第47話 首都でのお買い物と拾って来た猫

「わーい! お小遣いじゃ!」


シュリがそう言って声を上げると、俺の前にやってくる。その後ろにカズオ、カローラ、そしてポチまで順番に並ぶ。


「なんだよ、そんなに小遣いが欲しかったのかよ」


「わらわは、急に主様に同行したから、自分の金がなかったのじゃ、だから、ずっと小遣いが欲しかったのじゃ」


 あぁ、確かにそうだな。今までは、カローラ城の王族の残した金でやりくりしていたからな、ドラゴンのシュリにとっては主以外の者から金を恵んでもらうみたいなのが、いやだったのであろう。


 確か袋の中は、金貨にして500枚程はあったな…今までも色々頑張ってくれたし、10枚ぐらい渡しておこうか…


「ほれ、金貨10枚だ。無駄遣いするなよ」


「ありがとう! 主様!」


 シュリは手のひらの金貨に瞳を輝かせながら、俺の前を立ち去り、次にカズオが無言で前に進み、両手を出してくる。


「…お前にも渡すが、絶対に変なものは買うなよ…特に薬とか…」


 俺はそう忠告するが、カズオは両手を出しまま動かない。こいつ…絶対何か変なものを買うつもりだな… でも、まぁ、色々尽くしてくれているし、渡してやるか…


 俺はカズオの手に金貨10枚を乗せやる。カズオは貰った金貨を掲げて、俺の前を立ち去り、次に待ちきれない様にそわそわしながらカローラが前にやってくる。


「カローラ、お前の分はちゃんと渡してやるが、お前、城の金、いっぱい持っていたんじゃないのか?」


「私、お小遣い決められているから」


 カローラがそう答えるので、俺は骨メイドの方を見るとコクコクと頷く。カローラ…こいつヴァンパイアの癖にお小遣い管理されているのかよ…


俺はカローラを少し哀れみながら、その小さな手に金貨10枚を乗せてやる。


「わぁーい! 金貨! 私、金貨、だぁいすき! イチロー様! 後で一緒にカードショップに行こ!」


「あぁ、分かった分かった…金貨落とすなよ」


 はしゃぐカローラが俺の前から立ち去ると、次はしっぽをぶんぶんと振っているポチが進み出る。


「ポチの分も渡してやりたいが…お前、どうやって持つんだよ…」


「わう?」


ポチは首を傾げる。なんか皆が並ぶから自分も並んだって感じで、分かってない様だな。


「なんか、首に下げる様な小袋余ってないか?」


俺は骨メイドに向かって訊ねる。しかし、骨メイドは首を横に振る。


「そうか、無いか… じゃあ、ポチ、俺と一緒に街にいって首に下げる袋も買ってやろう」


「わう!」


ポチは元気よく吠える。


「じゃあ、皆で買い物をしに、街へ繰り出すか…って、カローラは大丈夫か?」


「うん、大丈夫! 骨メイドがちゃんと日傘さしてくれるから」


「お、おう…そうか…」


 骨メイドまで一緒か…カズオ一人でもあれだが、骨メイドまで一緒だと、これは、奇異の目で見られるな…


 そう思いながら、俺が最初に馬車を降り、続いてシュリ、カズオ、ポチ、最後にカローラが前に着ていたゴスロリ衣装で、骨メイドにカーテン付きの日傘をさしてもらいながら出てくる。


うわぁ… 俺、こいつらを引きつれて歩くのかよ… まぁ…仕方ないか…


「とりあえず、街の中心部に行くか…お前らはぐれるなよ」


 そうして、城の停留所から、城の門を抜け、城下町に続く道へ出る。すると、速攻で奇異の目で見られる。まぁ、分かっていた事だが仕方がない。俺は念の為に、マイティー女王から貰った、勇者認定の証を首から下げる。これで、いきなり襲い掛かってくる奴もいないだろう。


 俺達は城の城門を守る衛兵から敬礼を受けて、城下町へつづく道を進んでいく。今の時期は夏場だからいいが、この国は北方にあるので、冬場は雪で包まれる。なので、雪かきを雪をよけて置く為、道は広めに取ってある。だから大所帯の俺達が道を歩いても一般市民の邪魔にはならない。


「なぁなぁ、主様よ。この街にはどんなものがあるのじゃ? 先ず何処からいくのじゃ?」


シュリが俺の周りを纏わりつくような感じで歩きながら聞いてくる。


「俺も初めてだから分かんねえよ。先ずは、商店街のある所に行ってからだな。そこでどんな店があるか見てみよう。シュリ、お前は何処か行きたい店はあるのか?」


「わらわは色々な店を見てみたいのじゃ。どんなものがあるのか楽しみじゃ」


なんか、初めて遊園地に連れて行く子供の様だな…


「まぁ、いいわ、おっと、話をしていたら商店街に辿り着いたようだな」


俺達が進む先には、行き交う人混みに、数多くの看板が見え始める。


「イチロー様! 見て!見て! カードショップ専門店がある!!」


「おっ マジにある。普通は雑貨屋やギルドにおいてあるものだが、さすが首都のジュノーだな。専門店があるのか」


「イチロー様! 早く!早く! 行こうよ!」


 そう言ってカローラがなりふり構わず俺の手を引く。それに合わせて骨メイドが慌てて日傘がカローラに掛かる様に動く。


「分かったから、慌てるな。日にあたって火傷するぞ」


 抵抗するとカローラが日傘の範囲から外れて火傷しそうなので、俺は大人しくカローラに手を引かれるがままにカードショップへ向かう。


「わぁーい! カードがいっぱい! 見て!見て! カードがいっぱいだよ!!」


カードショップに入ったカローラは店内に所狭しと並べられたカードパックを見て喜ぶ。


「すごいすごい! ギルド直販のカードパックも最新段もあるし、近隣諸国のカードパックもある!」


「マジすげえな… プレイマットとかもあるじゃねぇか… 俺の元の世界並だな… えっ?スリーブもあるのかよ! って、高! 滅茶苦茶、高いじゃねぇか!」


たった100枚のスリーブで金貨一枚近くって…日本円にしたら10万近くするじゃねぇか!


 俺がそう思いながらスリーブを見ていると、店長らしき、小太りで細目の男が、恐る恐る近づいてくる。


「そのスリーブの材料は、深海生物の透明な皮を使っておりますので、その値段になります」


 あぁ、なるほど、この世界にはビニールやフィルムなんて工業製品はないから、そういった特殊な生き物からつくらないと、透明なスリーブなんて作れないな。


「イチロー様! イチロー様! 見て!見て! 単体カードも売ってるよ!」


カローラがガラスのショーケース前で俺を招く。


「どれどれ…」


ほんと、現代のカードショップと全く同じだなと思いつつ、カローラの隣にならんでショーケースの中を眺める。


「うわっ! プリンクリンのカード、こんな値段するのか!」


 俺はショーケースの中のプリンクリンのカードの値段を見て驚く。金貨10枚近くするじゃねぇか! あっ俺の淫乱の方のカードは金貨一枚ぐらいか…


「うわぁ! イチロー様! こっちのカードはもっと凄いよ!」


「どれどれって… 伝説の魔王セクード! えっ?これ値段の桁幾つだよ!! 金貨1000枚ぐらいか?」


そこには、一度人類を滅ぼしかけた伝説の魔王セクードのカードがあった。


「こんなカードもあるのかよ… 聞いた事もねぇや…」


「お客様、それでしたらカード年鑑も御座いますので、こちらはいかかですか?」


 俺は手渡された本をぺらぺらと捲ってみる。おぉ、これはいいな…今まで出たカードの情報が載っている…で、値段は…うっやっぱ高いな…


俺がカードに熱中していると、後ろからカズオが近づいて来る。


「コォーホォー コォコォコォーホォー」


「何言ってんのか、分かんねえよ」


「時間が掛かるなら、別の場所を見に行きたい、と言っているようじゃ」


カズオの後ろからシュリが顔を覗かせて通訳する。


「あぁ、なるほど、俺達ばかりカードに熱中して悪かったな。行ってきていいぞ」


俺がそう告げると、カズオは袋を被ったままキモイ仕草で喜ぶ。


「あっ、済まないがシュリ、カズオについてやってくれるか? こいつ一人だと薬を買いに行くかもしれん」


俺が付け加えると、カズオの動きが止まる。


「分かった主様。わらわもカードの事は分からんので、カズオと一緒にぶらぶらしてくる」


「おう、すまねぇ、頼んだぞ。合流は…もう馬車でいいか?帰り道は分かるよな?城目指せばいいから」


「あい分かった。ではいくぞカズオ」


シュリは項垂れるカズオを引っ張って、カードショップから立ち去った。


 その後も、俺とカローラはカードショップで色々物色していたが、欲しい物全て買おうとしていたカローラが、骨メイドからめっ!されて、渋々厳選したものだけを買っていた。まぁ、二人で共同に使えるような、カード年鑑やプレイマットとかは俺が購入しておいたので、カローラはカードパックだけに集中して買えた様だ。


 ポチの金貨の小袋は、カードショップに、デッキを入れるお洒落な小袋が売っていたので、それを買って金貨を入れてポチの首に付けてやった。


 そんな感じで、俺達二人はホクホク顔で、城の馬車の所へ戻る。馬車への到着は俺達の方が早かったようで、シュリとカズオの姿はなく、俺とカローラは買って来たカードパックを早速開け始める。


「おっ ノブツナ爺さんのプリンクリン限定パックじゃ無い方のカードが出た… これ、限定パックの方より強いじゃねぇか」


 そんな感じにうきうき、わくわくしながらパックを開封していくと、ようやく帰って来たシュリが扉から顔を覗かせる。


「おう、シュリ、帰って来たか」


「なぁ、主様よ…お願いがあるのじゃが…」


シュリが扉の陰から上目つがいでお願いしてくる。


「なんだ?小遣いが足りなかったのか?」


「いや、猫を拾ったのじゃが、飼っても良いか?」


お前は捨て猫拾って来た子供かよ…


「…ちゃんと、自分で世話をするんだろうな…」


「するする! ちゃんとご飯のしつけも、トイレのしつけもするから~ いいじゃろ~」


シュリは指をもじもじさせながらおねだりしてくる。


「まぁ、猫一匹ぐらいいいか」


「やったぁ!! ありがとう!主様!! では、入ってくるが良いぞ」


シュリは満面の笑みで喜んだ後、扉の外に手招きする。おぉ、ちゃんと手招きで来る猫か…


 猫が入ってくると思って、シュリの足元を見ていたが、姿を現したのは、シュリの頭の上からが初めだった。


「わん!じゃなくて、にゃぁ~」


そこには猫耳の獣人の少女がいた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



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