言ってミケは微笑む。


「くっそ! ミケ、行くぞ!」


そうして、俺たちは馬車に戻り、この国を後にしたのであった… 



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

とりあえず、また、しばらくプロットを練ります。


連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei


ブックマーク・評価・感想を頂けると作品作成のモチベーションにつながりますので

作品に興味を引かれた方はぜひともお願いします。


同一世界観の『世界転生100~私の領地は100人来ても大丈夫?~』が

最終回を迎えました。よろしければ、そちらもご愛読願います。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054935913558

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