第14話 忘れかけていた目的
「あぁ、食った食った、うまかった~」
俺は満腹になった腹をパンパンと叩く。
「そう言って頂けますと幸いですぜ、旦那」
カズオは微笑んで答える。
「でも、ちょっと変わったハンバーグだったな…」
美味かったが、ハンバーグの中に何かねっとりとした食感があった。
「あっ 分かりやす?」
「なんか特殊なのか?」
俺はカズオに向き直り訊ねる。
「へい、入っているのが分からない様にレバーが入ってやす」
「えっ!? レバー入ってるの!」
俺が返事する前にカローラが目を丸くして声を出す。
「カローラ、なんでお前が驚くんだよ。お前んとこのレシピだろ?」
「いや、私…レバー嫌いなんです…」
カローラは目を伏せる。
「俺も嫌いだけど、お前ヴァンパイアだろ? 血の気の多いレバー嫌いなのか?」
「ヴァンパイアにとって身体に良いと言われているんですが…匂いや食感が苦手で…」
あぁ、なるほど…こいつ、あの骨メイド達に気を使われているのか…
って、まんまお子様対応だな… こいつ、幼女になる前からお子様対応だったのか…
「そもそも、私、外食が多いですから」
そこで、俺は頭を捻る。外食?ヴァンパイアが? ん?
「お前… 外食って… それ、外で人の血を吸ってるだけじゃねぇか!」
「だから、固形物が苦手なんですよ…」
ホント、ジュースは好きでご飯は嫌いみたいな子供だな…
「二人とも好き嫌いはいかんぞ そもそも、生き物はハラワタが美味いのではないか」
そんなやり取りをしている、俺とカローラにシュリが口を突っ込んでくる。
「いや、ドラゴン基準で言うなよ… そう言えばシュリ」
「なんじゃ?主様」
シュルは首を傾げる。
「お前、よく見ないと人化出来ないと言っていたけど、最初のその姿はどうやったんだよ」
「あぁ、この姿か… 昔、わらわに生贄として捧げられた娘の姿じゃ…まぁ、髪の色はわらわの好みに変えておるが」
そう言って、シュリは自分の手や髪を確かめる様に見る。
ん~その娘がどうなったか、知りたいような…知りたくないような… まぁ、今は保留だ。
「それより、旦那ぁ これから、どうするんでやす? このまま、この城で面白おかしく過ごすんですかい?」
フリフリエプロン姿のカズオが訊いてくる。ってか、まだそれ脱いで無かったのかよ…
「えっ? ここで居候生活をするつもりなんですか?」
カローラが声をあげる。
「あ?」
「なんでもありません。どうぞ好きなだけお過ごし下さい…」
俺の威圧にカローラは押し黙る。
「もともと、俺には目的があるんだが…」
そう言って、食堂にいるメンバーを見渡す。
ハイオーク、ドラゴン幼少女、ヴァンパイア幼女…で、奥で骨付き肉を食ってるフェンリル…あの骨付き肉美味そうだなぁ… ちょっと、俺も欲しい… まぁ、それは今度だ。
この面子で行けるのか? なんか、幼女率が高いので単なる変質者に思われる可能性も高いが… シュリはドラゴンの姿に戻れるから良いとして、カローラは元の姿から変わって、今は幼女だからなぁ…
「おい、カローラ」
俺はカローラに声をかける。
「はい、なんでしょう?イチロー様」
「元のエロピッチピチの大人バージョンに一時的にも戻れるか?」
俺の言葉にカローラはビクリと肩を震わす。そして元々白い顔を更に青白くさせていく。
「あ、あ、あの… そ、そ、その… そ、存在…マテリアルが…欠乏して…おりますので…む…む…無理です…」
カローラはしどろもどろになりながら答えて、奥歯をカタカタ鳴らし始める。
って、何だよ…俺は強制しているんじゃなくて、ただ聞いているだけなんだから、そんなにビビんなくてもいいだろ…
「じゃあ、今のお前で、何かヴァンパイアらしい事はできるか?」
「血が飲めます」
「それは人でもやればできるな」
「日に焼けます」
「なんか日焼けに弱いみたいな言い方だな… 他には?」
「聖水で死ねます」
「…んー 日焼けと聖水でヴァンパイアである事は証明できるか… でも、幼女だしな…」
まぁ、カズオ、シュリ、ポチ、カローラまとめれば大丈夫だろう…
「おっし! 俺の目標というか本来の目的を言うぞ! 俺の本来の目的は、手柄をあげて勇者として認められ、勇者特権を得る事だ」
俺は皆に告げる。
「主様よ、それでは我々は主様の手柄という訳か?」
シュリが少し不安げな表情で訊ねてくる。
「そうだな」
「えぇ!? では、あっしら、人間に捕虜として引き渡されるんですかい!? そ、それで、地下の牢獄に囚われて、女騎士たちに様々な責め苦を受けるとか…」
そう言ってカズオは小娘の様に震える。
「おまっ、誰がオークにそんな事やりたがるんだよ! しかも拷問をするのがなんで女騎士なんだよっ! 普通、逆だろ逆! って、まぁお前らは俺の子分だ。引き渡しはせず、出来るだけ俺の手元においてやるから安心しろ」
俺は安心させる様にそう告げる。
「でも、私としては、強引に身柄を拘束される可能性があるのなら、ここで一生ぐーたらして頂いてもよろしいのですが…」
それでも不安げにカローラが言う
「俺がよろしくないんだよ! こんなまともな女のいない所での禁欲生活、もう限界なんだ! もはや俺のエロスのハードルが下がってきて、この際、ロリやクソ穴もいいんじゃないかと思い始めている…」
「「「ひぃっ!!」」」
俺の切羽詰まった言葉に、シュリ、カローラ、カズオの三人が鋭い悲鳴をあげる…って、なんでカズオまで悲鳴あげてんだよ…おめぇはねぇから、おめぇは…
「わう!」
向こうではポチが俺の様子に気が付いて、しっぽをパタパタ振っている…やべぇ…マジやべぇ…ポチもアリかと思い始めている…
そう考えているとまず始めにシュリが口を開く。
「わ、分かったぞ! あ、主様! わらわも一肌…いや協力するぞ! わらわ達を手柄とするがよいぞ!」
「まぁ、シュリが一番協力してもらいやすいな。ドラゴンになってもらうだけだし」
次にカローラ。
「わ、私もヴァンパイアである事を証明する為なら、日焼けぐらい我慢します!」
「カローラは、引き籠りが外に出ても良いみたいな言い方だな…」
最後にカズオ。
「あ、あっしも…パ、パンに操を立てているんでケツはお貸しできませんが、女騎士の責め苦ぐらい我慢しやす!」
「パンに操って…あぁ、あの時、ケツに刺したパンの事か…あのパンはお前が食ったじゃねぇか! それになんで拷問人が女騎士なんだよ!」
「ひぃぃっ!! では、どうしてもあっしのケツを!?」
そう言ってカズオは両手でケツを隠す。
「いらんわ!! それは人として…いや男として…越えてはならん最後の一線だ…」
「主様…男としての尊厳が、人としての良心より優先されているのはどうかと思うが…」
シュリが突っ込みを入れてくる。
「その尊厳やら良心やらが崩壊しそうなので、さっさと勇者特権を取り戻して、欲求不満を解消せねばならんのだ…分かるよな?」
「あい分かった、主様。それで具体的にはどうするのじゃ?」
シュリが訊いてくる
「カローラ、ここの近くの王国はどこになる?」
「あっはい、ここの近くですと、イアピース王国になりますね。ちょっとお待ちください」
カローラはそう言って近くの骨メイドに地図を持ってくるように指示する。暫くして、骨メイドが地図を持ってきて、俺達の前に広げる。
「ここが私達の今いる城です。そして、この道を辿って南下したのがイアピースです。地図上では北側のウリクリ王国の方が近いですが、山脈続きですので時間的にはイアピースの方が近いです」
カローラは地図の上に指を這わせながら説明する。
「この城、直ぐ近くに街道があるんだな…」
「えぇ、もともとこの城はイアピース王国の王族が隠居後、使用していた別荘の様なものですから」
「首都近辺ではなく、こんな国境ギリギリの辺境に?」
「…はい… 享楽に耽る為の別荘だとか… なので、私が制圧した時に、隠居した元王族によって殺害された者たちに歓迎されました」
あぁ…なるほど、それであの骨メイドたちはカローラに献身的なのか…
「しかし、それでも結構、距離があるな…」
「それでしたら、ここの王族が使っていた馬車がございますが、それを使いますか?」
「おぉ! いいなそれ! 持って来いだ! じゃあ、イアピースの首都に向けての準備を始めるぞ!!」
俺の勇者特権を取り戻す日は近い。
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