ジョブワールド~全ての職業を極めし者~

MIZAWA

第1話 ジョブワールド

 畑仕事はとてつもなく簡単な訳ではない、ひたすら土との睨めっこだったり、どんな肥料をまけばいいのか悩まさされるものだ。


 そんな俺にいつしかジョブがつくようになった。

 ジョブとは職業という意味で、人は人生の中で1つだけジョブに目覚めるとされる。

 

「農家のジョブか、いたって簡単なジョブだけど、家族を養っていけるだけなら大丈夫かな」


 今年で15歳になる俺はカゴに沢山の野菜を詰めて村はずれの自宅に帰る事にした。


 家にたどり着くと、そこには母親と弟と妹が料理を作っていた。


「あら、野菜を持ってきてくれたのね、テンマ」

「はい、持ってきましたよ、お前らもご苦労だな」

「テンマ兄ちゃんはいつもいい野菜を選んでくれるから最高だぜ」

「お兄ちゃんすごい」


 この家庭には父親の存在がない。

 それは俺が5歳の頃に家を出て行ったからだ。

 何かを調べると言っていたそうだ。

 いつか父親が戻ってくると信じている母親は今では目じりにしわがよりはじめていた。


「いっただきまーす」

「いただきます」

「いただきー」

「いただくの」


 4名の家族は深い森の中にまるで隠れるようにして生活していた。

 どこにでもいる普通の家族だった。

 裕福ではないが幸せであった。

 

 次の瞬間、母親の頭が右から左にころころと転がっていった。

 弟が真上に吹き飛び、妹が粉々になった。

 俺は冷静になろうとしていたが、俺も吹き飛ばされていた。


 俺は建物の瓦礫に埋もれてしまった。

 その隙間から弟の頭を掴む恐ろしい奴がいた。


 暗黒の兜を身に着け、暗黒の鎧で体を包んでいた。

 右の隣には牙が地面にまで到達するのではないかと思える程の女がいた。

 左の隣には全身が毛むくじゃらで、まるで狼人間のような男がいた。

 

 3人はげらげら笑いながら、動かなくなった弟の体をボールのように蹴とばした。

 

「ったく、雑魚だね、雑魚、10人の闇の剣が1人暗黒騎士ザファー殿はこんな雑魚相手にはるばる遠征した事に文句はないんかねぇ?」


 女はねちっこく暗黒騎士ザファーに訪ねていた。

 10人の闇の剣は聞いたことがある。世界を破滅させる為に結成されたメンバーたちだそうだ。


「そうだな、だが1人足りない、ジェスファ、シシジャ、お前たちが暴れるから死体がぐちゃぐちゃだぞ」


 ジェスファと呼ばれた牙の長い女は突如として震えだした。

 先ほどまで頷いていた暗黒騎士ザファーの殺気だった。

 シシジャは震えているし、まるで怯えた子犬のようだった。


 俺の体にも殺気が覆ってくる。

 なぜか俺はこの殺気に耐える事が出来た。


「まぁいい、ジェスファ、シシジャ行くぞ、リーダーが遥か遠いい場所でお待ちだ。異常職の輩はおそらく殺すことが出来ただろう」


 暗黒騎士ザファーの周りで黒い煙が立ち上がる。

 吸血鬼のような女ジェスファと狼人間のような男シシジャはそこから消滅した。


 俺は殺気そのものが遥か遠いい場所になくなるのを感じると、瓦礫をどけて立ち上がった。


 弟の死体はぐちゃぐちゃではあるが頭だけは綺麗に残っていた。

 妹は肉の破片となり、破片を集めた。

 母親の頭と体を回収して、家の後ろにお墓を作った。


 涙を流しながら、憎悪と復讐が心を支配していく中。

 俺はどうしたらいいのだと何度も何度も自問自答した。

 あの暗黒騎士ザファーを殺さないといけない。

 だけど人を殺すという事はいけない事だと母親がいつも言っていた。


 どんなに恨みを持とうと相手を殺してはいけないと。 

 どんな理由があれ、人を殺すということは地獄に行くということを母親は熱く説明してくれた。


「でもなぁ、母さん、俺は許せないんだ。意味も分からず家族を皆殺しにされて、俺はどうしたらいい、俺はどうやってこの怒りを抑えればいい、どうせ俺は弱いんだ」


「それは、お主が勝手に決めたルールという法則だよ、この世界は色々な法則になっている。人を殺したからと言って地獄に行く訳ではない、何がどうして、何が結論を導き、何がそうなるのかによって地獄が決まる。または天国が決まる。そもそも地獄も天国もあるのだろうか? だからわしはお主に思うがままに生きてほしい、お主の父親からお前達を保護するように言われたが、遅かったようじゃな」


 そこには一人の爺さんがいた。

 だが弱弱しく腰を曲げるような爺さんではない、逞しく立派に背筋を伸ばして、右手と左手を剣の柄にあて、まっすぐと剣を地面に突き立ている。


「お主強くなりたくないか」


 俺はその時、この時の為に俺はここに生きているのだと悟った。

 死ぬことが怖くない人なんていないと思う。

 俺も今死ぬことがとてつもなく怖くないんだ。

 だけど大事な人や痛みが苦痛に感じると、人は死にたくないと思う。


「はい、あなたの名前は、それと父さんは生きているのですか」

「わしは職業騎士と呼ばれる仕事をしている、いわば軍人で階級が高い奴らの事を言う。それとお主の父上は生きている。よかったな本当の意味で一人ぼっちにならなくて」


「はい、父さんと会えるのですか」

「ここにはおらぬ、お主の父上はとてもお忙しい方だ。さて、ここにいるとまた闇の剣が戻ってこぬとも限らぬ、ゆくぞ」


 その後、俺は無我夢中で職業騎士の老人についていった。

 彼は自分自身の名前の事を告げなかった。

 彼も俺の名前を尋ねる事はしなかった。

 ひたすら歩き続けた。森を抜けると草原にたどり着いた。

 ここまでなら来た事があるが、その先に広がる空を上る滝の向こうに行ったことがない。


 この世界は理不尽だ。

 まるで信じられない光景を見せてくる。

 父親と母親は空に昇る滝の向こうに行くなと言った。

 そこには恐ろしいモンスター達がいて、それを狩るジョブ使い達がいると。


 彼らはたくみにジョブを使用して戦うそうだ。

 

「どうした。腰を抜かしたか」


 爺さんはこちらをじっと見ていた。 

 鋭い目つきはどことなくトカゲや蛇のように見えた。


「行くからな」


「よろしい、しっかりと掴まっていろ」


 俺は職業騎士の老人の右肩を掴んだ。

 そのまま彼は移動をはじめ、地面の土から湧き出る水が空に向かって滝のように上る。


「これは遥か昔魔法系のジョブになった奴が永遠とも思える魔力を使って作った芸術作品そのものだよ」

「そんな歴史があったんですね」


「じゃが、歴史は覆るものじゃて、さぁ目を開けろ」


 いつの間にか職業騎士の老人はあっという間に空昇滝から脱出していた。

 不思議なのは全身が濡れていなかった事だ。


「わしを見てどうする」


 俺は後ろを振り返った。

 そこに広がる世界に絶句してしまった。

 空には無数のドラゴン達が飛翔している。

 見たこともない怪物がそこら中にいる。

 ところどころに飾りのようにある森、さらには見たこともない建物。


 空に浮いている建物まであるし、ぐちゃぐちゃなその世界を。


「ここがジョブマックス学校、お前はここで自分のジョブを鍛えるのじゃよ、わしは忙しいのでな自力で強くなれ」

「で、でも俺が父さんから聞いた空昇滝から出ると恐ろしいモンスターばかりで、こんな学校はないって」


「そうじゃな、あの滝が導く先は化け物たちがいる場所だ。しかし目的があったり許可の許しがあると自分の生きたい所に出る事が出来るのじゃよ」


「そのような原理が」


 その時だった。5人のドワーフがやってきた。

 先ほどまでそこには何もいなかったのにまるでテレポートしているかのようだ。

 と思ったが地面の中から現れたようだ。


「これはこれは、職業騎士様、彼がそうですね」


「ああそうだ、汚らしいドワーフ目さっさといけ」


「相変わらずわしらの事を汚らしいとは、失礼にもほどがあるのう、ではテンマ・サルファルドよジョブマックス学校に入学を許すと校長が言っていた」

「ついてくるといいね、ドワーフを嫌う奴らが多い、テンマへ近づく野次馬達を追い払うことが出来るね」

「あまり緊張せなんでいい、わしらがガキの頃はびくびくとしていたもんじゃ」

「結局びびってんじゃねーかよ、まぁわしらは5人兄弟のドワーフじゃがね、名前はねーぞ」

「欲しいともおもわんねんなぁ」


「なぁ、こいつらどうすれば……」

 

 後ろを振り返ると職業騎士の老人はいなくなっていた。

 まるで煙のように消滅した彼を、俺は何か名残惜しそうに見ていた。

 その先には許可があればつながるとされる空昇滝が永遠と空に向かって水を落としていた。


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