第26話 女騎士とオークと拷問室

 ここは街の詰所にある地下の牢獄。その中に女騎士とオークがいて、拷問が行われている。しかし、通常とは異なり立場は全く逆である。


「えぇい! これでもか! これでも!」


鞭打つ音に合わせて、拷問をしている人物の怒声が響く。


「あぁん! いやっ! っん!」


 それに対応して、枷に両手を繋がれ、壁に貼り付けられている拷問されている人物の、うめき声とも喘ぎ声とも言えぬ声が牢獄に響く。


「お前という奴は! お前という奴はぁ!!!」


鞭打つ人物の声に熱がこもる。


「いやぁ! やめてぇ! 酷い事しないでぇ!!!」


鞭打つ人物より、更に大きな声で、懇願の悲鳴を上げる。


 そして、何度も鞭に打たれる事で、胸元の外套が破れて、胸厚な乳房と薄いピンクの乳首が露わになる。


 肩で息をする拷問をする人物は、鞭打つのを止めて、ツカツカと枷に繋がれた人物に近づき、鞭の柄でその頭を押し上げる。


「だから、その気色悪い悲鳴はやめろと言っているだろうが!!! お前はどうして、誤解を招くような声を上げるのだ…」


涙目になった女騎士は、枷に繋がれた人物に詰め寄る。


「だって…それは…っん! …貴方が…あぁん! 酷い事を…するから…」


枷につながれたオークのカズオは痛みに悶えながら、声をあげる。


「だから、それを止めろといってるだろうが!! 私が先程、休憩の為に上に上がった時にどんな思いをしたと思う? 衛兵たちが私を見るなり『うわ…』って声を上げて、顔を引きつらせて引いて、まるで汚物でも見るような目で見られたのだぞ…」


女騎士はわなわなと肩を震わせて語る。


「それは、あっしの拷問で汗をかかれていたからでは?」


「違うわ!! そもそも、お前が枷を手首にはめる時に『らめぇ! そんなの入らない!』なんて悲鳴をあげるもんだから、私が鞭の柄をお前のケツに突っ込んだと勘違いされたんだぞ!! 私が休憩を終えてここに戻る時に『鞭はみんなが使う物なので、変な使い方はおやめ下さい』って衛兵に真顔で言われたんだぞ…どうしてくれるんだ!!」


女騎士はカズオの胸倉を掴んで叫ぶ。


「そ、それはどうにもなりませんね…」


カズオはぼそりと答える


「お前が言うな! お前が! 全てお前のせいだろうが!!」


女騎士はカズオの胸倉を掴む力をさらに強めて、詰め寄る。


「そもそも、私はお前たちと関わって散々な目にあった… 家宝の剣は奪われ、新しく買った剣も奪われ、遂には新しい剣を買う金も尽きた…お前は私を貶める為に行動しているとしか思えん!!」


女騎士はそう言ってカズオから離れ、鞭を持って構え直す。


「上の者たちにはお前がオークであることは伏せている。お前を口封じされては情報を聞き出せんからな… さぁ! お前の目的を吐け! 誰の差し金だ!」


「だから、先程から言ってるようにあっしは、食料を買出しにきただけで、大層な目的も黒幕なんてものもありやしやせんぜ…」


何度も問われる目的に、カズオは正直に答える。


「嘘をつくな! ならば何故、オスのオークであるお前が化粧品を購入したり、お前たちが買っても意味のないカードゲームを購入しているのだ! どうせ、このカードの中に密書がしのばされているのであろう」


「いや、化粧品はあっしがその…もっと綺麗になる為に欲しかっただけで… カードに関しては、カローラ嬢に頼まれたもんですから…」


カズオはそう言って頬を染めてはにかむ。


「なに! カローラだと!? あの鮮血の夜の女王ヴァンパイアのカローラがお前の黒幕だというのか!! なんて事だ… そんな奴が相手では私一人では何もかもが足りない…くっ! 時間が無いというのに…」


 女騎士はカズオの口からカローラの名を聞いて、顔が蒼ざめ、そして、それに対処するための力や準備、時間が足りない事に、ガタガタと身体を震わせ、狼狽えて焦る。


「なんで、そんなに焦っているんでやすか? あっしが思うには旦那たちを相手にするなら、あんた一人で対処するのは無理だと思いやすぜ…軍に頼まないと…」


拷問されている立場のカズオであるが、あまりにも狼狽える姿が哀れなので声をかける。


「それでは駄目なのだ! お前たちが姫様への暗殺未遂襲撃事件を起こしたせいで… 護衛であった私の立場は非常に怪しくなっている… だから、早急に私一人で手柄を上げなくてはならないのだ…」


そう言って女騎士は悲壮な顔をして、目を伏せる。


「いや…旦那は姫様を襲撃したのではなく夜這いをかけたそうですぜ…」


カズオの言葉に女騎士は目を丸くして顔を上げ、カズオの顔を見る。


「なんだと! 私は元勇者の仲間に化けた暗殺者が姫の命を狙いに来たと聞いていたが…」


女騎士の手が恐怖と焦りにわなわなと震える。


「カミラル様は年の離れた妹であるティーナ様を、それは大層可愛がっておられたから、暗殺未遂と聞いて、あんなにお怒りになっていたと思っていたが… もし穢されそうになったと言う事であれば、その事を知った者は口封じされてもおかしくない…」


 女騎士はカミラルの妹思いの行動を想像してか、カタカタと歯を震わせながら、自らの両手で、かきむしる様に両腕を抱く。


「いや、シュリの姉さんの話では、夜這いは未遂ではなく完遂と仰っていたので…その姫さんは穢されそうになったのではなく…穢されてやすね…」


「そ、そんな事を知ってしまえば、わ、私どころか一族郎党までも口封じに、さ、されるではないか…」


 女騎士はカズオの言葉に、更に大きく目を見開いたかと思うと、そのまま白目をむいて崩れ落ちる。



「カズオ! 無事か!」


階段の方から、カズオを呼ぶ声がする。


「もしかして、旦那? 旦那ですかい!?」


カズオがその声に返すと、変装したイチローの姿が現れる。


「どうやら、睡眠魔法が効いたようだな」


イチローは足元に転がる女騎士を見下ろしす。


「いや、普通に失神したかもしれやせんぜ。白目むいてやしたし」


「それより、カズオ! お前、目立ち過ぎなんだよ! 酒場の全員がお前の話しかしてなかったぞ!」


イチローは壁に吊るされたカズオに怒鳴る。


「えっ!? あっしはそんなに注目されていたんですかい?」


カズオは頬を染める。


「悪目立ちしてたって言ってんだよ! それより、ちょっと大人しくしてろ」


 そう言ってイチローはカズオに近づき、カズオの手枷を恐らく衛兵から奪ったであろう鍵を使って解除していく。


「あ、ありがとうごぜいやす。その変装もいけてやすぜ、旦那」


 カズオは自由になった両腕を確かめた後、はだけた胸元に気が付き、再び頬を染めながら胸元を隠す。


「おまっ! なんで頬染めながら胸隠してんだ! 普段は出しっ放しだろうが! それに何乳首まで…そんなおぼこみたいな色に染めてんだよ…  うわぁ… サブいぼが出て来た…」


「だって…ナギサさんとホノカさんは白粉しか塗ってくれませんでしたから、自分で化粧品買って染めたんでやす…」


そう言って、カズオははにかむ。


「おまっ…それで街で化粧品買っていたのか… マジ、身体全身にサブいぼが出て来たわ… まぁいい、カズオ。みんな心配しているから帰るぞ」


「へい、旦那!」


 二人は立ち去ろうとするが、イチローはうつ伏せに倒れている女騎士に気を止め、上向きにひっくり返す。


「あっ、やっぱあの時の女騎士か…」


イチローはその顔を見て一連の女騎士であると確認する。


「旦那、そのぅ… 馬車内の安寧の為にも、連れて帰りやすか?」


「ん?いや、いらん。俺は女をさらってまでやる外道じゃないぞ」


イチローは以外にもさらりと断わる。


「自覚がないっていうのは…」


「あ?」


「いや、なんでもありやせん…」


イチローは女騎士の側にしゃがみ込み、んーと考え始める。


「おい、カズオ。こいつの鎧を剥げ。鎧を持ち帰るぞ」


「は?」


「いやな、こいつポチが武器を奪っていったら、どんどん武器のグレードが落ちていったからな、次は鎧の場合どうなるかと思うと面白くないか?」


イチローはニタニタした顔で説明する。


「やはり、旦那は外道ですぜ…」


「うるせぇ! さっさと剥げ! それでなくてもお前のせいで時間かかってんだぞ!」


「わ、分かりやした! 旦那! 済まねぇ…女騎士さん…恨まないでくれ…」


女騎士の実情を聞いて、同情しているカズオは憐憫に思いながら鎧を剥いでいく。


「よし、鎧も剥いだし、荷物も持った。カズオ、お前にも隠蔽魔法かけてやるからさっさと馬車に戻るぞ」


こうして、イチローはカズオを助け出し、馬車へと戻っていった。



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